第14話 変人すぎぃぃ!

 試合を終え、弓道FPS台から出てきた榊原。

 よほど悔しかったのか、ギリギリと歯を食いしばっている。


(すげぇ表情……細いスルメなら、噛みちぎれそうだな)


 榊原の隣にある台から、制服姿の少女が出てきた。

 紫色の髪の長さは肩くらいまであり、レンズのない眼鏡を掛けている。

 紫色の前髪を手でかきあげると、俺の顔を見るなりニヤニヤとしている。


「クックック。さてはお前だな? 真弓高校弓道部の新しい顧問は。その長髪、はっきりいって変だぞ?」


(いや、きつい……クックックとか言ってるし。かけてる眼鏡、レンズねぇし……なんでフレームだけなんだよ)


「色々と聞きたいのだけど、長くなりそうだから、これだけ教えてくれ。君は何者だ?」

「真弓高校、今年3年生。藤原ふじわらひとみだ。他に何か、質問はないのか?」

「なんでその眼鏡、フレームだけなんだ?」


 藤原と名乗った少女は、なんだそんな事か? といった表情となる。

 俺の言葉を無視して、瞬時に矢野の背後に移動してくると、抱きついた。


「ちょっと! なによ急に!?」

「クックック、柔らかそうだな〜と思って!」

「や…やめろぉおお!! この糞女ぁぁぁ!!」


 モゾモゾと矢野の体を触りまくる紫髪の少女。

 矢野が必死に抵抗しているが、その技は全て避けられている。


(あぁ…なんか疲れてきた。でもこの少女がおそらく)


「なあ藤原さんとやら、俺たちこれから部活の練習なんだ。申し訳ないけど、をやめてもらえるかな?」

「ほぉう……私が邪魔だと言いたいのか? そうなのか? そうであるのか?」


 矢野を触っていた手を止め、その場から離れると、こちらへズイっと寄ってくる。さらにはジロジロと俺を観察し始めた。


(なんなの? この変わった子)


「なあなあ、後藤先生とこの変態娘が試合したら、どっちが勝つんだ?」


 榊原がとんでもない事を言い出した。マジでやめてほしい。

 その言葉に目が笑う藤原より先に、俺は言葉を発する。


「練習があるだろ? 試合はしないぞ」

「ほぅ、私から逃げるのか?」


 ほらみろ、面倒な事を言いはじめたぞ。

 少し個人的に聞きたい事があったので、榊原と矢野には弓道FPS台で練習しているように指示を出した。

 渋々2人は弓道FPS台に入ると、仮想空間へと移動ダイブする。

 モニターに映った2人の姿を確認すると、この少女に聞いてみる。


「藤原さんとやら、君は弓道部員だよな? まあ幽霊部員なんだろうけど」

「そうだぞ。さもなくば、ここには来ていないな」

「話を戻そう、君に一つ聞きたい事がある」

「なんだ? スリーサイズか? それとも連絡先か?」


(そんなものに興味ねぇよ……わかってて言ってんな)


 俺は呆れたようにため息を吐くと、正式な部員として活動する気はないかと聞いてみる。


「いいぞ。幽霊ではなく、ちゃんとした部員として活動しようではないか」


 少女の返事は予想外にも前向きで、あっさりと承知してくれた。

 なんつーか、これで3人揃ったわけだ。

 チームとして上手くまとまるかどうかは、ひとまず置いておこう。


 すると突然、藤原は眼鏡を外し、制服を脱ぎ始める。

 え? 何してんのこの娘?

 きわどいラインまで制服をはだけさせると、こんな事を言い出した。


「私と試合をしないなら、今から大声を出すぞ? どうする?」

「はぁ……そこまで試合したいなら、わかったよ」


 藤原は、俺にフフフと笑ってみせる。

 内心、クックックじゃなくて良かっと思う。


 ふと気が付けば、仮想空間から榊原と矢野が戻ってきたようだ。

 この光景を見てだろう、すぐさま顔を歪めた。

 俺とその2人に挟まれるように藤原が立っていて、何か誤解されたのだろう。

 戻ってくるタイミングは最悪だったと思う。


「キモロン毛、あなたって……」

「なんだ!? 何をする気だったんだ?」

「なぁ、藤原から説明してやってくれよ?」


 はだけた制服を元に戻しながら、こちらを眺めている藤原。

 一瞬だけ口角が上がり、悪魔のような笑みとなる。

 なんだか非常に危険なものを感じる。


 藤原は後ろに居る2人に振り向くと、こんな事を言い出した。

 完璧なその演技はまさに、女優の爆誕である。


「先生に……初めてをとられちゃった。グスンっ」


「この糞キモロン毛!! 消えてなくなれぇぇぇぇ」

「最低野郎がぁぁぁぁぁぁ!!」


 鬼のような形相をした2人は、勢いよくこちらに飛びかかってきた。

 それは阿修羅なのか、鬼神なのか、とにかく怖い。

 にしても、こういった時だけ息ピッタリなんだよな。

 無論、そのあとの結末は黒歴史としておく事にする。



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