58-偵察


 何故こんなことになったのだろうかと、黒葉菫は考える。

 灰色海月が願い事の手紙を回収し、獏が善行に向かった。ここまではよくあることだ。黒葉菫も獏の監視役代理を務めたことがある。だからそれはわかる。

 その後、獏はなかなか帰って来なかった。時間の掛かる善行なのだろうと黒葉菫は思ったが、彼はそう思わなかった。椒図は獏に何かあったのではないかと心配した。

 様子を見に行く役に蜃が立候補した。獏のことはどうでも良いが外の空気を吸いたいと言いながら行った。ついでに裸足のままの椒図に靴を買って来てやると言っていた。幾らか理由を作らないと獏の迎えに行けないらしい。椒図は蜃が行くことに渋ったが、渋々頷いた。

 蜃が出て行ってから黒葉菫は椒図に呼ばれ、やはりあの二人だと心配だから様子を見に行ってほしいと頼まれた。万一何か問題が起こっていたとすれば、対応する人数は多い方が良い。そのための無色の変転人だ。

 黒色海栗と浅葱斑は、また悪夢が襲って来た時のために街にいる。浅葱斑は少し離れた所でぶんぶんと手を振っていたが、自分が行くことにならないように避けていたのだろう。

 そこまでの流れとしては特に疑問を持つことはなかった。だが獏と蜃の許へ行った黒葉菫は今、あの夜の透明な街ではなく酸漿提灯の並ぶ宵街にいる。何故こんなことになったのかと疑問と焦燥が消えない。黒いマレーバクの面を被った獏の表情は見えないが、観光にでも来たかのようにきょろきょろと物珍しそうに辺りを見渡している。蜃は杖を手に警戒して黒いフードを目深に引くが、そもそも宵街に来なければ警戒することもないはずだ。

 失礼だとは思いつつ思わず黒葉菫は二人の首根っこを掴み、酸漿提灯と石段から離れて石壁と蔦の茂みに引き摺り込んだ。

「説明してください。様子を見に行っただけなのに、何で宵街に連れて来たのか……」

 獏は周囲に誰もいないか確認し、不安そうな黒葉菫に微笑みかけた。

「大丈夫だよ。少し様子を見るだけだから。僕は宵街のことはあんまり知らないし、スミレさんが来てくれて良かった。ついでになっちゃったけど、木霊にも会っておきたいな」

「何でわざわざ危険な所に自ら行くんですか……狴犴がいるんですよ? 貴方には烙印もある。宵街に来たことはもう知られてますよ!」

 声量は落としているが、狼狽は伝わる。獣に襲われれば只では済まない変転人なら、その警戒は当然だ。

「それはわかってるよ。でも誰かが動かないと、この膠着状態は解けない。烙印は厄介だけど、居場所が筒抜けなのに宵街に来る理由がわからなくて、狴犴は混乱するかな? なんて。もし僕の所為で誰か来たら、二人は構わず逃げてよ。僕が誰と宵街に来たかまではわからないんだから。巻き込んでごめんね、スミレさん。杖を回したのは蜃だけど」

「…………」

 優しい声で言われても、自ら危険に突っ込む神経は理解できなかった。様子見だと言っても、危ないことには変わりない。こういう仕事は本来変転人が任されるべきものだ。それを獣が相談もなく自らを盾にしようとしているのは、変転人の黒葉菫には不可解で腑甲斐なかった。獏と蜃どちらが言い出したことなのかは知らないが、危険が迫れば守らなければいけないのは黒葉菫の方だ。獣の方が力があることはわかっているが、無色は皆そうして短命だ。

「スミレさんに怒られちゃったから、様子見は本当に少しだけだよ、蜃」

「変転人って怒るんだな。白はともかく」

 会話に緊張感がない。黒葉菫は呆れながら、もう一歩暗い茂みに踏み込み立ち上がる。

「石段を堂々と歩くわけにはいかないので、路地を通って木霊の所まで行きます。獣の棲む上層には近付きません。それでいいなら案内します」

「ありがとうスミレさん。助かるよ」

「……貴方には助けられたので」

 獏は命の恩人だ。無下にはできない。

 仕方ないと俯く黒葉菫に、獏もさすがに少し反省した。

 暗い蔦の茂みを足で分け、石壁に打ち付けられた疎らに灯る不揃いな街灯を頼りに細い路地を進んだ。充分に石段から離れた所で、上に登っていく。路地の奥の石段は一本道ではなく、黒葉菫の案内がなければ迷っていただろう。短い石段と坂道、行き止まりを繰り返す。

「何でこんなに迷路みたいなの? 皆迷わない?」

「始めは迷いました。今も歩いたことがない場所は迷います。街灯がそれぞれ違う色と形なので、それを目印にしてます。何でこんな風なのかは俺も考えたことなかったです」

「スミレさんがいてくれて良かったねぇ」

「この辺りを歩くのは俺も初めてですが」

「え?」

 獏はぴたりと立ち止まり、辺りを見渡していた蜃は思い切り背中にぶつかった。

「急に立ち止まるな」

「スミレさん、それって道がわからないんじゃ……?」

「方向は合ってるはずです」

 何処から来る自信なのか黒葉菫は動じない。彼に付いて行っても良いのか途端に不安になった。

「おい、人の気配がする。一旦隠れよう」

 杖で背中を突かれ、一旦会話を切る。気配があることは獏も気付いていた。石壁の角に身を潜め、気配が去るのを待つ。ちらりと姿が見えたが、おそらく変転人だ。

「この辺に棲む有色ですね。もう少し上に行けば無色もいます」

「白にだけは遭遇しないようにしないとね……」

「狴犴が動く前にさっさと行こう。どうしても回避できない時は俺が力を使う」

 気配が遠離り、石壁から顔を出して様子を窺う。再び黒葉菫の後に続き、早足になりながら路地を登った。

 地面は石が敷かれている所もあれば土の状態の所もあった。蔦は何処にでも生えていたが、土が続くと茂みも出て来る。

「あの街と似てるね。蔦は無いけど」

「配置は宵街を参考にしたからな。だから路地が多い」

「あんなに大きな街を作れるのは、想像力が凄いんだろうねぇ」

「……褒めても何も出ないからな」

「褒めてほしいの?」

「…………」

 緊張感無く会話を続けていると、茂みが深くなってきた。足元が暗く、蔦が絡み付いてくる。石壁は途切れながらも続き、街灯が少ないそこで黒葉菫は突然立ち止まった。

 辺りに人の気配はない。黒葉菫が蹲み、獏と蜃も首を捻りながら屈んだ。姿勢を低くすると、蔦と茂みに隠れた街灯が足元にぽつんと刺さっていることに気付く。明かりが点いていないので、立っている時は気付かなかった。

