第56話「激闘! 二人のエース」

 妹尾が光の霧となったあと、上杉は藤原の接近に気がつき、急ぎ西門へと身を隠す。

 その反応は素早く――動きは俊敏だった。


――――バシュン―――パス


「ッく、避けてみせる!」

「っちぃ!!」


 擁壁の上にいる藤原に対し、威嚇射撃をする。

 そのあと上杉は、西門から道場へと一気に駆け出す。


――バシュ!! ――カンッ


 その矢に藤原は一瞬足を止めるも、そのまま擁壁から飛び降り着地する。

 すぐさま追撃を開始した。


 光陽高校リーダー「上杉まお」

 真弓高校リーダー「藤原瞳」


 両者はリーダーであり、そしてライバル同士である。

 この決勝戦の行方は、その2人で争う事となる。


「逃がすものか!!」

「……!!」


 藤原は道場へと駆ける上杉に、矢を乱射する。


――――――バシュンバシュンバシュン!!

    ―――――カンッカンカン!!――


 だが、上杉はそれを弾くと、転がるように矢道へと逃げ込む。

 そのまま西側にある、看的小屋へと逃げ込んだ。


「ハァ…ハァ…くそっ! 看的小屋!」

「はぁ…はぁ…はぁ…残念ね」


 藤原は北側から道場に入ると、上杉から見た死角に身を隠し、息を整えている。

 互いに疲弊しているも、その身体を休めるため、しばらく硬直状態となる。


 そして2人は、過去を懐かしむように語り始めた――――


「はぁ…はぁ…相変わらず、そのレンズのない眼鏡をかけてるんだね」

「ハァ…ハァ…まぁな。これはもう、私の一部であるぞ?」

「いつまで……その眼鏡をかけるつもりなの?」

「それは……次を担う者が、現れた時だな。そうであろう?」


 2人の呼吸が、だんだんと整っていくのがわかる。

 すると上杉は少し悲しそうな声で、藤原に語りかけた。


「どうして。一緒に光陽高校に来てくれなかったの? あんなにも誘ったのに。どうして……真弓高校を選んだの? その高校は荒れてるし、弓道部だって……」

「クックックッ……それは前も言ったであろう? 私は、曲がった事が好きなのだ」


「とか言っちゃって。すぐに弓道FPSに、のめり込んだくせに……」

「………面白いものを、楽しまない理由はないだろう? それに、結果として今、ここで戦っているのだ。実に運が良いぞ、私はな」



(藤原に部活に復帰するように聞いてみたとき、あっけなく了承したのは……選手が集まるのを、待っていたのか?)



「……まぁ、だから後輩達をインターハイに連れて行ってやらねばならんのだ。悪いが、今回は勝たせてもらうぞ―――まお!」

「そう、わかった―――瞳、いくよ!!」


 その言葉を聞いた上杉の声には、もう悲しみは感じない。

 2人は同時に動き出すと、矢を射る。


――――『その距離――――――

        ――28メートル!!』――

 

――――――バシュンバシュンバシュン!

――ターン! ターン! ッバシュン――


―――――――バシュ!! バシュバシュ!

      ―――――ターン! タンタン!


 射場と的場、双方から多数の矢を射ち合い

無数に交差する矢が、激しくぶつかり合う。

 それはまるで、銃撃戦をしているかのように、動き回っては、互いに射ち合う。


「く―――前より矢の速度がある!! 弓を変えたんだね! 大蛇だいじゃの藤原!!」

「そうだ!! 禿鷹コンドルのまお! おまえを射ち落とすためにな!!!」


――――――――バシュンバシュン!!

―――カンッカン!


―――――バシュンーバシュンッ!

     ――――――カンッカン!

 

 *


 その激しさのあまり、アリーナの観客席からは多くの人々が立ち上がる。

 皆それぞれ、ありったけの声を出しながら、その声はアリーナ会場を飛び交う。


「なんだあれ!!! 弓ってあんなに速く矢が飛ぶのかよ!!!」

「いけーーー!! 負けるなぁ!!!」

「キャーーー!! 頑張って〜〜!!」


 俺達は、その場を立ち上がり、ステージに向かって吠えた。


「いけぇぇぇぇぇぇぇ!! 狩りとれぇぇぇぇぇ!!」

「負けるなぁぁぁぁぁ!! 射ち落とせぇぇぇぇ!!」


 *


 互いにリロード時間となり、藤原はいったん射場の死角に身を隠す。

 対する上杉は、看的小屋を介し、矢取り道の頭上にある屋根へと登る。


「そのまま―――狩る!!」


 上杉は結んでいた髪ゴムを外すと、緑色の髪をなびかせる。

 そのまま道場の屋根に向かって駆け出した。


 リロード時間を終え、上杉は引き尺を大きくし、瓦の屋根ごと射場へと強引に矢を射ち込む。


――バシュンバシュンバシュン

  ―――パリィーンパリィンパリィン!!


 瓦が砕け散り、そのまま射場へと打ち込まれていく。


――ターンターンターン!!

    ―――バシュンバシュンバシュン!!


 藤原はそれを待っていたかのように、射場を大きく蛇行しながら屋根を狙い、射ち返す。


「ぐッっ……負けるものかぁ!!」


――――パリィンパリィン!! パリィン!


「はぁ!!」


 その禿鷹コンドルは、屋根から矢取り道の屋根へと、そして矢取り道の屋根から矢道へと、小さな身体を羽ばたかせ、俊敏に飛び移る。


 上杉が矢道へと着地した瞬間、その場所に向かって藤原が矢を射る。

 それと同時に、大蛇だいじゃは射場から大きく飛び出した。


「ここで!! 当てるぅぅぅ!」

「くぅッ!! はあぁぁぁ!!」


――――バシュンバシュン!!

       ―――カンッカンッ!


 上杉は弓で矢を弾くと、体勢を建て直し反撃するべく身構える。


――その距離『10メートル!!』――


 だが、上杉が矢をつがえた、その瞬間だった。

 その出来事に、上杉は一瞬だけ動きを止める。


「な!!?」


 その禿鷹コンドルに向けて、茶色いグローブのようなもの、すなわち『かけ』が飛んでくる。

 帯の部分は引き千切るようにして、短くなっていた。


 その『かけ』は、大蛇だいじゃの牙となるもの。

 だがその大蛇だいじゃは、親指を除く4本の指で弓を目一杯引くと、会に入る。


 そして―――


 上杉はすぐさま弓を引き分け、向かってくる藤原を狙う。

 その2人は同時に――『離れ』をする


――――バシュンッ――

――――バシュンッ――


 藤原の右手からは、赤い水滴が宙を舞う。

 互いの矢が交差するその瞬間――上杉の矢は『かけ』に触れ、わずかだがその軌道をそらす。


 藤原の側面を、上杉の矢が通り抜けた――それと同時に藤原の矢は――上杉に吸い込まれるかのようにして。


 その的を狙っている。


「嘘つき………真っ直ぐじゃない―――」


――――――パァーン――


 緑色の髪をした、その小さな少女は。

 やがて―――光の霧となった。




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