第62話 狐マンの破壊力

 狐マンの入部試験をするべく、俺は弓道場へとやって来た。

 玄関から入るなり、矢野と榊󠄀原が袴姿で練習しているようだ。


「あれ? 後藤先生、なんか顔が暗いぜ。失恋でもしたか?」

「バカね、先生に彼女が居るわけないでしょ?」

「おおーーそうだったなぁ!! わりぃわりぃ!」


 俺の顔を見るなり、とんでもない事を言い出す2人。

 矢野が先生と呼んでくれるようになったのは嬉しいが、相変わらず口は悪い。

 まあ、少しはマイルドになったかもだが。


(ん? 藤原と妹尾は来てないのか)


 俺はスマホを取り出すと、コミュニケーションツールを使い、連絡を確認する。


ーーーーーーー


おろちぃ

(お腹痛いから休むニャ!ゆるしてニャ!)


まんじゅう

(ディナーパーティがあるので、行ってきますわ。弓は家で引いときますわ!)


ーーーーーーー


(なるほど、そういう事ね)


 スマホをしまうと、矢野と榊󠄀原に入部試験をする事になったと伝える。

 2人は不思議そうな表情をしていたが、事情を説明すると、納得してもらえたようだ。


「確かに、大人数で来られても、この時期だと困るわね。全員弾いたら?」

「おおーそれは名案だな! もしくはハードな試験にして、全員落とすかだな! 200射引いたら合格なんてどうだ?」


(二人とも、無茶苦茶な事を言う)


 それに入部試験といっても、特に何も考えていない。

 まあ経験者なら、立をするのが無難かと思う。


(問題は、合格の基準だよな)


 そんな事を考えていると、道場の玄関、引き戸が〈ガラガラ〉と開いた。

 狐色の髪をした少女、狐マンの登場である。

 靴を脱ぎ、ひょこっと射場へと入ってきた。


「ふむ、なかなか綺麗にしておるではないか。関心したぞ。ところで、更衣室はどこじゃ?」

「そこの部屋だよ」

「そうか、準備するから、待っておるがいい」


 俺が更衣室を指差すなり、その中に入っていく。

 すると狐マンは扉も閉めず、制服を脱ぎ始める。

 矢野が驚いたように、狐マンに声をかけた。


「ちょっと、扉くらい閉めなさいよ。あんたのストリップショーなんて見たくないわ」

「なんじゃ、見たくないなら見なければよかろう。どれ、そちより胸があるからと。嫉妬しておるのか?」


(まずい!! 逃げろ!!)


 俺はすぐさま射場から出ると、外へと避難する。

 榊󠄀原も、避難してきたようだ。

 射場から、矢野の怒る声が響いてくる。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!? 何よあんた!? もう試験は不合格!! 帰れぇぇぇぇ!!」

「うるさいのう、小さくないと申すなら、見せてみるがよい。どれ?」

「さわるなぁぁぁぁぁぁ!!」


 榊󠄀原が自分の胸を見つめながら、何かを考えているようだ。

 俺はため息をつくと、北門へと向かって歩き出す。


「あれ、先生どっかいくのか?」

「あぁ、チャージしてくるわ。それくらいの時間はありそうだからな」


そう言って俺は、北門へと向かった———



 学校の敷地外へと出ると、電子タバコを口に咥える。


「フウゥゥゥゥー」


 あの狐マンが、どれほどの腕なのかは分からない。

 だがここに来て、問題児が増えるのは正直避けたい。


「だけど、もし実力があるとすれば」


 俺が道路を眺めていると、狐のような姿をした野良犬が、テクテクと歩いていた。その動物は俺の方を見るなり、その場に座ると「ニャ~〜」と鳴いた。


「君は、何者だい?」


 俺がタバコを吸い終わるまで、その不思議な生き物は、何故かそこに居続けた。

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