「この消えた街灯が木霊のいる畑への入口です」

 二人はきょとんと目を瞬き、黒葉菫の顔を見た。冗談を言っているようには見えなかった。記憶が確かなら木霊は温室のような場所にいると言っていたはずだが、付近にそんな物は見当たらない。

「街灯の上に手を置き、反時計回りに回してください。少し回せば開きます」

「変転人の傘みたいな物……?」

「だと思います。宵街の中に別の空間を作ってるらしいです。手本を見せます」

 街灯に手を置き、きり、と回す。本当に少し回しただけで黒葉菫の姿は忽然と消え失せた。

「僕からやっていい?」

「おう……」

 獏と蜃も順に街灯に触れ、姿を消す。

 瞬きの間に景色は一変し、先程より幾分明るい空間が広がった。四角い大きな石が不規則に積まれ、そこに土が詰まっているのか葉が茂り花が咲いている。花壇のようだった。奥に木も生えている。確かに温室のような場所だった。まさか別の空間に存在する物だとは想像すらしなかった。

「宵街の中とは思えないね。思ったより広い」

「広いように見えるだけで、思うより狭いですよ。壁が見えないので広いように見えてるだけです」

「へえ、そうなんだ」

「ここからは足元に注意してください。踏まないように」

 注意を促して歩き出すので、二人も付いて行く。足元に広がる植物を踏まないように気を付ける。

 軽く畑を見渡してみるが、人影はなかった。

「わっ」

 足元に動くものを感じ、獏は慌てて足を引く。あまりに突然だったので、背後の蜃に勢い良く肘が入った。

「殴られたいのか君は……」

「ごめん、わざとじゃないんだ」

「俺が前を歩く」

 突然立ち止まったり肘を食らわされたり、後ろにいては堪ったものではない。獏を押し退けて前へ出る。

 何気無い行動だったが、今度は声に気付いた黒葉菫が勢い良く蜃の細い肩を掴んだ。

「!?」

「動かないでください。います」

「は……?」

 視線を下へ落とすので、蜃もゆっくりと下に目を遣った。獏も背後から覗き込む。

 足元の草の陰から、栗鼠のような生き物が覗いていた。掌に乗るような小さな生き物だった。

「これが……」

「栗鼠……?」

 尾や耳は栗鼠のようだったが、脚は鳥のようだった。頭には頬被りを、小さな穴から冠羽のようなものがぴょこんと生えていた。

「木霊です」

 足元を注意させたのは植物を踏まないためではなく、この小さな生き物を踏ませないためだ。蜃を一歩下がらせ、黒葉菫は地面に蹲み込んだ。

「少し話をしたいんですが、いいですか?」

 草の陰から警戒していた木霊は黒葉菫を見上げ、獏と蜃に目を遣った。小さな鼻をひくひくと動かしている。

「久し振りだ、黒葉菫」

 喋るとは聞いていたが実際に言葉を話す所を見ると、獏と蜃は揃って目を丸くしてしまった。

「獣か? 珍しい。話なら水遣りの後にしてくれ」

 子供のような声をしているが、言葉遣いは偉そうだった。

「では小屋で待ってます」

 立ち上がり、惚けている二人を促す。木霊を踏まないようにゆっくりと横切り、少し離れた場所にぽつんと立っている小屋へ向かった。距離があるため小さく見えていると思ったが、近付いても小さくドールハウスのようだった。木霊の大きさに合わせた小屋のようだ。人も頭くらいなら入ることはできるだろう。小屋は石の土台の上に立っており、その段差に三人は腰掛けた。

「置物みたいに動かないって聞いてたけど、素速く動いてたね。それに思ったより喋ってる……」

「踏まれると潰れるので逃げたんだと思います。喋ってるのは獣相手だからかもしれません」

 三人は木霊がいた場所の辺りに目を向けるが、植物で隠れて小さな体は頭すら見えない。あんな小さな体で水遣りなどいつ終わるのだろうか。手伝った方が良いのではと思い始めた時、畑の上空に小さな印が展開された。

「!」

 印からは雨のように水が降り注ぎ、ゆっくりと移動していく。

「木霊って印が使えるの!?」

「体が小さいので、畑の世話をするのに必要な印は使えるそうです」

「何で言ってくれなかったの!?」

「え……必要な情報でしたか……?」

「ああそうか……スミレさんには話してなかったね……」

 剥離の印については椒図と蜃にしか話していない。まさか変転人の黒葉菫が情報の欠片を持っているとは思わなかった。何事も決め付けてはいけないと反省する。

 畑の隅々まで印で水を遣り終えると、木霊は細い脚でぱたぱたと駆けてきた。小さな石の上にちょこんと腰掛ける。今は命の危険はないはずだが、俊敏な動きだ。座るとその奇妙な姿も相俟って確かに置物のように見える。

「獣が話とは? まずは顔を見せろ」

 ここは大人しく従っておいた方が良いだろう。獏は仕方なく面を外し、蜃もフードを脱いだ。木霊は黙って人形のような綺麗な顔と、黙っていると大人しそうな少女の顔をじっと見詰めた。

「ふむ。知らない顔だ。知らない獣だったか。黒葉菫、この者達は何用で来た?」

「……俺が説明するんですか? 貴方が説明した方が……」

 獏に目を遣り説明の役を譲る。最初に木霊の名前を出したのは獏だ。黒葉菫が説明するより要点を得るだろう。

 木霊も視線を追い獏を見る。その視線を少し下げ、首を見た。

「その首輪、罪人か?」

 その質問にはすぐに答えることができなかった。獏は特殊な罪人だが、木霊はそれを知らないだろう。獣と関わる機会の多い黒葉菫も知らなかったのだから。宵街で罪人と言えばそれは地下牢に直結する。その外にいることを何と説明すれば良いのか、事実を話した所でそれを信じるのか。

(下手に言い訳がましく言う方が怪しまれるかな……)

 せめて木霊の立ち位置がわかればと思うが、それを今訊くのも怪しいだろう。

「……見ての通りだよ」

 相手に判断を委ねるような返事に留めたが、木霊はこくんと頷いた。

「私は罪人が好きだ。いいだろう」

「えっ?」

 考えながら返事をした時間は何だったのか。思わず石段からずり落ちそうになった。蜃も目を丸くしている。

「罪人が好きなんて初めて言われたよ……」

「ふむ。私は狴犴が嫌いだ。故に狴犴に虐げられる罪人を好く」

「極端だね……でもそれなら丁度いい。何で狴犴が嫌いなの?」

「この畑の拡張を狴犴に申請したが、あいつは聞く耳を持たなかった。故にだ」

 狴犴の名前を出すのも嫌だと言わんばかりに木霊はふんとそっぽを向く。小さな恨みに見えるがこれは獏達には都合が良い。

「いつ見つかるかわからないし、早く話を済ませてしまおう」

「ああ、ここは不可侵空間だから狴犴に感知されることはない。あいつが入ってこられないよう細工をした。安心するといい、罪人。首輪を外せるなら外しても問題ない」

 畑を拡張してもらえない恨みは相当のようだ。何て居心地の良い空間なのだろう。

(つまり……この空間に入った時点で急に気配が消えたってことだよね。余所に転送したと思われる可能性もあるけど、場所が場所だけにこの空間に入ったと思うよね……どう転ぶかな)

