第24話 珍味な友情

 今日はシトシトと、冷たい雨が降っている。 

 ゴールデンウィークの最終日、俺はフラフラと街中を彷徨いながら、選抜大会のチーム編成を考えてた。

 選手の登録はGW明けの今週中、時間の猶予ゆうよはあまりない。


 部活が休みの日は、自主練習形式としてあり、各自の判断で練習の有無を任せてある。

 顧問の指導がない状態で、個人練習というのも、大事だと俺は考えているからだ。


 色々な壁にぶつかっては、それを自分の力で乗り越えていく。

 時には気持ちのコントロールがうまく行かず、何かにぶつけるのも、場合によっては一つの成長だ。


「ゲームセンターか、久々に行ってみるかな」


 ここは教師になりたての頃、榊原と出会ったところだ。

 もうたむろはしないといった約束は、守られているだろうか。

 入り口横にある自転車置き場を見ると、ちゃんと陳列してあった。


 入り口から中に入ると、階段を登り、弓道FPS台が置いてある場所へと向かう。

 柄の悪い連中はおらず、代わりに弓道部らしき学生達がワイワイと騒いでいた。


 観賞用のモニターを見てみると、そこには見た事のあるアバターが映っていた。

 頭にネコ耳をつけていて、髪は紫色だ。

 おそらくそのアバターの正体は、藤原だろう。


 学校のようなステージで、校舎内を俊敏に駆け巡りながら、射ち合いをしている。

 髪が緑色の対戦相手に押されつつも、死闘を繰り広げていた。

 客観的に見れば、対戦相手の方が上手かもしれない。


(藤原と互角以上の腕か……この緑色のキャラも、かなり上手いな)


 試合時間はタイムアップとなり、勝敗は引き分け。

 ここはゲームセンターの弓道FPS台なので、延長戦はない。

 箱の中から出てきた2人は、仲良さそうに会話をしている。


「うまく逃げたね。あのまま試合をしていれば、わたしが勝っていたよ!」

「クックックッ、そんなは事ないぞ。ああそうだとも」


 一人はゴスロリ姿の藤原。

 周囲から痛い目で見られているが、本人は気にしてない様子だ。


 もう一人は、緑色の髪をした、ボーイッシュな雰囲気を持つ少女。

 正直なところ、こいつも痛いと思う。

 金属の鎧こそないが、西洋の騎士みたいな格好をしているからだ。


(類は友を呼ぶとは、まさにこの事か……ここは、イベント会場じゃねぇぞ……)


 関わると危険な感じがしたので、俺はその2人に気付かれないように、その場を立ち去ろとする。


「おーい! 変な髪型の先生ーー」


 悪魔に気付かれた……それに変な髪型呼ばわりはやめてほしいものである。

 俺まで同じ種族だと思われかねん。

 しかしここは、大人の対応をしよう。


「あ、あぁ。ここで会うとは偶然だな。そちらのお嬢さんは、友達か?」

「初めまして!わたしは、上杉うえすぎまおと言います!」


 少し、あどけなさを感じるその少女は、聞くところ、藤原と同じ高校3年生らしい。

 中学時代、同じ弓道部だったそうだ。

 どうりで流派が斜面打ち起こしだったわけだ。

 GWという事もあり、久々に会って遊んでいるらしい。


「そうか、それは邪魔をしたな。じゃあ俺はこれで」

「せんせ〜私達、お腹がすいた!」

「ん……あぁ……俺はちょっとこれから用事があってだな……」


 口から出たその嘘は、我ながらとても説得力がないものだと思う。

 ただこの2人を連れて歩きたくはない。

 何故なら恥ずかしいからだ。

 俺のその言葉が嘘だと見抜いたのか、藤原の広角が上がり、ニヤリとする。


(でた……悪魔の微笑みデビルスマイル…)


 それはどこからか、藤原は突然スポットライトで照らされた。

 どうやら、店の定員が仕事をするようだ。

 これより、珍妙な舞台の幕開けである。


「あぁ……こんなにもお腹が好いているのに……彼は身向きもしてくれないなんて……私は、ここまでの命なのね……」

「姫よ!! 諦めるでない!! きっとこの僕が、あの冷めきった悪魔の心を、浄化してみせよう!!」

「そんな……優しき王よ……それでは貴方が、あの悪魔に取り憑かれてしまいます……」

「いいんだ……愛しき姫のためならば、僕はどうなっても構わぬ!!」


 藤原だけかと思いきや、上杉って子も、スポットライトで照らされている。

 まるで予行演習でもしていたかのように、息ぴったりの演技だ。

 周辺にいる他の学生達は、何やらヒソヒソ話をしている。

 確かに上手い演技だよ、それは認めよう……


(だけど……だけどさ……なんで俺は……こんなにも悲し気持ちになるんだ……)


「ああ…王よ……いかないでぇぇぇぇー」

「さらば姫よ……そなたの笑顔は、僕が守るんだ!」


 俺は深いため息をつくと、2人にご飯を食べさせる決心をする。

 舞台名は、二匹の腹ペコ悪魔にしようと思う。


「わかったから……ご飯を奢るから、勘弁してくれ」


 その言葉を最後に、舞台は幕を下ろした。舞台の演劇を終えた2人の表情は、憎めないくらいに、可愛い笑い顔だった。


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