第11話 再会、本城晃
次の日の早朝、学校に集合した2人を車に乗せ、今日の練習場所へと向かっている。 白いバンのルームミラーに映っているのは、無言で離れ離れに座っている2人の少女。
外出先での練習なので、2人は私服姿だ。
矢野は落ち着いた雰囲気の白いワンピース。
榊原は派手なトレーナーに、黒いミニスカート。
口が悪いのは似ているのに、服装の趣味は全然違うようだ。
矢野なんて黙っていれば清楚に見えるのに……ミラー越しの視線に気がついたのか、矢野の眉間にシワがよる。
榊原は懸命にスマホを操作しているようだ。
(ったく、いちいち反応するなっての……)
「さて、もうすぐつくよ」
学校から40分程車を走らせた後、弓道専用のアリーナへと到着する。
景色をぐるりと見渡すと、広範囲に広がる緑の山々。
山の中にあるものの、この施設はまだ建てらて年数がたっていない。
真弓高校と同じように、弓道の競技方法が新ルールになった際、建設されたアリーナだからである。
この施設には弓道FPS台が多数設置されており、弓道部員であれば無償での使用が可能となる。
ポツポツとアリーナの外を歩く、他校の弓道部員らしき姿もあった。
駐車場に白いバンを停めると、2人と一緒にアリーナの受付へと向かう。
手続きを済ませたのち、所定のブースへと向かうように声をかけた。
「ブース番号は七番だそうだ。どうやら個室になっているらしい。2人は先に行っててくれ」
「……ロン毛先生は、何か用事があるのか?」
「外で煙のチャージをしてからいく」
その言葉に、矢野が呆れたようなため息をつく。
榊原は気にしている様子もなく、早く行こうと矢野に声をかけている。
それにしても、後藤先生と呼んでほしいものだ。
そんなことを思いながら、喫煙スペースへと向かった。
「ロン毛先生ってのは、ちょっと悲しいよなぁ〜」
アリーナの野外に設置されているその場所で、ポケットから電子タバコを取り出す。カートリッジに装着したタバコの準備が出来たところで、口に咥えた。
「フゥウウウー……」
曇った空に向かって顔を向け、白い煙をゆっくりと吐く。
煙を吐いていると、突然誰かに名前を呼ばれた気がした。視線をそちらへと向けると、そこには懐かしい奴が立っていた。
「お前は……もしかして晃なのか?」
「よぉ! やっぱり葵だったか、こんなところで会うとは、偶然だなー」
こいつの名前は「
会うのは数年振りだが、相変わらずって感じだな。
「ここに来たって事は、もしかして弓道をやる気になったのか?」
「ははは……いや、それがな」
俺は教師へと転職した事、それと弓道部の顧問になった事を伝える。
晃は腰に腕をあて、なんだか嬉しそうに笑い始めた。俺は嬉しくねぇけどな……
晃は大学卒業後から教師なり、弓道部の顧問をしているのだが、去年はインターハイに出場するほどまでの強豪校にまで成長したらしい。
「へへ! つー事は、そのうち葵の学校と対決するかもしれねぇな。こりゃ楽しみだぜ!」
「おいおい、晃の高校と対決しても、勝てる気がしないんだけどな〜」
「そうなのか? 理由は知らねぇけどよ。葵にしては弱気じゃん、昔は誰よりも熱血少年だったのによ〜」
「そうだったか? だってー……」
俺は途中から言葉に詰まる。だっての後に言おうとした言葉を、自分の中で押し殺したからだ。
(どうせ勝てないだなんて……どうかしてるな、俺……)
晃は首を傾げたが、腕にしている時計を見るなり、その場を去ろうとする。
「ま、なんでもいいけどよ。俺も生徒の練習があっからさ! 葵もタバコばっか吸ってないで、早く行けよな!!」
「へいへい、わかってますよ」
もう一本のタバコをカートリッジに装着すると、口に咥える。
その頃にはすでに、晃の姿はアリーナ内へと消えていた。
「昔か……もう、昔の俺とは違うんだよな……」
煙を再びチャージしたのち、吸い殻を灰皿に捨て、アリーナ内へと向かう。
なぜか咳が出るわけでもないのに、肺が少し痛むような気がした。
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