 首輪から垂れる鎖を見下ろし、だが不安な顔はしない。今は目の前の木霊との会話が優先される。

「じゃあスミレさん、ここにいる間は首輪を外してよ。肩が凝りそうで」

「はい。わかりました。……本当に感知されないですよね?」

 改めて確認する黒葉菫に木霊は大きく頷いた。その言葉を信じて首輪の短い鎖を引いて外す。露わになった烙印を見て木霊は満足そうにうんうんと小さく頷いた。

「宵街を狴犴が仕切るようになってから罪人が増えた。上の子が仕切っている頃は多少の悪さには目を瞑っていたものだが。それで、私に話とは?」

「植物の変転人について聞きたいんだけど……今の話は何? 上の子とかって。ちょっと気になる」

 獏は蜃を一瞥するが、首を振る。獏は宵街には棲まず足を踏み入れることもなかったが、蜃もまた獏ほどではないがあまり宵街に出入りしていない。木霊の話に心当たりはなかった。

「椒図なら宵街に棲んでた時期があるが、俺は棲んでない」

 ふと出した名前に、木霊はぴくりと耳を動かした。

「椒図は末の子だったか。面識はないが、今は地下牢だと聞いた」

 目立つタイプではないはずだが椒図はそんなに有名人なのかと蜃は首を捻る。木霊は彼を知っているが脱獄したことは知らないらしい。ここはあまり多く語らない方が良いだろう。

「上の子とは、龍生九子りゅうせいきゅうしの上の子のことだ。最初は長子の贔屓ひきと次子の鴟吻しふんが宵街の統治をしていた。第三子の蒲牢ほろうも偶に顔を出していたな。上の三人が第四子の狴犴にその座を譲り、今の宵街になった」

「九子、って……九人兄弟?」

「ああ、そうだ。龍が生んだ九人の子供達だ」

「九!?」

 一番驚きを示した蜃は石段から跳び上がりそうになった。龍生であることより兄弟の多さに驚く。兄弟が多いことは椒図から聞いていたが、まさか九人兄弟とは思わなかった。その末子が椒図なら、上に八人の兄や姉がいることになる。それは下の兄弟に憧れも抱くだろう。街に戻ったら少しくらい兄貴ヅラさせてやろう……蜃は心の中でそう誓った。

「狴犴の他に今宵街にいるのは、椒図を除けば睚眦がいさい狻猊さんげいだけだな」

「睚眦!?」

 今度は二人同時に声を上げた。狴犴と椒図が兄弟だとは知っているが、まさか拷問官の睚眦まで血縁者だとは思いもしなかった。それが本当なら睚眦は弟に対して拷問を行い、腕と脚を切断したことになる。

「狻猊もなんですね……」

 口をあんぐりと水から揚げられた魚のように唖然とする二人とは異なり、黒葉菫はもう一人の名前に反応した。

「スミレさんの知り合いなの?」

「変転人なら皆知ってます。変転人に服や傘を作ってくれる細工師です。貴方の杖の修理もしてくれてます」

「ハートの杖を渡してきた奴!?」

 獏は懐から可愛らしいハートの形の杖を取り出し項垂れた。碌な兄弟がいない。椒図に同情した。

「狻猊って、どんな人?」

「いつも煙草を吹かしてる男です。目視でサイズを割り出して服を作るので、採寸しなくてもいいそうです」

「服を作るには便利そうな力だね。ちょっと怖いけど」

 ハートの杖を見下ろし、折角宵街に来たのだから一言言いたい気もしてきた。

「睚眦は狴犴側だが、狻猊は中立だ。会うなら会いに行ってもいいだろう。ここより少し下がった所にあいつの工房はある」

「僕は罪人だけど、いいの?」

「あいつはそういうことには興味ない。適当な性格だ。服は正確に作るが」

「じゃあ僕の杖が修理できたか後で行ってみよ。いいかな? スミレさん」

「……わかりました。今のままだと誰も杖を受け取りに行けなさそうなので、そこまでなら許可します」

「ふふ。ありがとう」

 二人の会話を木霊はうんうんと頷きながら見守る。

 黒葉菫も獏と蜃と同じように驚いた反応をしているので、上の子が統治していたのは彼が変転人になるより前の話だろう。噂としても聞いたことがない所を見ると、相当昔のようだ。この木霊は随分と長命らしい。

「九子のことはもういいか? して植物の変転人について聞きたいこととは?」

 本題を持ち出され、獏は姿勢を正した。椒図の兄弟の話を聞きに来たわけではないのだ。

「植物の変転人は死ぬと種を遺すんだよね?」

 木霊は耳をぴくりと、眉を顰めるような顔をした。

「その話をされたのは二回目だ。狴犴にも昔、尋ねられた」

「!」

「その通りだ。植物の変転人は種を遺す」

「それで……その種はどうやって手に入るの? 死んだだけじゃ、種は……」

「誰か死んだのか?」

 言うべきか獏は迷った。狴犴を嫌う木霊に、狴犴に仕えていた彼の名前を出しても良いものか。

「狴犴は誰かが死んでここに訊きに来たの?」

「ああ。それは苧環と言った」

「……それ……その話、聞かせてくれる?」

 苧環の花はこの世に一輪しか咲いていないわけではない。偶然同じ花に人の姿を与えたとも考えられる。だが狴犴と関係があるなら、只の偶然とは言えない。白花苧環も言っていた。『使い捨て』だと。

「死んだ植物の変転人を埋めると、それと同じ花が咲く。土葬すると芽が出、火葬すると灰に種が埋もれている。そこから導き出される答えは、植物の変転人は種を遺すということ。それを聞き狴犴は死んだ苧環の種を埋めた。最近騒々しいが、狴犴の執着する今の苧環は四人目だ。余程気に入ったんだろう。先の三人は確か灰色だった。白は初めてだ」

「何で執着してるかはわかる……?」

「いや。私は花の世話で忙しいからな。ただ一人目は病で死に、四人目の白い苧環は変転人の取分け女人には受けがいい。それは知っている」

「苧環のこと、君はどう思ってる?」

「良い子……だろうな。狴犴にとっても。従順で身体能力も高い。同じ花でもここまで変わるものかと、私も興味深かった。最近、苧環を連れて来いと通達が出された時は、私の所へ来ないかと思ったものだが……。そうしたら苧環を匿って狴犴に渡さず嫌がらせ……コホン、悪いようにはしない」

