第74話 外国人がキターヨ!

 現在〈祈願受付け〉と書かれた建物の近くで、神社の掃除をしている。


 現在時刻は17:30頃


 参拝者も少なくなり、あまり迷惑にならないよう、竹箒を使い掃除している。

 紫袴の聖職者から、貴様には神社の掃除をさせるとの事で、俺は強制労働をさせられている。


 神社の弓道場を使わせてもらっている立場上、断ることが難しく、結局掃除しているのだ。

 ちなみに袴姿に着替えろとの事だったので、上は白い弓道衣、下は薄い緑色の袴に着替えた。


 神社内を忙しく竹箒で掃いていく。

 近くのベンチには今日の練習を終え、袴姿のまま矢野と榊󠄀原が座っている。


 本人たちいわく、晩御飯までの暇潰しらしい。

 榊原がウキウキとした様子で、俺に話かけてきた。


「なぁなぁ、先生!! 掃いてて楽しいか?」

「楽しくはない、でも得意ではある」

「だよなぁ〜あたしも、見てて楽しいんだよな!! 無駄がなくて、リズミカルだし。そう思うよな、矢野?」

「ええ。確かに、不思議な魅力は感じるわね」

「……そりゃどうも」


 石と砂利が複合したような地面を、せっせと竹箒で掃いていく。

 やはり俺は肉体労働が得意らしい。


(よしよし、人がいなくなったな)


〈シャッシャッシャッシャッー〉


 なんだが、力が湧いてくる。

 この感覚———きたきたきた!!


(建設作業員時代の、溢れ出るパワー!!)


「なんか、後藤先生の動き、すげぇな!! あのスピード!!」

「ええ……あら? あれは、藤原先輩ね。なんだか、人を連れてるわね」

「ん? あぁ~ホントだ。あの社交性は、ほんとすげぇと思うぜ!! でも先生は、気がついてないみたいだな」


(掃く!! ひたすら掃く!!)


〈シャッシャッシャッシャッシャッ!!〉


 俺は一心不乱に、掃除をしていく。


(おりゃぁぁぁぁ! 俺は美装屋だぜ!!)


 隅々まで掃除をし、顔を上げたその瞬間———

 俺の目の前には、大勢の外国人観光客らしき人達が歓声をあげ、大きな拍手をしている。


(え? まじ?)

 

「イェーイ!! イッツベリー、ファンタスティック!! サムライ!!」

「WoW! perfect、clean!! delicious!」

「凄イデスネ! 人類ニハ早スギタ動キナンデェス!!」


 何だかよくわからないが、えらく興奮しているようだ。俺はひとまずその場の雰囲気に合わせて、決め台詞を言ってみた。


「シャホウハッセツ!! ハッシャカイ!!」


 俺のオーバーリアクションとその言葉に、外国人の人たちは、飛び跳ねながら喜んでいる。


(なんだがよくわからんが、とりあえず伝わったようだな。ん?)


「ニャニャニャニャ! あいあむ忍者!!」


 気がつけば、藤原が袴姿で何やら不思議なダンスを踊り始めた。

 外国人達は、藤原を忍者と勘違いしているようで、その喜びは有頂天だ。


 にしても、その藤原のダンスは踊りというより、パフォーマンスに近い。謎の身体能力は相変わらずである。

 ベンチに座っている榊󠄀原は、なんだか楽しそうにしているが、矢野は無関心といった様子だ。


(よし、帰ろう。藤原なら、たぶん放置しておいても大丈夫だろう)


 俺はその場を藤原に任せ、竹箒を持ったままその場を離れた。

〈本殿・拝殿〉と書かれた建物の前を通り、廻廊を歩き始める。


(げ、あれは聖職者だ……マズいか!?)


 なるべく平常心を保ちつつ、ポーカーフェイスですれ違う作戦をたてた。

 そして、妖狐の父親とすれ違う直前———


「第2関門を突破とする」


「え? あ、はい」


 無表情のまま、それだけ告げると、シャリシャリと音を鳴らしながら去っていった。


(いったい、俺はいつまで試されるのだろうか?)


 俺は肝を冷やしながら、その廻廊を進み始めるのだった。




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