第26話 弓の種類について①
お店の奥にあるドアを開け、奥へと進むと、そこには様々な弓具が置かれていて、お店のような部屋へとなっている。
弓、かけ、矢、弦をはじめ、様々な消耗品も含めて、ここには全て揃っている。
ちなみに巻藁とは、樽みたいな藁の塊のこと。
「へぇ…すごいな。弓だけでこんなにもある……」
専用の棚には、無数の弓が弦を張ってない状態で置いてある。
ちなみに弓の素材にもいくつか種類があり、分けるとしたら以下の3つだ。
→ → → → → 【解説】
――グラスファイバー製――
一般的な弓の中で、よく使われているのがこれだ。安価だし、手入れも楽なのでよく使用されている。
――カーボンファイバー製――
グラスファイバーのワンランク上といったところか。弓が軽くなる反面、弓のしなりが強くなる。その分、グラスファイバー製より、勢いのある矢が出る。
――竹弓――
達人向け、といったところだろうか。弓道の段位が高い、ご老体などがよく使っている。メンテナンスも大変だし、何より弓を育てていく必要があるため、競技向けではないと個人的には思っている。
弓とは、その種類に加え、その長さと強さにも違いがある。
強さとは、簡単に言えば弓を引くために必要な力の強さを表す。
数字が大きくなるにつれて、その強さは増していき、低くなるにつれ、それは減少していく。
そして弓の強さに加え、その弓の長さ、つまり全長にも種類がある。
――大きく分けて、それは2種類あり
〈並寸〉→〈伸寸〉の順に、全長が長くなる。
身長によりこの2種類を使い分けるのだが、基準は170cm程度。
細かい区分まで含めると、もっと種類があるのだが簡単に説明するならば、それぞれを基準に――
〈並寸〉から〈より短くなるか〉
〈伸寸〉から〈より長くなるか〉
――となっている。
→ → → → → 【解説終わり】
「藤原が使っている弓は、並寸の14だよな」
「うむ、そうであるぞ」
「こっちの弓か、そっちの弓かな。ちょっと試し射ちしてみ」
俺は棚に置いてある、2本の弓を手に取ると、試し射ち用の弦をそれぞれに張る。
その間、上だけ貸し出し用の弓道衣に着替えてもらう。
その他の道具も、ひとまず貸し出し用を使う。
藤原は胸当てをし、かけを右手にはめる。
準備ができたところで、藤原が巻藁の前へと立つ。
俺が選んだ弓は、グラスファイバー製の〈並寸の15〉と〈伸寸の16〉
藤原の身長は165cmセンチ程度だが、引き尺がある分、伸寸でもいけると思っている。
それぞれを数回引いたところで、感想を聞いてみる。
「どうだった? 引いた感じは?」
「並の15は、少し重くなった程度だ。伸びの16は、かなり重く感じたな」
「そうか、じゃあもう一回、伸びを引いて見てくれ」
羽のついていない
弓が重くなったのと、引き尺が長くなった分、引き手がいつもより苦しそうだ。
離れをし、巻藁に刺さった瞬間の矢を見てみると、大きくブレていた。
「うーん、そうだなー」
俺はもう1本、棚から弓を取ると、それに弦を張る。
その弓を藤原に手渡すと、それを引いてみてもらう。
〈ガシュ〉巻藁に刺さった矢は、多少ブレてはいたものの、深く刺さっていた。
藤原も、驚いた様子だ。良い感触があったのだろうか。
「どうだった? 引いた感じ」
「かなり重いというか、反動が強い……でも勢いが違う感じだな!」
「今の弓は15の並で、カーボン製だよ。それより強いのは、厳しそうだな」
あとは、練習して馴染ませるしかないと思う。
俺はその弓を藤原から受け取ると、マスターを呼んだ。
「この弓に変えよう。お金の事は心配いらない、部費から払っておくよ」
「いいのか! 嬉しいな~」
入口から、マスターがやってきたので、この弓を購入する事を伝えた。
意味もなくラブリーな感じで承諾を得たので、藤原へと向きなおる。
「他にも見たいものがあるなら、見ていくといい」
「クックックッ、太っ腹だな!」
「おいおい、全部払うとは言ってないぞ?」
(いつもの雰囲気になったな、安心したよ)
藤原は買い物を楽しむように、色々な道具を見ている。
俺は窓から外を見ると、未だシトシトと雨が降っていた。
「ちょっと、煙草吸ってくるわ、見てていいぞ」
「ほ〜い、あ…これは!!」
(託してみるか………)
俺はその部屋から外に出る際、悩んでいたチーム編成に、少し答えを見つけたようだった。
そして明日からは、残業をしようと思っている。
少しでも道場に居る時間を長くするには、その方法が一番手っ取り早いと思うからだ。
こうして藤原の弓は新しいものとなり、明日からの練習では、いっそう励みになるだろう。
「真弓高校のリーダー、頼んだぞ。藤原瞳……」
今日は不思議と、雨に打たれながら吸う煙草も、悪くないと思ったのだった。
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