第25話 ライバル

「へぇ〜そうなんだな。じゃあ2人はライバル関係なんだな」


 ここはとある飲食店『♂全力射ゲイ♀』悪魔のような2人のお腹を満たすため、ここにやってきた。

 マスターはピンク色の袴姿で、今日もキャピキャピしている。


「そうなんです、だから、今度の選抜大会が凄い楽しみなの!」


 上杉という娘は、メロンクリームソーダをストローでチュウチュウと飲んでいる。


 一方藤原は、怪しげな紫色の炭酸水をガバガバとのんでいた。

 ぶどうジュース……だよな?


「おまたせ〜♡ バキューンパスタどぇ〜す♪」


 先程頼んだ2人分の料理が、机の上へと運ばれてきた。

 ナポリタンのようなパスタの上に、赤いハートを貫いたような、黒い麺が乗っている。


「クックック……ジュルりジュルり……」

「わ〜い!いただきま〜す!!」


 上杉はフォークを使って普通に食べているが、藤原は箸を使いつつ、珍味な食べ方をしている。

 パスタを数本摘んでは、チュルチュルと吸っているからだ。

 汚くはないが、宇宙人のようなその食べ方を見た上杉が、面白おかしく笑っている。


「やだなー! まだそんな食べ方してるんだ? さすがは、"毒蛇どくへびの藤原"ね!」

「クックックッ、あたりまえだ。毒蛇の名は伊達じゃないぞ! そうだ! メガネであろう!」


 はい、まったく意味が分かりません。

 上杉が発した言葉の意味を理解すべく、俺は毒蛇の藤原について質問した。


「毒蛇の藤原ってのはー。昔瞳ちゃんが言われてた、通り名なの! 蛇みたいに、人の身体に巻き付いてくるから〜だからその名がついたんだ!」

 

 なるほどな、確かに藤原は人の体をベタベタとよく触るからな。

 そう言われたら、納得するものがある。


「そういうまおだって、今でも"コンドルのまお"って言われているだろ? さっきも俊敏に、動き回っていたであろう!」

「へっへっへ。正解で〜す♪」


 コンドルのまお……別にそんなに体が大きいわけではないけど、そんな通り名なのか?

 なんにしても、通り名がつくくらい、腕があるって事なんだろうけどな。


 2人がパスタを食べてる間、俺はブラックコーヒーを飲みながら、考え事をする。

 この上杉って娘は、今度の選抜大会の優勝候補校である光陽こうよう高校の弓道部員。

 その学校の顧問をしているのは、過去の弓道部員の同期である、本城晃だ。

 この娘がエースなのかどうかは分からないが、強敵である事には間違いないだろうな。


「ごちそうさまでした! あぁ〜美味しかった!」

「わたしもご馳走様。ん〜よきよき」


 俺とマスターにお礼を言ったあと、この後用事があるからと、上杉って娘は帰り支度をし始めた。

 外は依然と、雨がシトシトと降っている。

 椅子から立ち上がった藤原が、ニコニコとした笑顔で手を振り、その少女を見送った。


「じゃあ、わたしはいくね。瞳ちゃん、今日は引き分けだったけど、次も勝つから!!」

「望むところ!! 次は、真剣勝負だ!!」

「あは!じゃ〜ね〜〜」


 元気よく店の扉を開け、雨の中、その少女は走り出す。

 その後ろ姿を見送った後の藤原は、なんだか悔しそうな表情となる。

 そんな表情をするって事は、勝率が良くないのだろうか。

 そしてあの少女は“次も“と言っていたしな。


 椅子に座っても、藤原は沈黙を続けていた。

 へぇ、珍しい事もあるもんだな。

 俺は、何も言わず、言葉が出るのを待った。


「なぁ、先生……」

「ん? 急に暗い顔をして、どうしたんだ?」

「私、もっと上手く……強くなりたい……」


 それは、今までの藤原とは違う、真剣なものだった。

 俺はあえて、その理由を聞いてみる。


「それは、何のためだ? その理由を聞かせてくれ」


 藤原はレンズのない眼鏡を外すと、そっと机の上に置いた。

 真剣な眼差しで俺の方を見ると、その口を開いた。


「上杉まおに勝つため、そして……チームのためにだ」


(チームのため、か……まさか藤原から、そんな言葉を聞くとはな……)


 おそらくライバルに勝てないと、悟っているのかもしれない。

 ただその向上心に、俺は応えてあげたいと思う。


「わかった……でも、選抜大会まで、あまり猶予はない。練習もかなり辛いものとなるだろう。それでも、やりきる自信はあるか?」

「頑張れるさ。だって私には、もう来年はないからな」


 その言葉に、俺の中の何かが揺れ動いた。

 そうだよな……来年はもう、ないんだもんな。


 俺はマスターに声をかけると、お店の奥にある部屋に行かせてくれと頼んだ。

 快い返事をもらうと、席を立ち上がる。

 メガネをかけた藤原と、一緒に奥の部屋へと向かう。


「この奥には、何があるんだ?」

「弓具だよ」


 さて、ちょっくら選びますかな。


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