第22話 お食事処ユミ

 現在時刻は12:00頃。

 白いバンの後部座席には、問題児が3人乗っている。


 ルームミラーから後ろの様子を確認してみるなり、相変わらず離れ離れに座っている矢野と榊原に対して、その後ろに座って寝ている藤原。


 皆思い思いの私服を着ている。

 矢野と榊原は以前と同じ感じなのだが、1人だけ超絶個性的な服装をしている奴がいた。


(藤原の奴、なんつー格好してんだよ。相変わらず眼鏡はレンズねぇけどよ……)


 黒色ベースの、紫のラインが入ったゴスロリ服のファッション。頭にはカチューシャまでしている。

 今からコスプレ会場へと向かうのかと思うくらい、異質のオーラを放っている。

 はっきり言って、一緒に歩きたくない。

 そして気になる存在がもう一つ、車の後方にもあった。


 サイドミラーを見ると、そこには黒塗りの高級車が数台ついてきている。

 車間距離こそ保っているけど、正直なところ危ない連中にしか見えない。

 それはそれで別にいいのだが、相変わらず協調性が無いものだと思う。

 引き続き、俺は車を走せる。


 大きな川を跨ぐ、締切堤防沿いをしばらく走ったのち、多少の高低差を登り降りした後、広々した駐車場へと到着する。

 お店の入り口付近にバンを駐車し、そこから降車する。


 お店の横に掲げてある看板に目を向けたならば、そこには〈本日貸切につき、臨時休業〉と書かれていた。


(やれやれ、普通に定休日と掲げればいいものを、いつもやる事が大袈裟なんだよな〜)


 バンの後部座席から降りてきた問題児達が、その看板に反応する。

 矢野は目を点にしているし、藤原はウキウキとした様子だ。

 ただ一人、榊原だけは違う反応だった。


「ここが後藤先生のお店なのか?」

「おう、そうだぞ。姉ちゃんがやってる和食屋だよ」

「外観に年季が入ってるな〜なんだか楽しみだぜ」

「期待していいぞ、美味いから」


 このお店の外観は、榊原のいう通り確かに古い。

 ただ内装等には何度も手を加えていて、要所要所はピカピカだし、不自由な事はないはずだ。

 なんたって、ここは有名な和食屋〈お食事処ユミ〉なんだからな。


 黒塗りの車から降りてきた妹尾が、貴族のパーティーにでも来たのかと思うような、高級そうなドレスに身を包み、榊原に色々と解説し始めた。


「あら? 榊原先輩は、このお店をご存知ないのでしょうか?」

「ん、あぁ。ここは有名なお店なのか?」

「有名もなにも、ここは超有名店ですのよ? 予約を取るのに、1ヶ月はかかると言われておりますわ」

「い、1ヶ月ぅぅ!? そんなにスゲー店なのか!?」


 俺はお店の引き戸をガラガラと開けると、中へと入る。

 木の温もりが伝わってくるような、そんなお店のカウンター。

 そこには、頭にバンダナを巻いた男性が立ってた。


「いらっしゃいませ!! 後藤さんですね?」

「ああ、すまないね。今日はよろしく頼むよ」

「かしこまりました。それでは席へとご案内いたします」


 爽やかな男性に、奥にある広々とした座敷へと案内される。

 貸切という事もあり、2つ分の席を5人で使うようだ。

 それぞれ席へと座る問題児達なのだが、こっちの席には矢野と藤原が座り、隣の席には榊原と妹尾が座った。


 各自メニュー表を手に取ると、あれやこれやと悩んでいる。

 ワイワイと賑やかな様子を伺うように、キッチンからはこっそりと、一人の女性が顔を覗かせていた。


「なぁ……先生、何がおすすめなんだ?」

「ん? 何食べても美味いけど、オススメはだなー」


 ちょっと言葉がどもったけど、一応気は使ってくれているらしいな。

 俺はメニューについて、矢野に簡単に説明する。


「クックック、私は天麩羅定食にする事にしたぞ!! あとこれも食べたいのだ!!」

「なんでも好きなの頼めよ。俺と姉ちゃんからの奢りだからさ」


 チラっと隣の席を見ると、妹尾が料理について熱く語っている。

 榊原も興味があるのか、ワクワクしながら話を聞いているようだ。

 案外、この2人は相性いいみたいだな。


「そうなのか!! じゃあ私はこれにする!」

「わたくしは、これを頼む事に致しますわ」


 メニューが決まった様子を見ていたのか、さっきのスタッフが注文を聞きにくる。

 それぞれ注文を頼むと、料理が楽しみなのか、皆落ち着きの無い様子となる。


(たまには、こういった光景も悪くないよな。皆、今日はたくさん食べてくれよ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る