第2部

新たな問題児、巫女娘登場

第61話 狐色の髪、和風な少女

 初夏を迎えた7月の上旬頃。エアコンが稼働している職員室内で、俺は部活に関する書類、入部届けを眺めていた。現在は下校時刻である。


 高校弓道選抜大会を終え、TV局から盛大にとりあげられた事から、学年問わず、弓道部に入部希望者が殺到した。 

 1、2年生に絞っても、入部希望者は10名程。正直、この人数の部員の面倒を見る気力はない。

 それに、インターハイを控えた部員達を教えてやりたいので、このタイミングで面倒な労力も割きたくない。


 インターハイの開催は8月上旬。その期間まで、残りは約1ヶ月となる。


 高校弓道選抜大会が終わり、インターハイに向けた練習に集中しようと思っていたのだが、どうやらその考えは甘かったようだ。


「なにか、入部を遠慮してもらうための、いい方法はないだろうか」


 そんな事を考えていると、中年くらいのおっさんが、俺に声をかけてきた。


「後藤先生、先生を尋ねてきた生徒が来ましたけど?」

「え? 分かりました」


(このおっさん、誰だっけ。確か、山……山太郎? 忘れたわ)


 俺は名前を忘れたそのおっさんに言われ、席を立ち上がる。

 職員室の入口へと向かうと、そこで待っていた生徒に声をかけた。

 狐色の髪をした、少し和風な雰囲気を持つその少女は、突然ペロりと口角をなめる。


(なんか変わった仕草だな……)


「俺が後藤だけど、なにか用かい?」

「お主が弓道部の顧問じゃな? わらわの入部届け、まだ返事をもらっておらぬが。お主はちゃんと仕事をしておるのか?」

「えーっと、だれかな?」

「なんと……この妾の事を知らぬと申すか! さてはお主、仕事をサボっておるな? それに、その髪は変ぞ?」


(やめて! こんな子、絶対嫌!)


 少し小柄で、ボブっぽい髪型をしている。毛が外ハネしているのが特徴的だ。

 独特な雰囲気を放っているその少女は、黙っていれば可愛らしい雰囲気はある。黙っていればな。


 俺はとっさに、ある事を思いつき、その少女に伝える。


「えっと。入部希望者が多いから、入部試験を考えててね。それで返事が遅くなったんだよ」

「ほぅ、入部試験とな? ずいぶんと殿様商売をする奴よの。ここは学校ぞ?」

「……そうっすね」


 この子が言っている事は正しいのかもしれない。

 でも殿様商売ってのは、なんか意味違わない?


 すると、その狐色の髪をした少女は、入部試験はいつだと俺に問いただす。

 少し考えたのち、明日と伝えた。そしたら———


「明日とな? もう妾は待ちきれぬ。今すぐやってはくれぬか? 道具も持ってきておるのだ」

「道具って事は、君は経験者かい?」

「はぁ。入部届けにも、そう書いておったろ? 面倒くさい男じゃ。納射では、あんなにも素晴らしい弓を引くというのにの〜」

「はい! 今からやりましょう!」


 その少女は不機嫌な様子で返事をすると、道具を持っていくので、先に弓道場で待っていてくれ、との事。

 なんでだろうか、嫌な予感しかしない。


「あの子の名前は、とりあえず狐マンとしよう」


 俺は机の元へと戻ると、ショルダーバッグに入部届けをしまい、その場を後にするべく、席を離れる。

 去り際に、山太郎先生が、俺に声をかけてきた。


「あれ? 後藤先生、なんか元気ないですね?」

「えぇ……どうやらまた、問題児のようです」

「へっ?」


 俺はそのおっさん、山太郎先生と言葉を交わすと、弓道場へと向かう。


「インターハイを控えてんだけどな……はぁ」


 俺の頭の中には、何かがグルグルと回っていた。

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