第38話「輝け、金色娘」

 先程までとは一転して、藤原は力声ちからごえを上げた。


「クックック。ニャらば見せてやろうぞ……根性みせるニャ。行くぞ!! 矢野、榊原!!」


 防護壁に隠れていた3人が、一気にその場から飛び出す。

 その先は、橋の中央となるステージの中間地点。榊原と藤原が先行し、その後ろをついていくように矢野が走っている。

 目標は、中央にある防護壁を盾とする熱血高校。すなわち、敵だ。


――熱血高校との距離は――

         ――約15メートル――


 そこからの時の流れは、動画の遅送りのように感じた―――


 飛び出してきた3人に反応するかのように、熱血高校の選手達は、それらを射ち倒すべく弓を構え、矢を射る。


「来たな!!! 射てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 中央の防護壁の隙間から、熱血高校が矢を放つ。その矢の飛んでいく先は、真弓高校の選手を的確に捉えていた。


 勢いのある矢勢――避ける事は難解――

 誰もがそう思っただろう……


――バシュバシュバシュ―バシュン!!

      ―――カンカンッカンッ―カン!


(弓で矢を弾いている!? あれは藤原の得意技のはず……なんでその技を―――)



「集中するニャ! あと7メートル!!」

「くそぉおお!! 矢の残数がなくなった奴は、一旦後ろに下がれぇええええ!!」


 防護壁の隙間から、再び次の矢が放たれる。

 だが1人抜けたせいか、先ほどよりも矢の数は少ない。

 対して真弓高校の3人は、飛んでくる矢をものともせず、突き進み続けている。


―――バシューバシュバシュ!

         カンッカンカン!――――


「0メートル!! 私は奥にいくにゃ!! そこは任せたニャ!!!」


 先程まで15メートル程あった距離が、0となる―――

 


(ははは…いつの間に練習したんだ? 驚かせてくれるよ。なんで矢を弾くその技を使えてんだよ……榊原)



 藤原が防護壁を抜け、そこにいる2人を飛び越えた。奥へと退いていく敵をとらえると、藤原は矢をつがえ、会へと入る。

 逃げていく選手が、藤原の方を振り向くと、雄叫びを上げた――勢いのある矢を射る。


――――バシュンッ!!

         ――――パァン!!


 一つ、光の霧となる。

 郷田は、度肝を抜かれたようだった。


「なんなんだ、こいつらは……この戦い方は!!」


 残る敵は「二人」

 矢野が矢をつがえ、防護壁の隙間へと矢を射る。


――――バシュン―――パァン!


 まるでお返しをするかのようにして、その矢は2人目の敵に中る。

 残る敵は「一人」


「これが、真弓高校の強さなのか? やるじゃないか。だが、何も抵抗せず、退場する気はないぞ!!!」


 真弓高校の選手に狙いをつけられた――その瞬間だった。何を思ったのか、郷田はその身を川へと放り投げる。

 落下しながらリロード時間を終え、矢を弓につがえる。

 重力に引っ張られながらも、郷田は会へと入る―――


 *


「そのまま落下すれば、退場なんだぞ? なんていう闘志だ……あれが、熱血高校のリーダーの強さか……」

「そうですか……」


 熊みたいな男は席を立ち上がると、ステージに向かって、誰よりも声を張り上げ、全力で応援し始めた。


「行けぇええええええ!!!! 負けるなぁぁぁぁぁ!!」


 *


 勝負あり。観客席の誰もがそう思うだろう。

 だがもう1人。勝負を諦めてない奴が居たようだ。


――その選手は誰よりも輝く『金髪の長い髪』を縛っている奴だ――


 郷田が落下してからすぐさま、それを追いかけるように、榊原が橋を飛び降りる。


 飛び降りた際、結んでいた髪ゴムは外れ――

 縛っていた髪が大きく広がる。


 金色の髪をなびかせる少女は。

 引き分けをしながら、会へと入った。


 先に落下していく郷田の目には、溢れんばかりの涙が浮かんでいた。川へと落下しながら、水滴がポツポツと宙を舞っている。


『馬鹿野郎』と、言いたげな表情だった――


「面白い!! 金色娘め!!! 勝負だぁぁあぁぁ」


 2人は同時に矢を放った。

 川と橋に挟まれ、鉛直方向に飛び交う――2本の矢。


―――バシュン

  ―――バシュン

         ――パァーンッ――


 だが郷田の矢は、榊原に届く事はなかった。

 そして郷田の体は、川へと没する事はなく、光の霧となる。


 *


 試合が終わり、アナウンスが流れる。


『只今の結果、真弓高校の勝ちが、決定いたしました』


 アリーナの観客席から、大いなる歓声が上がった。


「すげぇぇええええ!! また真弓高校が勝ったぞぉぉぉ!!!」

「あの金髪の少女!! 可愛くなかったか?? ファンになりそうだぁぁ!!」

「猫ちゃん…猫チャァぁぁぁん!!!」


 俺は席を立ち上がると、熊のように大柄な男の元へと近寄る。

 どんな表情なのはわからない……ただ、その大柄な男の足元には小さな水たまりが2つ出来ていた。

 俺は横に並んだままステージを見つめ、その男に声をかけた。


「この後、煙草を吸いに行きませんか? 美味いコーヒーが、自販機にあるんですよ」

「そうですね……でも今度は私が奢りますよ。最高にウマい、コーヒーをね」


 こうして、第2回戦である準々決勝は。

 無事に試合を終えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る