「…………」

 嫌がらせって言った……という呆れた目を向けられ、木霊はもう一度小さく咳払いをした。

「苧環とは面識があったんだね」

「いや、面識はない」

 面識があるなら獏の所へ行くより木霊の所へ行った方が良かったのではないかと、結末がわかっている今なら思う。だが面識がないなら行きようがない。

 木霊から話を聞き、狴犴は嫌うが白花苧環のことは悪く思っていないことがわかった。花守である木霊には花を嫌うことなどできないのかもしれない。話しても大丈夫だろう、そう結論を出した。

「その四人目の苧環なんだけど……種のことを訊いたのは、その彼のことなんだ」

 木霊は目を丸くし、思わず立ち上がった。

「最高の生育状態だった苧環が……? 一体誰に遣られたんだ」

「狴犴だよ。首に印を付けられて」

「何だと……あいつは自ら花を手折ったのか! 何てことだ……」

 小さな手で顔を覆い、木霊は嘆き震えた。

「一度目は仕方ないことだったが、二度目三度目と変だと思ったんだ! まさか自らの手で……! ああ……それに気付いていれば四人目は私が預かったのに!」

「種を植えても全く同じ人が出来上がるとは思ってないけど、それでも僕達は苧環を……マキさんにもう一度会いたい」

「そうか……狴犴の手から救い上げるためにここに来たのか……それなら私も協力しよう。今、苧環の状態はどうなっている? 何処にいるんだ?」

「首を切られたまま寝かせてる。僕の牢にいるんだけど、地下牢じゃなくて、別空間の街なんだけど……どう説明したらいいのかな」

「私はそこには行かない。ここの花達から離れない。故に説明はいい。種は死後に生成される。体がそのままなら、体内に種はあるだろう」

「死後に生成って……時間の経過が必要?」

「ああ。人の体は死後に硬直し、そしてまた弛緩する。その間に種は生成される」

 獏は蜃に目を遣った。蜃は呆然とした顔をしている。おそらく木霊の説明を理解していない。

「時間の経過が無い場所にいるんだけど、それだと種が生成されない……?」

「何……? 特殊な環境下にいるのだな。確かにそれだと種は未生成かもしれない」

 毒芹の悪夢から種が零れたのは、毒芹自身はもう死んでいて種の生成も済んでいたからだろう。悪夢の中に種を取り込み抱えていたから、悪夢の消滅と共に種が零れた。

「わかった。一度あそこから出さないといけないみたいだね。その時はここに連れて来るよ」

「ああ、待っている」

 木霊は大きく頷き、勢い良く石段を跳び上がった。座る皆の間を擦り抜け、小屋へ入って行く。

「聞いてた話と違って、やっぱり足が速いよね」

「調子がいいんじゃないですか?」

「調子の問題なの?」

 板で作った坂道にがらがらと荷車を引き、息を切らせながら木霊が戻って来る。木霊の大きさに合わせた荷車なので小さいが、葉に包まれた何かを幾つも載せて重そうだ。

「若人達。飴ちゃんをやろう」

 はあはあと肩で息をしながら荷車を置き、葉で包まれた物を示す。

「飴ちゃん?」

「前に来た時もこれ貰いました。木霊が作った栄養食だそうです。美味しいですよ」

 木霊は疲れて蹲み込んでしまったので、各々手を伸ばして包まった葉を抓んだ。

「木の実を飴で煮た物だ」

 葉を解くと、棒状に固められた木の実が出て来た。細かく砕かれた木の実の種類は獏達にはわからなかったが、数種類が固まっている。二度目と言う黒葉菫が先に齧り、それを見て獏と蜃も不思議そうに口に入れた。飴と言うが固い物ではなく、柔らかい水飴のようだった。

「本当だ。香ばしくて美味しい……」

「美味い」

 荷車を背に座り込んだ木霊はタオルで汗を拭いながらうんうんと頷いた。黒葉菫が置物のようだと形容した時はもしかしたら疲れて休んでいた時なのかもしれない。

「もう一つ肝心なことを忘れる所だった。ねえ、剥離の印って知ってる?」

 飴を食みながら尋ねる獏の言葉に木霊はぴくりと耳を動かした。

「剥離の……」

「水遣りに印を使ってるみたいだから、印のことを知ってるかなって」

「剥離の印は扱いが難しいからと使用が禁じられてる印だ。それの使用許可も下りなかった。狴犴め……」

「縁を断つ印なんだよね? 知ってたら教えてほしいんだけど……」

 だが木霊は首を振った。

「曖昧な言い方だな。剥離の印は引き離す印だ。形の無い縁も絶てるが、肉体を千切ることもできる。扱いが難しいと言われているのは、任意の物を正確に断つことが難しいからだ。髪を切ろうとしてうっかり首を切ることもある」

「それは洒落にならないね……」

「私はそれを雑草や花を刈ることに使いたいんだが、申請に聞く耳すら持ってもらえない」

「君はその印を使えるの?」

「勿論だ。花の世話に必要な印なら使えて当然だ。そもそも印と言うのは力の無い変転人などの便利な道具としての役割が強いはずなのに……いや殆どの印は変転人の力では使えないか」

「全く使ったことがない僕が今習って使おうとしたら、どうなる?」

「胴でも切るんじゃないか?」

 獏は黙って蜃を見た。蜃は今度は理解できたらしく、勢い良く首を振った。死なないために剥離の印を求めているのに、その印で死んでは意味がない。印を教えてもらうのではなく、扱える者を連れて来た方が良いと改める。

