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 「イギリス産業革命」は蒸気機関の発明、紡績業、製鉄業が発展し、経済的成長が著しくなった事である。であった筈だ。俺のいた世界では…。

 しかしこの世界における産業革命は多少違うようだった。変革を目撃できるかもしれないとワクワクしていた俺は少しガッカリしたが、そこは流石は異世界といえるのだろう…。そう思うことにした。この世界における産業革命では移動手段が大幅に増えた。軽自動車の様な乗り物「蒸気車」が完成し、なんと同時期に飛行船まで完成したのだ。元々飛ぶ風船はあったので作るのは容易かったのだろうと想像したが、科学と魔法のハイブリット式だというので驚いた。元々紡績業や製鉄業はそれなりに発展していた様だし(人々の服装から見てとれる)、飛行船の胴体を作る事は容易だった様だ。そこに魔法の浮力と化学の推力を加えたらしい。どうやらこの世界の技術革新は俺の予想を大きく外れて面白い方向へ発展しているようだ。


『おい見ろよ、サクマ‼︎飛行船だぜ‼︎』

『子供みたいにはしゃぐんじゃねぇよ、カブロ。ここ最近は毎日見てるじゃないか』

『だってよ、俺が生きてるうちにあんなすげぇものが見られるとは思っても見なかったんだもんよ‼︎少しぐらいはしゃいだって良いじゃねぇか…』カブロは初めて買ってもらったおもちゃに感動する子供のようにキラキラと目を輝かせていた。カブロとこの話をしていた時、俺は十八~十九世紀のイギリスでは平均寿命が現代より短かかった事を思い出していた。


……そうか、そうなるとカブロはいつ死んでもおかしくない歳なんだもんな。


『……なぁカブロ』

『ん、なんだよ』

『いつかよ、お金が貯まったらでいいんだ…、あの飛行船に乗って世界一周とか行きたいよな…』

『おぉ、いいじゃねぇか、てか、どうしたんだよ急に。珍しい事を』

『別になんでもないさ、気まぐれだよ』


  「エレキテルスチーム」が世に出回ってから少し空気が汚くなった空をカブロと見上げながら、俺は今日も単発の仕事をしてその日暮らしの金を稼ぎ、住処へ帰る。不思議なことに俺はこの妙にテキトーな仕組みで転生した俺に優しくはなかった世界で過ごすことに慣れ、少しずつ前を向けていた。この世界で過ごし始めてもう一年程が経とうとしていた。

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