第15話「勝負するニャ!」

 俺は弓道FPS台に座ると、レギュレーションを設定する。

 藤原の策により、試合をする事になったためだ。


・感覚Lvー向上

・身体能力Lvー向上

・使用する道具ー公式競技方法と同様

・矢の本数ー2本

 リロード時間ー60秒


 矢の本数を除いては、ほとんど公式戦ルールと同じである。


 身体能力の向上とは、弓を引く力が楽になるのと、スタミナが向上する。

 感覚の向上とは、音や気配に敏感になるといったところだ。


 技術的な部分に関しての補正はかからないとはいえ、実際に弓を引くのとは全然違うものとなる。

 ちなみに仮想空間上では脚力なども向上するため、練習次第では忍者みたいな動きも出来るようになる。


 俺はヘッドギアを被ると、目を閉じた———


  *


 ここは、さっき榊原と藤原が戦っていたステージだ。

 流れの速い蛇行した川を囲うように、背の高い木々が生えている。


 そのステージの両端には、川を渡るための橋が設置してある。

 俺は音声通信を介して、対岸にいる藤原に声をかける。


「で、なんで仮想空間だと、ネコ耳が生えているわけ?」

「クックック。それは可愛いからニャ!」

「その笑い方、なんとかならねぇのか?」

「ならニャいし、ニャおす気もないニャ!!」


 聞くんじゃなかったと思う。語尾にニャをつけるのも理解できないのだが……

 まあ本人が猫になりきっているのなら、それはそれでいいけど。


 ステージの上空に、対戦開始までのカウントダウンを表す、液晶パネルが降りてくる。


『3・・2・・1・・ー試合開始!』


 試合の開始直後、俺はすぐさま体を横へとねじる。


――――――――ヒュンッ――


 顔面の右側を勢いよく矢が通過した。


(いきなりすぎんだろ。つーか、さすがに斜面打ち起こしなだけあるな。矢をつがえてから、射つまでの間が短い)


 俺は姿勢を低くし、対岸にいる藤原の様子を横目で確認しながら、川の端部へと走り出す。

 続けてもう一本、俺の後ろを矢が通過する。


――――――ヒュン―――


 相手のリロード時間の隙を狙い矢をつがえる。

 弓構えをしながら対岸を走る藤原に狙いを定めると、矢を放った。

 もう一本、できるだけ短い間隔で2本目を射る。


――――バシュン―――バシュン!

         ――――カン――カンッ!


 藤原は弓を振るうと、俺の射った矢を全て弾く。

 やっかいな技を習得しているものだ。


「ニャッハッハ!! 結構強い矢を飛ばしてきたニャ!」

「そうかい、そりゃどうも」


 リロード時間の間に、出来るだけ川の端部を目指す。川を越えたいところなのだけど。

 川にかかる橋を越える直前、木の上に登っていた藤原から矢が放たれる。

 おいおい、サーカスじゃねえんだぞ。


―――――バシュンッ

        ――――――パスッ


 俺はなんとかその矢を避けると、橋を渡った。

 弓構えをしつつ、木の影へと身を隠す。


「ほれほれ!! 隠れてないでかかってくるニャ!!」

「精神攻撃がお上手なようで」


 川の水面に映っている藤原の姿を確認し、タイミングを見計らって木の影から飛び出す。

 飛び出したと同時に、会に入っていた俺は、瞬時に狙いを定め、矢を射る。


――――――――バシュン!!――


「そんなの、お見通しニャ!!」


 タイミングを見計らったと思っていたら、逆に誘われたようだ。

 木からジャンプした藤原は、落下しながら会に入っている。


 時の流れが急に遅く感じる―――


(まずいな、このままだとやられる!)


—―――——バシュンッ!!


 藤原は落下しながら矢を放つ。俺はそれと同時に、持っていた弓を振るい、飛んでくる矢を受け止めようと構えた。

〈バキッ!〉弓をえぐるようにして、飛んできた矢が直前で軌道を変えた。


「ニャにぃ!? まさか今のを防ぐとはニャ……」


 クルクルと回転しながら、藤原は地面へと着地する。

 その着地した瞬間を狙うようにして、俺は弓を反らせると、矢を射った。


―――――――バッシュン!!


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