「こっちの人が縁を断たないと死ぬかもしれない状況なんだけど、僕の牢まで来てくれるって……可能かな?」

 ここから離れられないと言った直後だ。木霊も渋い顔をする。

「それは今すぐか?」

「ううん。まだ猶予はあると思う」

「それならいい。今は血染花の加工が忙しいからな。今も忙しいんだが、罪人の首輪を見ては話を聞いてやらないわけにはいかない。狴犴への嫌がらせ……コホンコホン」

「うん。狴犴への嫌がらせにもなると思う。今は少し様子を見てる時だから、また後日来るよ」

「ふむ。それは最高じゃないか!」

 小さな拳を素速く突き出し、木霊は遣る気を漲らせている。狴犴に印を訊く羽目にならなくて安堵した。

 見てろ狴犴! と叫びながら細い脚を振り上げ木霊が後ろへ転んだので、慌てて起こした。ふさふさの尻尾がクッションになって良かった。

「あんまり長居しても心配するだろうし、狻猊……だっけ、そっちに行こう」

 今頃椒図は帰りが遅いとそわそわしているかもしれない。狻猊の名前を出しながらハートの杖を素振りした。

「あっ……」

「どうしたの?」

 呼び止めるように声を上げた蜃に首を傾ける。蜃は木霊の前に屈み、両膝を突いた。

「血染花の加工って、薬だよな?」

「ふむ。そうだ。血気盛んな奴らのために作ってやらないといけない。怪我をしないのが一番だがな」

「その薬、少し貰えないか? 手持ちが少なくなってきて」

「怪我ばかりするものではないぞ。説教したい所だが、これは花守としての仕事だ。持って来てやる」

 うんうんと頷き、木霊は細い脚を精一杯動かして小屋の中へ走った。

「怪我したの?」

 恍けているのか本当に忘れたのか、獏は首を傾げている。

「君は俺にしたことをもう忘れたのか……脚を切り落とそうとしただろ。その時に結構薬を消費したんだ」

「ああ……あれか。それは謝るよ。だから宵街に付いて来てあげてるし」

「いい性格してるよな……」

 サンタクロースのように背に大きな袋を担いだ木霊が小屋から飛び出し、息を切らせながら蜃の前に差し出した。想像していたより多く薬を分けてもらえて蜃は安堵する。

「ありがとう。恩に着る」

 頭を下げると、木霊も深く頷いた。病院へ持って行く薬だが、病院も在庫を完全に切らせているわけではない。分けても問題はない。

 もう用はないだろうかと声が上がらないことを確認し、黒葉菫は小屋の方へ目を遣った。

「ここを出る時は同じように街灯に手を当てて、時計回りに回してください」

 小屋の陰にぽつんと地面に突き立てられた明かりの点いていない街灯を指差す。随分地面に近いと思っていたが、木霊が掌に乗るほどの大きさであることを考えると納得できた。あまり人目に触れないようにだとばかり思っていた。

 木霊はうんうんと頷き、最後に一度大きく頭を下げた。

 再び獏は重い首輪を嵌められ、動物面を被り元の薄暗い宵街へ戻る。蜃もフードを目深に被った。周囲には変わらず人の気配はない。この辺りに棲んでいる者はいないのだろう。

「工房はこっちです」

 坂を下る黒葉菫に二人は付いて行く。突発的だったが木霊から貴重な話を聞けて良かった。

「木霊って、栗鼠っぽいとは聞いてたけど、木の精霊だしもっと植物に近いのかと思ってたよ」

「人に化ける木霊もいるそうなので、もしかしたら本当は違う姿かもしれません」

「木と言うより、木に集まる動物って感じだよね」

 路地から少し大通りの石段の方へ進むと、隙間から酸漿提灯が見える場所に工房はあった。周りの石壁と同じく四角い箱が積まれたような建物だった。

「少し待ってください。様子を見て来ます。人の姿にされた変転人はまずここに連れて来られるので、先客がいないかどうか」

「うん。待ってるよ」

 人の姿を与えた生物は宵街の迎えが来る。獏が知っているのはそこまでだった。ここで服と傘を与えられるのかと、置き去りにした灰色海月もここへ来たのだとあの時を思い出す。あの時はまさか自分が捕まり、彼女に監視されることになるとは思わなかった。……いや捕まることは想像できたと言うべきか。

「蜃は狻猊のこと知ってるの?」

「……ん? いや、会ったことはない。椒図に兄弟のこと全部聞いておけば良かったな」

「言ってくれるかなぁ? あんまり言いたく無さそうだったよ。睚眦のことだって何も言ってなかったし」

「君はともかく、俺は結構付き合い長いんだけどな……」

「椒図って昔から心配性なの?」

「昔は……」

 石壁から黒葉菫が顔を出し、蜃は口を閉じた。聞かれたくないわけではないが、会話を続けるより狻猊に会う方が先だ。

「誰も来なくて暇だそうで、話をしてくれるそうです」

「何で杖の修理を頼んでるのに暇なの」

 不満はあるが招かれるままドアを潜ると、椅子に座って脚と腕を組み、ぷかぷかと煙草を吹かせるがたいの良い長身の男が踏ん反り返っていた。この男が狻猊で間違いないだろう。部屋の中は工房と言うだけあって壁には引出しが並び、巻かれた布が立て掛けられていた。奥にも部屋があるようでドアが見える。

「ほう。罪人か」

 目立つ首輪を真っ先に指摘され、獏は眉を顰めた。だが木霊の言う通り確かに罪人に頓着はしないようだ。

「君が狻猊、だよね?」

「そうだが――うおっ!?」

 ハートの杖を突き出し、煙草に接触する寸前で止めた。よもや忘れたとは言わせない。

「その杖……お前か! 杖を壊しまくる馬鹿力!」

「形はともかくとして、注いだ力を反射するなんて巫山戯た仕様にしたことを物申しに来た!」

「……形はいいのか」

「代替品はありがたいけどね、変換石が小さ過ぎる」

「わざと小さくしてんだ。お前は力の調整もできないのか。そもそも罪人だったら杖も使えないはずだ。どうなってんだ」

「あれ? 知らないの?」

 力の調整がと言うならそれは元々杖を使わずに力を使っていたことも関係しているだろうが、杖を使えない罪人だと思われていることに首を傾げた。狴犴と兄弟なら獏のことも知っていると思っていた。こんなわかりやすい面を被っていれば、一度話を聞けばわかると思うのだが。

