第23話 グルメなお嬢
「お待たせしました、ご注文の品になります」
頼んだ料理が次々と運ばれてきては、それぞれの目の前に置かれていく。
白い湯気がホカホカとしていて、相変わらずどれも美味しそうだ。
矢野は俺のオススメで、讃岐うどん定食。
透き通った出汁の上に、シンプルにトッピングがしてある。
ミニサイズの炊き込みご飯に、副菜の小鉢が一品ついてきている。
藤原は天麩羅定食に、単品で茶碗蒸し。
ホカホカの白いライスに、揚げたての天麩羅が色々ある。
小鉢の隣に置いてある、茶碗蒸しも美味しそうだ。
2人は手のひらを合わせ、いただきますをする。
それぞれ箸を持つと、料理を口へと運んでいく。
「にゃにゃ!! この天麩羅、めっちゃ美味い!! 茶碗蒸しもトロトロ〜〜!」
「こんな美味しい出汁、初めてだ……うどんも、そこらの麺なんかより圧倒的に美味しい!!」
「はは、それは良かったよ」
2人のその食べっぷりは、とても気持ちが良いものだった。
そこまで美味しそうに食べてもらえるなら、連れてきて良かったと思う。
俺はきつねうどんを食べながら、隣の席へと視線を向ける。
榊原の目の前には、肉うどん定食。
うどんのトッピング以外は、讃岐うどん定食と同じである。
「かっはぁー!! 美味しすぎる〜!!」
目をキラキラさせながら、美味しそうに食べている。
榊󠄀原はほんとに、感情表現がわかりやすい奴だと思う。
そして、妹尾なのだが………
奴の目の前には、数種類のミニうどん・季節の天麩羅・副菜が数品……頼み方もそうだが、こいつはグルメなのか?
〈カチャカチャ〉と、食器の音が忙しそうに鳴っている。
「ハフハフー…ん〜バクッバク……ゴクン。ふぅー、ズズズ〜〜…んん…ズズ〜ーゴクゴクゴクッーー…ッぷハァァ!!!」
4人の中で、お前の食べ方が一番
お前の食べ方は、“飯テロ“並だぜ。
俺はきつねうどんを食べながら、しばらく食事を楽しんだ———
食事が済んだ俺は、お店の外へと出ると、ベンチに座ってタバコを咥えていた。
「フゥゥゥーー……」
なんでだろうか、いつもより、さらに美味しく感じられた。
やはり、大人数で食べるご飯は、美味しいという事なのだろうか。
すると、食べ終わった様子の矢野が外に出てくる。
満足そうな表情と、不満そうな表情が入り混じっているようだった。
矢野にしては珍しく、同じベンチに腰掛けてきたので、俺は咥えていたタバコをゴミ箱に放り込んだ。
「どうしたんだ? 複雑な表情をしているようだが?」
「それが、かなり騒がしくって……」
矢野いわく、妹尾の食べっぷりに影響された榊原が、妹尾と食レポ対決をしているらしい。
司会者は藤原なんだそうだ。
「ははは、なんだか、騒がしい光景が目に浮かんでくるよ」
「それにしても、今日はごちそうさまでした」
「おおそうか、それならそこの料理長に言ってやってくれ、きっと喜ぶぞ」
その言葉に、矢野はお店の入り口がある方向へと振り向く。
そこにはバンダナを頭に巻いて、ほんわかとした雰囲気の女性が、ニコニコとした表情で手を振っていた。
この人は、俺の姉さんである。
俺はベンチから立ち上がり、風下へと移動した後、カートリッジにタバコを装填した。
それと入れ替わるように、俺の姉ちゃんがベンチに座る。
「あの、今日はごちそうさまでした。とっても、美味しかったです」
「そ〜う? それは良かったわ〜〜いつでも食べに来ていいのよ〜?」
「あはは、ありがとうございます」
日頃は口も悪い矢野だが、こういった場面ではちゃんとしてるんだよな。
愛想もあるし、なんら問題ない。いつもこうなら、助かるんだけどな。
「それはそうと、以前こちらのオニギリを、先生から頂いて食べた事があるんです。それも、凄い美味しかったんです。なんだか……心が温かくなる味がしたんです」
「オニギリ〜〜? 具はなんだったかしら〜〜??」
「シーチキンです。ふっくらしてて、とても美味しかったのを覚えています。確かー」
約1ヶ月程前の事だと、矢野から告げられる。
タバコを咥えた俺に対して、姉ちゃんからチラっと目線を向けられた。
俺はアイコンタクトで、姉ちゃんに合図する。
伝われ!! 頼む!! 伝わってくれーー!!
「そっか〜〜、あのオニギリの事なのね〜〜それだったら、お土産を渡してあげるわよ〜〜」
「え、そんな。申し訳ないです…」
姉ちゃんは矢野にフフっと笑いかけると、弟の葵から料金は頂いておくと一言。
それならばと、矢野はその行為を有難く受けたようだ。
(おいコラ……少しは遠慮しろっての!)
タバコの吸い殻をゴミ箱に捨てると、ベンチに座っている2人のもとに歩みよる。
他の子たちの分も頼むわと、姉ちゃんにお願いした。
「フフフ、いいわよ。そしたらデザートを出すから〜少し待っててもらえるかしら〜〜〜?」
「ああ、よろしく」
2人がそろってお店の中へと戻っていくので、俺は少し距離を空けて、後ろをついていく事にした。
ヒソヒソと、姉ちゃんが矢野に耳打ちをしている。
すると、こちらに振り向いた矢野の目付きが、どういったわけか、鋭くなった。
(おいおい、何言ったんだよ……俺の恥ずかしい秘密でも教えたのかよ)
でも不思議と、その鋭い目付きに敵意は感じなかったのだ。
むしろ、ちょっと顔が赤くなっていたような……ま、詮索はやめておこう。
こうして、今日という日は、束の間の休暇となったのだった。
明日からまた頑張ろうって、そう思えるくらいに。
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