第55話「喰らいつけ! 大蛇の藤原」

 妹尾が光陽高校のリーダー、上杉と戦っている頃、藤原は東側で光陽高校2名の選手と戦っていた。


 ステージ東側の外壁の外では、光陽高校の選手2名が、真弓高校のリーダー藤原と矢の射ち合いをしていた。

 東門付近には藤原、北側の擁壁近辺に、岸田と佐藤だ。


――――バシュンバシュンバシュン!!

―――バシュンッ! ――バシュン!


 両校の選手は、矢を乱射するように射ち合いをしている。

 藤原の動きは加速しており、序盤と同じ2対1のはずだが、相手選手を押していた。

 対して光陽高校の選手、岸田と佐藤の動きは、鈍くなっていく。


「ニャーハッハハッハ! それそれ、どうしたニャ!? 動きが鈍いニャア!!」


 ジリジリと、藤原はその距離を詰めていく。

 岸田と佐藤は矢のリロード時間となると、擁壁の北側へと身を隠した。


「ニャッハッハハッハ! おマヌケさんニャ!! 2人同時に後退してどうするニャ!!」


 藤原はそのリロード時間を見計らい、その場から北上する。おそらく、勝負に出るつもりだ。

 リロード時間を終えた岸田と佐藤が、北の擁壁から飛び出すと同時に、おおよその見当をつけた矢を射る。


――バシュン! ――バシュンッ!


 だが、その先に藤原の姿はない。


「クックックッ!! どこを狙っている!! 私はここニャア!!!」


 藤原は、擁壁の上を走っているからだ。


 そこから、下にいる2人に向かって矢を乱れ射る。


――――――バシュンバシュンバシュン!!


 擁壁の上から放たれた矢が、光陽高校の選手に降り注ぐ。


――――パァーン!


 藤原の矢に中り、岸田が光りの霧となる。

 佐藤はその矢を避け、擁壁の上にいる藤原に、狙いをつけた。


―――バシュンッ!!


 的確な狙い、矢勢のある一本を射る。

 だが、その狙いが的確すぎるゆえ、藤原は楽々と避ける。


 すぐさま佐藤は、擁壁の北側へと身を隠し、矢をつがえる。

 藤原から見て、その選手は擁壁の影に隠れ、狙うことは不可能。

 だがそのような守りは『その蛇』には通用しない。

 何故なら奴は―――


 *


「葵、あの藤原って奴は、化け物か?」

「違うぜ、本城。あれは化け物なんかじゃねえ……」


(宇宙人なんだよ)


 *


 擁壁上を駆けりながら矢を手に持ち、弓を足元に突き立てる。

 大きくそり返るその弓は――そのしなりを介し。


 藤原の身体を大きく『飛翔』させる。


 藤原は矢をつがえ、親指を使わず、残りの4本の指で弦を引っ張ると――瞬時に会へと入る。

 その場から高く飛翔する事により、擁壁の盾は無力と化し、擁壁の北側に隠れるその的に狙いをつけた。


 引き尺はない、だが、斜面打ち起こしであるがゆえ、その引き尺がなくとも、勢いのある矢を放つには十分である。


―――――バシュン――


 藤原の放つ矢に対して、反応が遅れた佐藤は、あらがうことは出来ない。


――その距離『4メートル』


――――――パァーン!!


 矢筒ごとその敵を貫き、それは光の霧となる。藤原は擁壁の上に着地すると、そのまま西門をめがけて、走り出した。


「ハァ…ハァ……もう少しだけ、頑張るニャ!!」


 *


 アリーナの観客席から、猛烈な歓声が上がる。


「オオオオオオ!! なんだ今の!! すげぇぇぇぇぇ!!」

「いぇぇぇぇぇぇい!! 真弓高校ぉぉぉ!!」

「さすが!!! わたしの猫ちゃゃゃん!! ステキ〜〜〜!!」


 *


 このままいけば2対1、だが、やはり甘くはなかった。

 西門で戦う両校選手、だがその妹尾は幾度なく矢を弾き、防いだ事により体力に限界がきていた。


「はぁ……はぁ……こんのぉぉぉ!!!」


 光陽高校のリーダー、上杉は疲弊しつつも矢を放つ。

 妹尾は息を切らしながらも、その矢を弾くため弓を振るう。


――――――――バシュン!

――〈バキィィィ!!〉


 妹尾の弓はついにその衝撃に耐えきれず、折れ曲がる。

 飛散した木の破片が――妹尾の顔面を襲う。


 縛っていた髪ゴムは切れ、その顔にも切り傷を負う。

 だが上杉は――その隙を逃さない。  

 間髪入れずに、次の矢を放つ。


――――――――バシュン―!


 その矢が妹尾を貫く直前、水色の髪が散る汗とともに「フワリ」となびく――その視線は擁壁の上へと向けられ、紫色の髪をした少女を見つける。


 そして安堵したように微笑みながら。

 その少女は、静かに目を閉じた。


        ――――パァーンッ――

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