「いやそもそも……そもそも、何で罪人が外に……?」

「君は蚊帳の外なの?」

「何だ……耳に入ってないだけか? そうか……わかったわかった、外に出てもいい罪人だな。わかったぞ」

 何もわかっていないことはよくわかった。

「まあいいや。僕の杖ってどうなってる?」

「まだ良い石が見つかってない。屑石を集めれば同じ大きさに繋げることはできるが、それでもいいなら今から遣ってやる。わざわざ御足労いただいたみたいだからな」

「僕の力でその屑石は壊れない?」

「壊れるだろうな」

「じゃあ意味ない。使い捨てとしてなら、数があれば仮に使っておくけど」

「変換石を使い捨てにするな……。そっちのお嬢さんからも何か言ってやってくれよ。お前は馬鹿か? ってな」

「お、お嬢さん……?」

 突然視線を向けられた蜃は眉を寄せた。フードで顔はよく見えていないはずだが、身長が低いからだろうか。

「胸を縛り付けてちゃ体が可哀想だぜ? ちゃんとブラ」

「変態か?」

 言葉を遮り、蜃は蔑視の目を向けながら一歩下がった。中身は男なので何処か遠い体への指摘には特に思うことはないのだが、あまりに直球な言葉に怯んでしまった。

「そういえば目視でサイズがわかるんだっけ」

「俺が本当に女だったら、こいつの顎を砕いてたかもしれない」

 どちらかと言うと女性として見られたことに不快になったように見えたが、獏は何も言わなかった。

「ああすまんな。普段服を作ってるからか直接的な言葉になっちまって。今度からは下着と言おう」

「そういう問題じゃない」

 至って真面目な顔をして組んだ脚を解きながら言うので、狻猊も揶揄っているわけではないのだろう。

「椒図の兄弟は変なのしかいないのか……」

 これなら椒図が兄弟の話をしようとしないことにも頷ける。兄弟の話をするのが恥ずかしいのだ。

「椒図……椒図って言ったか!? もしやお前は椒図の知り合い……いや、友達か?」

 ぼやいた蜃の言葉を耳聡く捉えた狻猊は、膝に手を置き身を乗り出した。

 答えて良いのか咄嗟に言葉が出なかった蜃は口を噤んでしまい、それを肯定と取られた。

「そうかあいつの友達か! 名前は聞かなかったが、友達ができたと言ってたな……。引き籠りのあいつが友達を……こんな可愛い子だったとは……。見る度に鼠やら虫やらの死骸が転がっててまあ不気味だったあいつが……おっと、その話はいいな。その後からか、あいつが宵街に戻らなくなったのは」

 煙混じりの息を吐き、狻猊は目を伏せた。

「その友達……の友達? 馬鹿力のお前も椒図の友達か? ならもう少しマシな石にしてやる」

「うん。友達だよ」

 実際に友達かどうかは別として、友達ならマシな石にしてくれるのなら乗らない手はない。獏は笑顔で肯定した。蜃は不信感を含んだ目を向けたが、気にしなかった。

 狻猊は立ち上がり、部屋の奥にあった木箱の一つを開ける。彼の背中越しにキラキラと透明な石が詰まっているのが見えた。

「地下牢に入ってからは椒図の顔は見てないが、あいつのことだ、きっと居心地がいいとか思ってるだろ。狭くて暗い場所大好きだからな。だが……狴犴は身内にも容赦無い」

「……?」

 獏は小首を傾げた。狻猊は椒図が脱獄したことを知らないようだ。他の者になら示しが付かないだとか理由は思い浮かぶが、兄弟にも伝えていないとは、狴犴は狻猊を信用していないのか。木霊も狻猊は中立だと言っていたが、それが理由だろうか。

「君は狴犴と椒図、どっちの味方なの?」

 率直に白黒はっきり付けてやろうと尋ねた。意地悪な質問かもしれないが、狻猊は短い黙考の後はっきりと答えを出した。

「……椒図かもな。俺にとって椒図はたった一人の弟だ。一度くらいお兄ちゃんと呼ばれてみたい願望はあったがまあそれはいい。一番歳も近いしな」

 椒図は末子だ。つまり狻猊は第八子らしい。木霊の言葉を借りるなら、下の子なら椒図の味方をしてくれるのかもしれない。

「僕は願い事を叶える刑をしてるんだけど、その願いを叶えてあげようか? 椒図にお兄ちゃんって言わせてあげる」

「何だその刑? 狴犴の奴、そんなのやってんのか」

 眉を寄せるが、一瞬嬉しそうな反応を見せたことを獏は見逃さなかった。

「願いを叶えるには代価を戴かないといけないんだけどね」

「ほう? 願いを叶えてやるから、さっさと杖を修理しろ。ってか?」

「勿論杖は大事だけど、そっちじゃなくて」

 狻猊の実力は知らないが、宵街に味方を作っておいた方が良い。螭はどちらにつくかまだわからないが、椒図の味方だと言い切った狻猊なら、落とせる。

 黙って成り行きを見守っていた蜃は、その交渉にハッと思い付いたことがあった。椒図の味方。そして服や道具を作るのが得意。と来たら頼むことは一つしかないだろう。

「椒図の靴と服を作ってほしい!」

「……」

 唐突に口を出した蜃を、唖然と獏は見た。椒図は脱獄した時のままの姿なので襤褸を纏い裸足で歩いているが、今はそれを交渉しているわけではない。

「何……? 釈放でもされるのか!? 聞いてない……いや、わかったわかった」

 怪訝な顔をしつつも最初に蚊帳の外と言ったことが効いているのか狻猊は知っている振りをする。何もわかっていない。

「釈放じゃないが……とにかく必要なんだ!」

「わかった。わかったぞ……よし、作ってやる。お兄ちゃんだからな。サイズが変わってなければだが」

「見た所、変わってる感じはない」

 木箱を一旦閉め、立て掛けた布を物色し始める。すっかり頭の中が服になっている。

 獏は不満げにじっとりと蜃を見た。

「君の顎を砕いてやりたい所だよ」

「は? 何でだよ」

 狻猊は灰が落ちないよう煙草を硝子の灰皿へ置き、選んだ布に型紙も無く線を引いていく。慣れているにしても手際が良過ぎる。手元からは目を離さず、手を動かしながら狻猊は口を開いた。

「椒図の名前を出してくる奴なんかそうそういない。あいつは引き籠りだったからな。だからお前達の言葉を信じてる。理由が何であれ靴と服が必要ってことは、出られるってことだよな。あいつの家が片付けられた時、もう二度と地下牢からは出されないんだと思った」

 少し手が止まるが、何もないようにすぐに動き出す。只わかった振りをしているだけの奴だと思っていたが、考えてはいるらしい。

「いいか馬鹿力。オレと交渉したいなら簡単だ。煙草を買って来てくれりゃあいい。オレはここから離れられない。人間の所で……銘柄は何でもいい。とにかく煙が吸いたい」

「ヘビースモーカーなんだね」

「言っておくが、煙草依存じゃないからな。煙が必要なだけだ」

「違いがわからないけど、そう言うことなら買ってもいいよ」

 獏の容姿では買えるのか定かではないが、由宇なら買えるはずだ。獏も人間の成人年齢は疾っくに過ぎているが、証明できる物がない。

「鵺にも頼んでみたが、あれは無理だな。昔は子供でも使いと言えば買えたんだがなぁ」

「杖を君に預けた後、鵺がどうなったか知ってる?」

「杖を持って来たのは地霊だが、まあ忙しいんだろ」

「その後、鵺を見た?」

「いや、見てない。よくこの辺りで串焼きを買ってるのを見るが、ここ最近は見ないな」

「君は狴犴の所に行くことはある?」

「あ? 狴犴?」

 布を切りながら耳を傾けていた狻猊は、ころっと話題を変えられ暫く沈黙した。

「……あいつの所には行かないな。どうせ部屋に変な印でも敷き詰めてんだろ。お前達も悪いこた言わねぇ、狴犴の部屋には近付くな。椒図の友達を危険な目には遭わせられないからな」

