第54話「常識を振り払え、お嬢様!」

 妹尾は擁壁の上に着地した瞬間、矢筒から矢を抜く。

 そしてそのまま西門へと駆け出した。

 歯を食いしばりながらも、矢を弓につがえ、強引に引き分けていく。


 擁壁の角を曲がり、その光景を見ていた光陽高校のリーダーである上杉は、目を見開いていた。


「妹尾!? そうか……矢野が繋いだか!!!」


 妹尾の姿を見た藤原は、口角を上げ、西門へと突っ走る。

 矢をつがえ、弓構えた。


「何をしているの! そのまま北上して!! 早く!!!」


 リーダーの声を聞き、岸田と佐藤が急いで北へと走り出す。

 妹尾は擁壁の上から、下に居る相手選手に向けて、矢を射る。

 同時に、上杉はその場で引き分け、会に入ると、矢を放った。


――――バシュンッ! ――バシュ!

         バシーンッ!!―――


 妹尾の一射は、上杉の放った矢と接触し、空中で弾けた。

 続けてもう一本射ろうとした妹尾に、藤原は叫んだ。


「妹尾!! 今すぐそこから降りるニャ!!

そんなとこにいたら、いい的ニャ!!」


 西門へとたどり着いた藤原はそこから、擁壁の外へと飛び出し、北上していく相手選手を狙い射る。


―――バシュンッ!! ――バシュンッ!!

           ――――バシーンッ!


 だが藤原の射った矢は、上杉が放った矢と接触し、弾かれる。

 上杉は降りた妹尾の姿を確認すると、一時的に後退するべく指示を出す。


「いったん退くよ!! 体制を立て直すよ!!」

「こっちも後退ニャッ!」


 *


 アリーナの観客席からは、盛り上がる声が、聞こえてくる。


「ウオオォォ!! 今のすげー!! 矢が空中で弾けたぜぇぇぇぇ!!」

「あの緑色の髪をした選手!! 上杉って奴すげぇぇぇぇ!!」

「キャーーー!!!」


(なんだ? 本城が、笑っているのか?)


「クッハッハッハッハ!!! 残念だったなぁ!! これで3対2だぜ!」

「残念だった? それはこっちのセリフだよ、本城。まだこっちには2人の選手が残ってんだからな」


 俺は今、この試合を通じて、徐々に心が熱くなっているのを感じていた。


 *


 光陽高校の選手らは、いったん北門まで戻ると、そこで待機し周囲を警戒する。

 真弓高校は、擁壁から降りてきた妹尾が藤原と合流し、道場内へと向かう。


 再び硬直状態となったかと思われた。


 その時――道場から左右に、それぞれ藤原と妹尾が飛び出した。


「ニャッハッハ!! かかってくるニャ!!」


 それぞれ矢を北門に射ちながら、左右に別れた。


――――――バシュンバシュンバシュン

          ―――バシュンッ!


 藤原は東門へ、妹尾は西門へと駆け出す。

 それに反応した光陽高校は、再び二手に別れた。


「わざとらしいね……いくよ!! さっきと同じように攻めて!!」


 上杉は外壁の外を西門に向けて。

 佐藤と岸田は2人ペアで東門へと駆け出す。


(妹尾の奴、わざと乱射しているのか?)


 妹尾は西門から外に出ると、そのまま南下する。

 藤原は東門へと出ると、その場で矢をつがえた。


 *


「クッハッハ! あの藤原って選手は、学習してないみたいだな!! ウチの戦い方を、まだ理解してねぇみたいだなぁ!!」

「何いってんだ晃、ウチの藤原は、もうとっくに理解してるぜ?」


 そう、これはそれを理解したうえでの戦略。

 となれば、藤原は勝負にでる気だ!!


 *


 外壁より西側、弓構えをした上杉が、妹尾との距離を詰めていく。

 西門を中心とするならば。―――その距離、およそ30メートル!


「なに、あなたのその構え……勝負を諦めたの? でも、容赦しないよ!」


 妹尾は、矢をつがえず弓を槍のようにして構えている。

 そう。それはあいつの得意な、薙刀を持つスタイルだ。


―――――バシュ!! バシュンバシュン!!


 上杉が矢勢のある矢を乱射する。

 どうやら一気に決めるつもりらしい。


 だが――


――――ターンッ!

   ――――タンターン!!


 妹尾は弓を振り回し、その全てを見事なまでに弾いていく。

 そして威嚇するように、ゆっくりと上杉に近付いていく。


「な、弾かれた!? そう、なら至近距離で射る!!!」


 弾かれた矢に反応し、上杉は勢いよく駆け出すと、距離を詰めていく。

 妹尾は依然と、薙刀のように弓を構えている。


―――――その距離―――

      ――約10メートル!!――


――――――――バシュンバシュンバシュ!!

 ――ターン―――

    ――タンタンッ!!――


 勢いよく飛び出す矢をものともせず、全て弾き落としている。

 その妹尾の瞳は鋭く、真っ直ぐに上杉を睨んでいる。


「何よこいつ……それでも弓道家なの? 誇りはないのかぁぁぁ!!」


 上杉の声に、怒りがこもっている。

 そのリロード時間の隙を狙い、妹尾は弓を持ち替え、矢を乱射する。


――――バシュンバシュン!

           カンッカン!―――


 そして上杉のリロード時間が来ると、再び薙刀のように弓を構える。


「ふざけないでよ! なんなの!!」


―――――バシュンバシュンバシュン!

     ―――ターン! ターンターン!!


 ***


 アリーナから、歓声が上がる。


「オオオオオオオ!! あの構え!! すげぇはぇぇぇぇ!!」

「面白いなぁ!! いいぞ!! やれぇぇぇぇ!!」

「キャー!! お水ちゃゃん! 頑張ってぇぇぇ!」


 弓道の競技方法は変革している。

 昔の競技方法では邪道だと思われる行為であっても。

 罵られるような愚行であっても。


―――この時代、この弓道FPSでは


【最高に面白い、魅せ技となる】


「それがぁぁぁ!! 弓道FPSなんだよぉぉぉ!!」

「クッハッハ!! やるじゃねぇか! 面白いぜぇぇぇ!」



 その水色の髪を縛った少女は、土壇場でプライドを捨てる。

 とある黒髪の先輩に託された、その役割を。


――チームとして、真っ当するために――


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