第49話 宇宙人ふじわら!

 試合会場から車を走らせること約10分。

 山の頂きから少し降りたその場所には、こじんまりとした旅館がある。

 内装外装に年季があるものの、試合会場から近く、値段もお手頃だったのでここを選んだ。


 旅館につくなり、俺と問題児達は小さな食堂のような場所で、ダイニングテーブルを4人で囲い、晩御飯を食べていた。


 俺はというと、隣のテーブルに座って食べている。

 騒がしい事が想定されたので、安全地帯へと避難したのだ。

 つかの間の休息だと、そう思っていたのだが……


「クックックッ!! この海老フライは私の獲物だぁ!! ニャッハッハッハーーぱくり」

「ギャー!! わたしの海老フライを食べるなぁぁぁぁ!!!」


 榊󠄀原の皿に乗っていた海老フライを横取りする藤原。

 榊󠄀原は、とてつもなく発狂している。とゆうか、うるさい。


「……そんなに食べたいなら、俺のをやろうか?」

「え? ほんとか!? やったぜ!!」


 俺のお皿には、大きな海老フライが2本ある。

 すぐさまその言葉に反応したのは妹尾。

 素早く俺の隣へと来たならば、海老フライを2本誘拐していった。


「あら、じゃあわたくしが頂きますわーーパクパク」

「ギャぁぁぁぁ!! 先輩を敬えぇぇ!!!」

「ゴクンッ。ん〜〜わりと新鮮ですわね、この海老フライ」


(なんだ今の………残影だと!?)


 その光景を見かねたのか、榊󠄀原のお皿に、旅館の人がおかわりを持ってきてくれた。

 榊󠄀原は目をキラリと光らせると、美味しそうに食べ始めた。


「ははは。良かったな、おかわりもらえて」


 一方矢野はというと、涼しげな顔でモクモクとご飯を食べていた。

 藤原がオカズを狩ろうとするも、見事に箸でブロックしていく。


「ぐぬぬ……やるではないか! クックックッ!」


 すると、藤原は怪しげな手を使い、矢野をサワサワと触り始めた。そして矢野は怒る。


「だから……その手をやめろぉぉぉぉぉ!! このタコぉぉぉぉ!!!」

「クックックッ、私は蛇ニャッ! ほれほれ」


(はぁ………成長してんのかよ、コレ?)


「モグモグ――ゴクンッ。すいませ〜ん、ご飯おかわり、よろしくって?」


(もうヤダ……早く部屋に帰りたい……)


 しばらくの間、問題児達と共に騒がしい夕食のひと時を過ごす。

 皆デザートまで食べ終えたところで、俺はこのお茶を飲んでから部屋に戻ろうかと考えていた時だった。

 何故だが、顔を赤くした藤原が、俺の元へと近付いてきた。


―――ウニョウニョと、蛇みたいにな。


「先生………一緒にお風呂入ろう?」


「ブブッーーーーーーー!!」

「あっち!! あっち! おいこのゲロビッチ!! 人の顔にぃぃぃお茶を吐くなぁぁぁぁ!!!」

「ケホッーケホー…わ、わたくしとした事が………」


 妹尾が矢野に、口に含んでいたお茶を吹きかける。見事なまでに的中したようだ。

 それを見た榊󠄀原はケラケラと笑い転げている。


「なぁ、藤原。お前、何か変なもの飲んだか?」

「ニャッハッハ! そんな事ないぞ。ついつい言ってみたくなってな。こういった場所では定番であろう? ねぇねぇ今どんな気持ち? どんな気持ち?」

「車弁償するか?」


 その言葉に、藤原は「ほぅ?」といった表情となる。

 何やらメトロノームのように体を揺らし始めた。

 宇宙人すぎるその行動に、俺は呆れ返る。


「……何やってんの?」

「ほぅ? ほぅ? ほぅ! あれは妹尾も共犯者だぞ?」

「え? そうなの?」


 俺は妹尾のほうを振り向いた。

 ハンカチで口を拭きながら、そんな事するわけないでしょ、といった表情をしている。

 その横で、矢野と榊󠄀原は何やら揉めていた。

 再び藤原に向き直ると、奴の姿は消えていた。

 そして妹尾が一言。


「藤原先輩なら、さっき部屋に戻りましたわよ?」

「…………やられた」


 俺は怒る気力を無くしたらしい。

 そのお茶をゆっくりと飲んだ後、部屋に戻る事にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る