「そんなに印を使うの?」

「オレには難しいこたわからないが、気配を悟らせないのが上手い。狴犴自身の力は俺も知らねーな。ほら能ある鷹は爪を隠すって言うだろ? それだ、たぶんそれ。違いない」

「ふぅん……。最近何か狴犴に動きはあった?」

「動き? オレの知る限りでは特に何も。……あー、苧環を連れて来いって通達はあったな。あれ見つかったのか? 獣共の噂では、扱き使われることに嫌気が差した苧環が逃げ出したって話だ」

「…………」

 ガタガタとミシンを踏みながら話す狻猊に目を細め、獏は薄く笑った。その通達は変転人の間では恐怖となっていたが、獣の間では軽い世間話程度の感覚らしい。その白い彼が通達を出した狴犴に殺されたと知れば何と言うだろう。獣と変転人は対等ではない。逃げた方が悪い、と言うのだろうか。

「随分ペラペラと喋ってくれるのはありがたいけど、僕達のことは他言しないでね」

「何だ、お忍びか?」

「少しでも喋ったら煙草は無しだから」

「喋りません」

 ミシンを踏みながら少しばかり片手を離し、キリッとこちらに親指を立てた。煙草はそれほど大事な物らしい。

「そうだ馬鹿力。さっきオレが見てた木箱から好きな石を選んでいいぞ。屑石ばっかりだけどな。代替の杖に付け替えてやるよ」

「本当? ありがとう」

 狻猊には煙草を突き付けていれば何でも言うことを聞いてくれそうだ。獏は笑顔で木箱を開けた。蜃もこそこそと獏の後に付いて移動する。黒葉菫は出入口から移動しない。万一誰かが工房を訪ねて来た時に獏に知らさねばならないからだ。

「うわ、本当に屑……」

 ハートの杖に取り付けられている石と然程変わらない大きさの屑石ばかりが目立つ。蜃も隣に蹲み、石を一粒抓んだ。

「君に力を持たせるのは嫌だが、今は利用価値があることはわかる。一緒に探してやるよ」

「利用されるのは嫌なんだけど」

「何個か持って帰ったら椒図も使うか?」

「烙印がある限り、椒図は無力でしょ」

「あ、そうか」

 両手を突っ込み、ざりざりと石の山を掻き回す。

「この石全部繋げたら、特大の変換石ができそうだな」

「大きいほど強度は無いかもね」

 掌に載せながら大きさを確認し、大きい石なんて無さそうだと思い始める。

「――お、そうだ。可愛い赤髪のお嬢さん、ちょいちょい。ちょっとこっち来てみ」

「その呼び方やめろ」

 ミシンを一旦止め、狻猊は背凭れの無い椅子の上でくるりと蜃の方へ体を向けた。手近な引出しを開け、中から何かを取り出す。

「これをあげよう」

「?」

 怪訝に首を捻りながら、手を出すよう促されるので蜃は仕方なく手を出した。何か固い物が手に置かれる。狻猊が手を引くと、細やかな装飾品が現れた。

「これ……椒図の髪留めに似てる……」

「お、わかるか? 使ってくれてるとは嬉しいね。それはオレが作ってあげた奴だ。お嬢さんも髪で可愛い顔を覆わないで、その髪留めで留めるといい」

「喧嘩売ってるのか」

「何で」

 ふいと顔を背け、蜃は再び蹲む。ミシンの音が再開し、蜃は髪留めをポケットに捩じ込んだ。

「何でこんな女扱いされるんだ……」

「女の子にしか見えないからじゃない?」

「君だってどっちかわからないだろ」

「僕はそんな隙作らないし」

「俺が隙だらけだって言いたいのか」

「うん」

「くっ……!」

「女扱いって言うか、襲う気満々の男から手紙が来たことがあるけど、殺したよ」

「……あ、そう……」

 その男に何をされたかは知る所ではないが、詳しくは聞かないことにした。

 木箱の屑石を全て確認する前に狻猊は服と靴を仕上げた。手際が良過ぎる。おそらく獣の力でも使っているのだろう。

「ほれ。できたぞ。石は良いのが見つかったか?」

 布袋に詰められた服と靴を受け取り、蜃は軽く頭を下げた。声に出して礼を言うのは何となく抵抗があった。

「あんまり変わらないけど、少しは大きい……かな?」

「その横の小さい木箱には屑じゃない石のストックがあったんだが、開けないとは思わなかったぜ」

「開けていいなら最初から言って」

 木箱へ戻り小さい蓋を開けると、幾分大きな石が詰まっていた。獏の杖にあった変換石よりは小さいが、ハートの杖の石よりは大きい。蜃や椒図が持つ杖に付いている石と同程度だろう。獣の持つ杖の一般的な変換石の大きさだ。

「これにする」

「はいよ。少し待ってろ」

 ハートの杖を受け取るとミシンとは別の机の前に座り直し、狻猊はすぐに道具を広げた。杖にしっかりと取り付けられた変換石を丁寧に外し、台座に手を加える。

「杖を壊しまくるお前がでっけぇ石ばかり必要なのは、単純に力が強いってよりたぶんだが力の伝達が雑で下手なんだろ。つまり……あれだ、杖使いがクッソ下手」

「…………」

 獏はムッとするが、蜃は顔を逸らして声を殺しながら笑っている。肩が震えているのでよくわかる。

「力の強い獣は幾らでもいるもんだ。そいつらだって別に馬鹿でけぇ石を使ってるわけでも、壊しまくってるわけでもない。何て言うかお前は、杖を初めて握った赤子みたいに見える」

「ふぶっ!」

 堪らず蜃が吹き出し、獏は一瞥だけ向けて無視した。

「椒図がいれば教えてもらえばいいんだけどな。あいつは力の調整が上手い。制御が上手いって言うのか、閉じ方が上手い。蛇口からコップに水を注ぐとするだろ? その水をぴったり満タンで止められるのが椒図だ。お前はダダ漏れ」

「ひっ……ふふ、ぐ……」

 最早笑い過ぎて蜃は呼吸が苦しそうだ。

「何度もでけぇ石を探すのは大変だからな。ほいほい壊さないようになってくれるとこっちも助かる。この杖の石で満足に力が使えるようになったら、お前の杖の修理も早く済むだろうな。――よし、できた」

 石を付け替えたハートの杖を向けられ、躊躇いながらも獏は受け取った。杖の扱いが下手と言うなら、それは元々杖を使う必要がなかったからだ。その上今は制限が掛けられて力の流れ方が通常とは異なる。

 杖を使う獣は最初から扱い方を心得ているだろう。杖を使う必要のなかった獏にはその心得はなかった。杖は何とか自力で作ったが、使い方は誰にも教わっていない。だから自分の力を知るのが遅れ、人間に復讐することも遅くなった。

