第73話 クルセイダーの呪い
謎の試練を突破した俺は、弓道場へと戻っていた。
昼頃から矢野と榊原、そして藤原も合流し、射場で射込み稽古をしている。
俺はその光景を、矢取り道から見ていた。
―――――カシュ――カシュ―
――パーン!―――パーン!
「疲れてきているようだけど、まだ余裕がありそうだな」
今回の合宿のテーマは「矢を射ちまくる」といったテーマである。
初日の目標は60本、日曜日は100本。
そして最終日である月曜日には『立』をする予定だ。
基本的に学校が終わってからは、大体40本、弓を引いている。
季節や時期によって射る矢数の本数は変化するが、100本という数字は、かなり引いている方になる。
合宿とはいえ、朝から晩まで一日かけて弓を引き、ご飯を食べて寝る。
ただそれだけである。ただし、今回は妹尾直属の使用人部隊はいない。
5人でローテーションを組み、交互に矢取りをしていく。
妹尾と妖狐は午前中から弓を引いていた事もあり、先程の矢取りで60本を引き終える。
残る3人でローテーションを組みながら、目標の数になるまで、行射をしていく。
疲れた様子で、練習を終えた2人が道場から出てくる。
妹尾は不機嫌そうな表情で、俺の方へと近寄ってきた。
「はぁ〜疲れましたわ。先生、明日は100本引くとの事ですけど、射が悪くなったり、壊れたりしませんの?」
「そうだな、多分後半戦はかなりしんどいと思う。妹尾の言うように、射は悪くなるね」
「それが分かってて、なぜ引かなければなりませんの?」
何故と言われれば、少し返答に困ってしまうのだが……合宿を通じて俺が見たいものは、チームを組んで弓を引く『立』である。
合宿最終日に『立』をする予定だが、弓を引く筋肉が疲労している状態で、どこまで集中出来るのか。
おそらく弓を引く部分の筋肉が、筋肉痛になっていたり、弓を握る手は痛かったりするだろう。
ただそういった状況で、中てれるかどうかが、今回のポイントである。
それにこのプチ合宿が終われば、インターハイに向けて、仮想空間がメインでの練習へと切り替えるつもりだ。
なので、別に問題ないと考えている。
要は、メンタルを知っておきたいのだ。
「まぁ、妖狐にとっては、強化合宿みたいなものかもしれないけどね」
「ふむ。なんだかよく分からぬが、妾はお主と一緒に居れるなら、それはそれでかまわぬ。なんなら、一緒に寝てやっても良いぞ?」
「ははは、それはちょっとーーゔ!?」
その時、俺の背筋が凍るような感覚となる。
それはとてつもなく冷たく、そして重い。
(なんだこの
周囲を見渡してみるも、その発信源は特定できない。
ただ再び妖狐が喋り始めると、その圧力は無くなった。
「なんじゃ? 急にキョロキョロと周囲を見渡して。誰かおるのか?」
「いない……だけどその、ほらココ、妖狐の実家じゃん? あまり両親が不安がるような事は、言わないほうがいいんじゃないか?」
「お主は心配性じゃの〜、この場に、妾の身内の姿は見えぬ。そう心配せずとも良い」
(いるんだよ……妖怪を見守る、
――――――カシュン――カシュカシュ
――パァーン――パァンパァン!
「俺、ちょっとお手洗い行ってくるわ……」
「わたくしも、少し水分補給ですわ」
妹尾は妖狐の言葉をまったく気にしていない様子で、レジャーシートが敷いてある、廻廊の方へと向かう。
俺は巻藁の前を通り抜け、道場から少し離れたトイレへと向かうのだが、なぜか妖狐が後ろからついてきている。
(流石に、生理現象を我慢しろとは言わないが、少し距離を置いて欲しいものだ。俺の生存確率を上げるために)
「のうのうお主、妾と手を繋いでみないか?」
「ゔぅ!? うーん、考えとく」
俺はふと思う、もし俺の事を見守る、守護者がいるのだとしたら。
仕事してください。
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