第19話 部活の目標

 俺は水色の髪をした少女を、仕方なく弓道場へと案内する。

 矢取り道では、そよそよと心地よい風に吹かれている、華やかな桜の木々。

 春色の花びらが、綺麗に咲いていた。


「ここが、この学校の弓道場ですのね。思ったより狭いですわ」


 なんでこうも、この学校の弓道に関わる少女はみんなこういう性格なんだろうな。

 曲がっているというか、ワガママというか。そもそも第一声が狭いとは。


 確かにこの弓道場は広くないが、個人的には十分な広さだと思うけどな。

 いったいこの少女は、どんな場所で練習してきたんだろうか?

 そんな事を考えながらも、俺はその場から去ろうとする。


「じゃあそういう事で」

「ちょっと、待ってほしいですわ」


(はい、出ましたこのパターン。俺が教師だってわかってるんだろうか? 全く、今時の女の子って奴は)


「俺、職員室に戻らないといけないからさ」

「……そう、じゃあ後でいいですわ」


(はぁ、まあいっか。とりあえず戻ろう)


 俺は後ろ向きでその少女に手を振ると、職員室へと向かった―――



 職員室へと戻ると、自分の机へと向かう。

 すると机の上には、一枚の用紙が置かれていた事に気がつく。

 綺麗な字で、丁寧に書かれていたそれは、入部届けだった。

 隣の席に座っていた女性の先生が、入部届けについて教えてくれる。


「あ、後藤先生。それ、先程黒いスーツ姿の人が持ってきたんですよ? なんでも、弓道部に入部したいというので」

「黒いスーツの人ですか……わかりました」


 その入部届けには「妹尾せのお沙織さおり」と書かれている。

 それにしてもスーツ姿の人って……あぁ〜考えるのはよそう、頭が痛くなる。

 俺の様子を見てか、隣の先生がクスクスと笑う。


「でも、後藤先生が弓道部の顧問になってから、弓道部の子達が増えてますよね? すごいと思いますよ?」

「ははは、どうなんでしょうね。どちらにしても、6月にある試合には、出場出来そうで良かったですよ」

「そうなんですね。やっぱり、優勝を目指すんですか?」

「ええ。どこまで行けるかは、分かりませんがね」


 顧問になって部員が増えた。

 それは運がいいのか、はたまた偶然なのかもしれない。


 ただ一つだけ言えることは、弓道の試合開催が近づくにつれ、周囲では弓道の話題が出てくるほど、人気のある競技ということ。

 今はTVで試合を生中継される程、世間では人気を博している競技という事だ。

 無様な試合なんて、カッコ悪いしな。


「後藤さん、頑張ってくださいね! 試合を楽しみにしてますから!」

「ええ、ありがとうございます。是非、応援をよろしくお願いします」


 とは言ったものの、俺はあいつ等をどこまで連れて行ってやれるんだろうか……

 まず俺が部員達に掲げた目標は、県の選抜大会で優勝し、インターハイの出場権を獲得すること。

 そうすれば、榊󠄀原との約束も達成される。


(そっから先は、どうするべきなんだろうな。あいつ等は、どこまでついてきてくれるのだろうか)


 ひとまず今は、仕事を終わらせようと思う。

 仕事の書類を机の上に広げると、パソコンでその書類を入力し始める。

 パパっと終わらせて、道場に行かないとな。


 実は内心、水色の髪をした少女である妹尾を置いてきたことに、ちょっと後悔してる。

 何事もなければ、いいのだが。



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