第32話「敵は3本の矢、トリプルアローレイン!」

 まず動き出したのは、三本高校の選手達。

 試合開始と共に、ステージの中央にある、物見櫓ものみやぐらを目指すようだ。


「我らは三本高校、三本の矢だ! みなのもの、さあゆくぞ!」


 3人は森をかき分けながら、全速力で中央を目指し、走り始める。


 対して真弓高校は、三本高校と同時に動きだす。

 藤原は中央を目指して。次いで、矢野と榊󠄀原は2人ペアで、歩道上をぐるりと走り始めた。


「さあて、行くニャッ! あのトンガリ隊は、おそらく、中央の物見櫓ニャッ!! 奴らより先に、皆で行くニャッ!!」



【音声通信】

 リーダーである者の声は、自分のチームメンバー、そして相手チームリーダーのみに聞こえている。

 その声はこの試合会場にも聞こえてくるのだが、俺達の声は仮想空間に居る奴らに届く事はない――― 


 *


「藤原さん……聞こえてますよ〜」

「ムキー! ゆくのでぇぇぇぇす!」


(このおっさん、うるさいわ……)


 *


 中央の物見櫓を目指す、選手間の距離はおよそ30メートル。

 3人で動いている三本高校に対し、真弓高校は藤原一人のみ。

 矢野と榊󠄀原は依然、円周を走っている。


 三本高校の選手との距離が20メートルを切ったところで、三本高校に対して、藤原が矢を乱射する。


―――――バシュバシュバシュッ!!


 飛んできた矢に反応した三本高校の3人は、木の影に隠れながら、藤原に対して矢を射ち返している。


――バシュンバシュン

      ―――バシュバシュ!


「ニャッハッハ、おまえらも3人一緒だにゃ!? バレバレニャッ!!」

「くそ、矢勢がある。射ち返せぇぇ!!」


―――バシュンッ!!バシュバシュ!


 藤原は矢のリロード時間になった途端、木々の間へと身を隠した。

 その隙を見てか、物見櫓と前進する三本高校。

 周囲を警戒しながら、その櫓の上に相手リーダー、白鳥が登る。

 残りの2人は、下で矢をつがえ周囲を警戒しているようだ。

 白鳥が矢野と榊󠄀原の姿を見つけるなり、声を上げた。


「む……後ろだ!! 後ろにいるぞ!!」


 物見櫓を中心とするならば、矢野と榊󠄀原は藤原のいる場所から反対方向となる。

 その場から、矢を乱射する。


―――バシュバシュバシュバシュッ!

           パスパスパス――


 無数の矢が、三本高校の選手達を狙う。

 だが木々に阻まれ、その矢が相手に当たる事はない。

 白鳥が号令をかけ、三本高校の選手達が皆一斉に会へと入る。


「よし、フォーメーション!! トリプルアローレインだ!!!」


 すると、同時に上空へと放たれた三本の矢が、複数回矢野と榊󠄀原の上空へと飛翔する――放物線を描きながら、木々をすり抜けるようにして、矢の雨が降り注いだ。


―――バシュンバシュンバシュン

―――バシュンバシュンバシュン

        ―――ターンッタンタン!

        ―――ターンッタンタン!


 上空から降り注ぐ矢を避けきれなかった榊󠄀原が、矢に中り離脱。

 矢野はなんとか、かわしきったようだ。


「ニャッハッハ! おみゃーはマヌケだニャッ!!」

「な………なに!?」


 物見櫓から至近距離、木々の隙間から突如現れた藤原が、下に居た二人の選手をめがけて、矢を射る。


――――バシューバシュン!!

           パァーン!――


 矢勢のあるそれに反応しきれていない相手選手、三本高校の選手が2名離脱する。


 そのまま藤原は弓を使い、棒高跳びのようにして、颯爽と物見櫓へと飛び込む。それを見た白鳥は慌てているようだ。


「くそぉ! なんて身体能力だ……」


 相手のリーダー白鳥は、未だリロード時間。

 矢を射る事は出来ない。


「矢野!! そこからよーく狙うニャッ!!!」


 飛び込んだその勢いで、相手リーダー、つまり白鳥を蹴り飛ばす。


「うわぁぁぁぁ!!」


 よほど勢いがあったのか、白鳥の身体は空中へと放り出された。

 すかさず、会に入っていた矢野が、空中に浮遊したその的に、狙いをつける。


―――――バシュンッ!

       ―――パァーン!


 その矢は、見事敵を貫いた。

 中った選手の体は、光の霧となりその場から消滅した。


 *

 

 アリーナの観客席から、歓声が上がる。

 その歓喜の雄叫びが、アリーナ内を飛び交う。


「オオオオオオオ!! すげぇ!!! 見たか今の!!」

「ああ!! 真弓高校、つえぇぇぇ!!」

「なんなの! あのニャッとか言ってる選手!!! かわいぃ~!!」


 試合が終わり、アナウンスが流れた。


『只今の結果、真弓高校の勝ちが、決定いたしました』


 俺はその場を立ち上がると、隣に居たおっさんに近寄る。


「ムッキーーー!! ムッー…」


 俺はトンガリ頭の帽子だけをペシャンコに潰し、この場を去った。



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