選抜大会にむかって

第21話 問題児達の能力値

 新学期が始まり、明日からはゴールデンウィークとなる今日この頃。

 俺は矢取り道から、射場で弓を引く4人の練習風景を見ながら、ある考え事をしていた。

 それは6月にある公式戦、インターハイの出場権をかけた選抜大会のチーム編成だ。


 従来の競技方法では、人数に対して矢を射つ順番が決まっており、3人の場合だと前から順に———


1番―大前おおまえ

2番―なか

3番―おち


 となっている。


 それぞれのポジションには向き不向きがあって、誰がどこの立ち位置で弓を引くのかによって、勝敗が左右されると言っても、過言じゃないくらいその順番は重要である。

 だが変革した弓道ルール『弓道FPS』では、射つ順番はない。

 試合開始と同時に、一斉にスタートするからだ。


 ただ弓道FPSには、面白い部分がある。

 それは各チームのリーダーのみ、音声通信を介して味方のメンバーと相手リーダーとのやり取りが出来る事である。

 至近距離で直接会話のやり取りは出来るが、この音声通信での掛け合いが、個人的に奥が深いと思っている。

 チームメンバーへの指示や、相手との駆け引きなど。

 それはまさに、司令塔であるリーダーの思考によって、多種多彩なものとなる。


(それにしても、誰をリーダーにするかだよな)


 俺は弓を引いている、それぞれの部員達に視線を向けた。


―――矢野やの 琴音ことね―――

 学年は2年生。的中率は50%

 指導から約1ヶ月がたち、一番成長していると思う。

 口が悪いが、自分の芯をしっかりと持っているため、成長すればダークホースだと考えている。

 難点は、もう少し弓道が上達する必要を感じる事だ。


―――榊原さかきばら まい―――

 学年は2年生。的中率は75%

 個人的に4人の中では、一番真面目な奴だと思っている。

 入賞するという目標もあるため、戦術的な事もきちんと教えれば、かなり素質はあると考えている。

 難点は、喜怒哀楽が分かりやすく、心理戦などには向いていないだろう。


―――藤原ふじわら ひとみ―――

 学年は3年生。的中率は95%

 不動たるエースだとは思っているし、おそらく相手の精神を破壊するには、一番適任だと思っている。

 難点は、一人だけ流派が斜面打起しなのと、人間性として、チームを引っ張る力があるとは思えない事だ。


―――妹尾せのお 沙織さおり―――

 学年は1年生。的中率は75%

 一応礼儀は重んじているし、言葉で相手を攻撃するだけの破壊力も持っている。

 知能も高いし、全体的にバランスが取れているタイプといったところだろうか。

 難点は、一年生ということと、協調性がないところだ。



「これはゴールデンウィーク明けまで、答えがでねぇな……」


――――カシュンッ

     ――――パァンッ

   ――――――カシュン―――パァンッ!


 弦を離す音と、的に矢が刺さっていく音が響く。

 的場には相変わらず、黒いスーツ姿の男が待機していた。

 普通は自分達で矢取りをするのだが……悩んだ結果、一本でも多く矢が射てるようにと、そういった理由だった。


(矢も大事に扱うし、なにより効率よく練習できるからな。これはこれで、助かるかもしれない)


《ピピピピ、ピピピピ♪》


 俺のスマホが鳴り出したので、矢取り道から少し離れる。

 画面には「姉ちゃん」と表示されていた。

 スワイプして耳にあてがう。


『あ、葵〜。最近、調子はどうかしら〜?』

「ああ、まぁまぁいいよ。どうしたの?」

『いやね、部活の子達を連れてね、ウチのお店に食べに来たら〜どうかなって思ってね〜』


 お姉ちゃんの喋り方は、相変わらずおっとりとしている。

 俺は少し考えたのち、行くよと返事した。


『うん、わかったわ〜また連絡ちょうだいね〜待ってるから〜』


 通話を終え、ポケットにスマホをしまうと、再び射場で弓を引く4人へと向き直る。


「確かに、練習ばかりじゃなくて、息抜きも必要だよな。みんな頑張っているもんな」


 そして俺は、明日の部活を休日として、明後日ご飯を食べにいく事を皆に伝えた。

 練習ばかりやってても、面白くないもんな。

 姉ちゃんの思惑通り、皆嬉しそうにな表情になったよ。

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