◉トーナメント決勝戦

第52話 フィールド「弓道場」

 女子の部、決勝戦。


 テレビ局が静かにカメラを回す中、両校の選手達は、調整の終えた道具を弓道FPS台へと収納する。

 それぞれの顧問を先頭に、試合開始前の挨拶をするため、整列をした。


 その招集場所には、緊張感のある重い空気が漂っている。

 互いの準備を終えたところで、光陽高校から挨拶をし始める。


「光陽高校顧問、本城晃だ。葵……元同期として、ひとつ教えてやるよ。決勝戦で選手交代なんざ、リズムが乱れるだけだぜ。まあ、楽しみにしてる」


 本城の目は鋭く、やはり狼のような雰囲気でこちらを睨んでいる。

 さすがインターハイ常連校の顧問なだけはある。

 その言葉には、ウチの選手達の心を動揺させるだけの力を感じた。

 隣に立つ、光陽高校のリーダーが口を開く。


「光陽高校のリーダー、上杉まお。通り名は"コンドルのまお"です。ハッキリ言います、この勝負、絶対勝ちます!!」


 肩くらいまである緑色の髪を、一本に縛っているその少女。

 上杉は俺の顔を見るなり、ニコニコとした表情となる。

 その表情には、気持ちに余裕があることを示唆しているのか?

 はたまた別の理由があるのか……


 そして上杉選手の隣に立つのは、「岸本きしもと」矢渡しで、立ち位置が中だった選手だ。

 矢野と似たような、黒髪のショートヘアである。


 最後尾に立つのは、「佐藤さとう」矢渡しでは、大前に立っていた。

 黒髪のセミロングを、一本に縛っている。


 光陽高校からの挨拶を終えたところで、今度は真弓高校の番となる。


「真弓高校の顧問、後藤葵だ。晃……」


(こんな事を言うのも、柄じゃないんだが。相手の威嚇に押されている以上、この場を切り返す必死がある。すまない)


「俺が決めた事に、とやかく言われる筋合いはない。刮目かつもくしろ、真弓高校は、強い」


 その言葉に、本城は楽しそうに笑う。

 ウチの選手達も、意外そうな目をしていた。


(顧問として、出来る事はここまでだ、後は頼んだぞ)


 藤原は、肩くらいまである紫色の髪を手でかきなでると、口角を上げる。

 レンズのない眼鏡の奥にある、目が笑った。


「クックックッ! そういう事だ。私は"毒蛇の藤原"、だが先の戦いで、その通り名は進化したぞ?今の通り名は……"大蛇だいじゃの藤原"だ!」


 その言葉に、相手選手は少し怯んだ様子となる。

 ただ一人を除いて……上杉の目は、睨みつけるように、藤原を捉えていた。


 藤原の隣には、無表情の矢野が立つ。

 最後尾には妹尾、肩くらいまで伸びていた水色の髪を、一本に縛っている。


「それでは、両校の選手は、弓道FPS台へ移動してください。顧問の方は、アリーナ席へと移動してください」


 係員の指示に従い、それぞれ移動し始める。


(結果は、あとから付いてくる……だから皆、精一杯頑張れ)


 それぞれの選手が、弓道FPS台へと座る中、その場を横取り、アリーナ席へと向かう。

 椅子に座ったところでアナウンスが流れると、ステージが映し出された―――



 決勝戦のステージは、コンクリートの擁壁に囲まれた、弓道場である。

 ステージの中央に弓道場、その周囲に中庭、その外側に擁壁がある。

 擁壁の外周はぐるりと回れるようになっている。


 ステージの直径は、約100メートルの箱型。

 擁壁の幅と高さ、それぞれ2メートル。

 上に登れば、走り回れる程度の広さになっている。



 擁壁の東西南北、それぞれに門のような開口部がある。

 門をくぐると、広々とした中庭を抜け、弓道場が設置されている。


――弓道場の大きさ。

 長さ、約30メートル。

 幅約15メートル。

 射場には、余裕を持って12人が立てる程度の広さだ。

 瓦の屋根を頂きとするならば、その高さはおよそ8メートル。


 弓道場としてもそうだが、どれもよく正確に再現されている。

 芝生の矢道を挟むように、屋根のある矢取り道。

 安土側の両端には看的小屋がある。

 

 そのステージを見て、俺は思う。


「決勝のステージは弓道場か……ほんと、魅せるような事するよな」

「まぁな、昔の弓道競技と比べたら、全然違うだろうな。まあでも、そういう時代なんだよ」


 隣に座っている本城が、弓道に人気がでるならこれも悪くないと言った。

 観客席からは、試合開始前だというのに、大いに盛り上がっていた。


「うひょー!! ついに女子の決勝戦だぜぇ~!! どんな試合になるか、楽しみだぜ!!」

「俺は光陽高校に一票!! なにか賭けてもいいぜ!!!」

「私は真弓高校を応援するわ!!! 猫ちゃん、頑張れ〜〜!!!」


 ステージ南北の両端に、それぞれの選手が待機している。

 見た感じ、両校気合いを入れているようだ。


『それでは只今より、〈光陽こうよう高校〉対〈真弓しんきゅう高校〉のトーナメント、決勝戦を開始します』


 ステージの上空に、対戦開始までのカウントダウンを表す、和風な液晶パネルが降りてきた。

 決勝戦のためだろうか、パネルの見た目が、いつもと違う。


『3・・2・・1・・ー試合開始!』


 そして4回戦目、決勝戦の試合開始だ。







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