第53話「託された背中」
試合開始の合図を終え、両校がそれぞれ動き始めた。
真弓高校の選手達は3人一緒に、外壁の外側を東へと移動する。
「さぁ、行くニャ!! 矢野!妹尾!」
対する光陽高校は3人で南下、外壁をくぐると、二手に別れた。
一人はそのまま弓道場を目指し、残りの2人はそのまま南進する。
「岸田と佐藤はそのまま行って!! それと、周囲を警戒して!!」
真弓高校の選手が東側の開口部、すなわちその門へとたどり着くと、足を止め、矢をつがえた。周囲を警戒しているようだ。
弓道場へと向かった光陽高校の選手は、身を隠すように射場内に潜伏している。
一方残る2人は、それぞれ看的小屋に一人づつ身を隠した。
「ニャルほど」
何かを察したのか、藤原はそのまま東門あたりで待機する。
矢野と妹尾に何かを合図すると、2人は同時に外壁の外を北上する。
矢野と妹尾が北門に到着すると、そこで立ち止まる。
外壁に身を隠しながら、周囲を警戒している。
しばらく硬直状態が続くかと思われた。
その時。看的小屋に潜伏していた2人の選手が、東門の方へとジリジリと移動する。
そして――突然射場から北へと飛び出したのは、緑色の髪をした選手。
「今よ!! 一斉射撃!!!!」
――――バシュンバシュバシュバシュ!
―――――バシュッ!!バシュバシューン!
「来たニャ!! こっちも一斉射撃ニャ!!」
―――――バシュンバシュンバシュン!
――――――バシュバシューバシュン!
それぞれ、2対1で矢を乱射する。
硬直状態から、一気に矢の射ち合いへと場面が切り替わる。
だが、俺はある一人の少女の動きに着目した。
その動きと技はまるで———
*
「まじかよ……あいつもあの技を使うのか……」
「クッハッハ!! 驚いたか? 今まで封印してたからなぁ。お前のとこだけじゃねーんだよ!」
俺の隣に居た本城の雰囲気が、再びガラリと変わる。
俺は一瞬、怯んだかのような、気持ちになる。
*
――バシュバシュバシュ!
―――カンカンカンッ―バシュンバシュ!
その緑色の髪をした少女、上杉は弓を振り回しながら矢を弾く。
そのまま距離を詰めながら、北門に居る2人の選手に矢を射る。
防御から攻撃までの間は、ほとんど一瞬で切り替わる。
それは藤原より速く――猛烈なスピードで――
「いきなさい!! そのまま相手リーダーを抑えて!!」
「こいつら、手強いニャ!! 矢野、妹尾!! そこから一旦退くニャ!!」
――――バシュバシュバシューバシュン!
カンカンカン――カンッバシュン――
藤原は2人の選手からの猛攻を浴びている。
なんとか耐えている、といった状態だ。
一方、距離を詰められながらも、ジリジリと後退していく矢野と妹尾。
リロード時間の隙を狙い、2人はなんとか外壁より外、西側へと移動する。
「逃がさない!! 佐藤と岸田は、リロード時間の隙を見て、西門を通ってからこっちに合流!! たたみかける!」
矢野と妹尾は、外壁沿いに西へと移動。追従するのは上杉。
――――その距離、およそ20メートル!!
光陽高校の2人の選手は、一気に西門へと駆け出す。
藤原はリロード時間、その選手の足を止める事はできない。
「しまった!? 西門に2人いくニャ!! なんとか耐えるニャ!!」
状況を把握した藤原が声を上げ、岸田と佐藤を遅れて追いかける。
だが、藤原がリロード時間を終える頃には……矢野と妹尾は挟み打ちだ
矢野と妹尾が外壁の角を曲がり、南進する。
追従するのは相手リーダー"コンドルのまお"―――
「クッハッハ! あそこで2人を落とせば、3対1だなぁ!!」
「まだだ。勝負は最後まで、分かんねぇ!!」
(矢野と妹尾のリロード時間―――きた!!)
———光陽高校の選手、3人が矢をつがえる。
対して、真弓高校の矢野と妹尾は。
矢を、つがえない……?
西門から外壁へと飛び出た光陽高校の選手は、その場で打ち起こし、会へと入った。
その後ろからは、矢をつがえた上杉。
曲がり角まで、あと5メートル!
追いかける藤原はまだ、道場を超えたあたり。
苦しい状況の中、何かを悟ったかのように、矢野は妹尾に顔を向けた。
敵から矢が放たれる直前、矢野は妹尾向かって――笑った。
妹尾は歯を食いしばり、大きく頷く。
その瞳はわずかだが、涙を流していた。
次の瞬間―――妹尾が矢野を踏み台にする。
矢野は弓と矢筒を放り投げ、擁壁に向かって両手をついた。その背中を、妹尾に預ける。
歯を食いしばりながらも、妹尾は矢野の背中を力いっぱい踏み込む。その背中を介して、擁壁の上へとジャンプする。
―――小さな水滴が、ポツポツと飛散する。
その足を押すように、矢野は妹尾の両足を力いっぱい押し上げた。
そして矢野は、何かを力いっぱい叫んだ。
されどその声は、聞こえてこない。
だが、右手を高らかに振り上げたその姿は。
俺の脳裏に焼き付いた。
そして、2人の選手から勢いよく放たれたその矢は。
――――パァーンッ!
矢野を貫く。その体は、光の霧となった。
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