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「はいお待たせ、『お子様ランチ』と『ハンバーグ定食』ね。今日は鮮度がいい野菜がたくさん入ったから付け合わせは奮発しといたよ‼︎」
そう言いながら俺たちのテーブルに見事なお子様ランチとハンバーグ定食が運ばれてきた。熱々の鉄板の上にデミグラスソースのたっぷりとかかったハンバーグと付け合わせの根菜類とキノコが並んでいる。欲を言うならばライスが欲しいところだが、生憎この国には流通してこないのでパンと共に食べる。お子様ランチは四つに仕切られた皿に少し小さめだが同じハンバーグ、トマトソースをあえた短めのパスタ、パン、パウンドケーキのような焼き菓子が並んでいる。
「ありがとう、カミラ。ではでは…『いただきます』」
「飯を食うときにそんな丁寧に挨拶するなんてアンタぐらいのもんだよ、ささ、お嬢ちゃんも冷めないうちに食べな」
「ありがとう…じゃあ『いただきます』」
「おっと、ここにもいたよ。ゆっくりしていきなね」
カミラがロナリーの頭をポンポンと撫でてカウンターに戻っていく。撫でられたロナリーは少し照れくさそうだ。
「食おうぜ」
「……うん。」
彼女は運ばれてきたお子様ランチのハンバーグをナイフで切り、口に運んだ。そして
「………おいしいっ…‼︎」
とても驚いた顔をした。俺はというと自分が提案したメニューが目の前で褒められるとやはり嬉しいもので、明るくなった彼女の表情を気持ちよく眺めていた。
「だろ?このハンバーグをメニューに提案したのは俺だからな。二十一世紀の日本のデミグラスハンバーグに味もなるべく近づけてるんだ」
「本当に…本当に美味しいっ‼︎………この世界の人間がこんな美味しいものを産み出していたなんて…。こんな……良いイレギュラーだわ…」
俺の耳に入ってきた彼女の独り言はもう自分の素性を自白しているようなものだった…。俺は「さっきまでの回りくどい嘘は一体なんだったんだ…」なんて思ったが後で全て暴けばいいことなので一旦スルーして食事に手をつけた。
「今日の『カルポトのグラッセ』、本当に甘いな…、めちゃめちゃ美味い。ロナリーも食べてみろ、美味いぞ」
「あー、うん。美味しそうね。まぁでも気分じゃないからあんたにあげるわ…」
そう言いながら彼女は俺の皿に「カルポトのグラッセ」と「ケリル菜のソテー」を移してきた。野菜が嫌いなんだろうか…?まぁ、タダでくれるというのでありがたく貰うことにした。
「そういえばサクマ、結局その子の怪我は大丈夫だったのか?」
「ああ、それね、もうね、無傷も無傷よ。キレイキレイ。な?ロナリーさんや…」
「あ、う…うん」
「しかし本当に参ったよ。あの救護車の中での沈黙の時間はもうね、地獄というかなんというか…」
「それで、なんでまだその娘と一緒にいるんだ…?ロナリーちゃんだっけ?君のご両親は?」
「どうもなぁ、ロナリーは俺と同じ『流れ者』らしくてな。行くアテがないっていうんでどうしようか悩んでいたんだ。エル、どこかアテはないか…?」
「ちょっと、なに勝手に…‼︎」
「勝手にって…、今この状況はさっきのお前の『勝手』が生み出した結果だぞ?実際、今夜泊まる場所もないんだろ?」
「………」
「まぁまぁ…二、三日くらいならうちに泊めてもいいけど…。嫁と娘もいるから女の子が泊まれる準備ならあるし…」
「じゃあお願いできないか?俺は明日朝から仕事だし、迷惑かけるな」
「まぁまぁ、君だって突然の事だっただろうし、『困難は分割せよ』ってね。良いよね、シシリー?」
「ええ、もし決まってないのなら是非ともうちにいらっしゃい。客人用のベッドは無いからサリーと一緒に寝てもらうことになるけど…サリーはそれで大丈夫?」
「いいよー」
奥さんのシシリーも娘のサリーも二つ返事で了承してくれた。嗚呼、エルよ、そしてエルの家族よ、本当に君達はこの世の人間なのか…?善人が過ぎるだろ…。
「本当にありがとう、エル、シシリーさん。恩に着るよ」
「いいっていいって。ところでロナリーちゃん、差し支えなければファミリーネームを聞いてもいいかな?」
「あ……、えっと…」
「どうしたんだエル、突然…」
「いやいや、ほんの興味なんだけど、『ロナリー』って名前は結構珍しいんだ。だからファミリーネームが気になってね…。ごめんね、ロナリーちゃん。言いたくないなら別に…」
「……いえ、大丈夫です。『リエット』です。ロナリー・リエット」
「『ロナリー・リエット』………。」
彼女のフルネームを聞いたエルは何かを『思い出してしまった』ような、でも自分の中で納得がいく回答が得られていないような顔をしている。そして少しして彼はまた口を開いた。
「…いや、まさかな。でも……。ロナリーちゃん、君は……、君は本当に…、いや、君は何処からの『流れ者』なんだい…?」
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