「……ありがとう」

「馬鹿力は素直だな。訳有りの杖みたいだしまあ、頑張ってみよう」

「訳有り……?」

 獏はびくりとした。杖を見ただけで元々は杖を用いない獣だと見抜かれたのだろうかと。

「最初に持ち込まれた時から思ってたんだけどな、変な杖だって。金属製か? 骨じゃないよな」

「骨……? 確かに骨ではないけど……」

 他の獣の杖の材料は一般的に骨なのだろうか。蜃の杖は木のように見える。骨のような杖は見たことがなかった。

 頭に疑問符を浮かべている獏を見て、何が可笑しいのか狻猊はフッと笑った。

「まあ知らない奴の方が多いから、知らなくても無理はねぇな。自分の杖が何からできてるのか知らない奴は多い。獣の杖は生まれた時から自分の中に持っていて召喚することができるが、ありゃ肋骨が変化した物だ」

「!」

「えっ……」

 蜃も知らなかったようで、驚愕しながら自分の胸に手を当てた。

「肋骨の一本を杖として使えるよう強化して召喚してるんだ。木っぽく見えるかもしれないが。杖の変換石も体内で作り出せる。だから壊れても自分で修復することは一応可能だ。時間は掛かるけどな。でも馬鹿力の杖は骨じゃない。ってことはオレが修理してやらないといけないんだろうな、と思ってやってやってんだ」

「……本当?」

「本当」

 俄には信じ難かったが、元から杖を持っていた蜃には嘘だと思えなかった。杖は自分が作ったわけでも他者から貰ったわけでもない。手足を使うように自然と何の疑問も抱かずに召喚し使っていた。変転人が武器を体内生成できるのだから、獣も自分の肋骨から杖を作れるのだろう。妙に納得してしまった。

 その神妙な顔を見て、本当に本当なのだと獏も納得せざるを得なかった。そして自力では修復できない獏は狻猊に頼るしかない。

「……煙草一カートンくらいなら買ってあげるよ」

「最高じゃねーか」

「まさか杖がそんな特殊な代物だったなんて……」

「名前だけ聞いておいてもいいか? 椒図の友達だって言うなら」

「内緒。君とは友達じゃないから」

「冷た……」

 獏はもう用はないと、壁に頭を突き付けながら肩を震わせている蜃を促し腕を引いて、出入口に立つ黒葉菫を手招いた。

 工房を出る前にもう一度振り向き、口元に人差し指を当てる。

「君と僕達は会話をしてない。いいね?」

 狻猊は言われるまま小さく頷き、閉まるドアを見詰めた。珍妙な客人だったと、天井を見上げて煙草を咥えた。

 工房を出て会話の緊張から解放された獏は、布袋を見下ろしながら上機嫌の蜃に確認をする。

「蜃、下見はこれで終わりでいい? これ以上上に行くのは危ないみたいだから」

「靴と服も手に入ったし、まあまあの収穫だったな。狴犴の刺客なんかも来なかったし、案外楽勝で上まで……」

「それは駄目」

「ぐ……わかってる。解除印はまた今度……」

 上層に行きたいのだろう少し俯くが、蜃は当初の予定に駄々を捏ねない。収穫はあったのだから、どれで満足すべきだ。

 二人の確認を聞き、黒葉菫もすぐに黒い傘を回した。思った以上に長居をしてしまった。それでも狴犴から動きはなく、あまりの静かさが不気味だった。忙しくて獏が宵街に来ていることにも気付いていないだけなら良いのだが。

 変わらず霧の掛かる暗い夜の街へ戻って来た三人は、遠目に螭と白花曼珠沙華を視界に捉える。まだ治療中なのか見張りなのか、気配に気付いた螭は振り返り頭を下げた。軽く頭を下げ返し、蜃は足取り軽く店のドアを開ける。灰色海月を迎えに行くのはまた後だ。先に椒図に報告した方が良い。

 瓦落多の並ぶ棚の間を抜け二階へ上がるつもりだったが、階段の下で椒図が座っていた。足音を耳に、彼は顔を上げる。

「あれ? ここにいたのか椒図。もしかしてずっとここで待ってたのか?」

「遅かったな。……袋? 買物もしてきたのか?」

 街を出る時は持っていなかった大きな布袋が気になり、椒図は腰を上げた。

「これは椒図の靴と服だ。いつまでも裸足じゃ走りにくいだろ?」

「僕の……? 本当に買ってきたのか」

「あと新しい髪留め、いるか? それ気に入ってるみたいだし」

 ごそごそとポケットを漁り、狻猊から貰った髪留めを取り出す。手を広げた中にあった物が視界に入った瞬間に、椒図の顔色が一瞬で変わった。持ち上げられた手は髪留めを拾うことなく、蜃の頬を打っていた。

「っ……」

 何故打たれたのかわからず、ひりひりと痛む頬を押さえ、蜃は呆然と目を見開いた。

「……それを、どうした」

「狻猊から……貰った……」

「何で宵街に行ったんだ!」

「!」

 強く肩を掴まれ、蜃はびくりと硬直した。

「ご……ごめん……」

 椒図が怒ることは滅多にない。なのに最近はよく怒らせてしまう。脱獄の時も今も、良かれと思ってしたことだった。なのに怒られる結果にしかならなかった。そこで初めて、どんなに危険なことだったかを知る。

 椒図は肩を掴んだまま、怯える蜃から獏へ目を移した。

「獏も行ったのか」

「……行った」

 椒図は蜃から手を離し、獏の面を引き剥がした。その手を止めることは獏にはできなかった。蜃と同じように平手で頬を打たれ、じんじんと赤くなる。誰かに打たれたのは初めてだった。

「僕のために宵街に行ったなんて言わないよな?」

「木霊に会いに……。あと、僕の杖を……」

 言い出したのは蜃であり、宵街に行った理由も半分は椒図のためだった。だがそのことは伏せた。獏以上に衝撃を受けている蜃にこれ以上追い討ちを掛けたくなかった。

「……そうか。収穫はあったのか?」

「木霊が剥離の印を使える……って。杖は……僕の使い方がクッソ下手……って」

 前半は厳しい顔で聞いていた椒図だったが、後半は少し崩れた。普段の獏の口からは出そうにない言葉が飛び出したことにうっかり笑いそうになった。

「椒図に教えてもらえばいいって……」

 睫毛を伏せる獏にも反省の色が見えたことに椒図は長い溜息を吐きながら安堵した。

「二度と黙って危険なことをしないでくれ。無事に戻って来たなら……この話は一旦置く。それより問題が起こった」

「問題……?」

 頬はまだ痛むが、耳に意識を集中させる。


「苧環がいなくなった」


「え……?」

「頭も体も、周囲を探してみたが見当たらない。饕餮とうてつが吐き捨てた指は一本、壁の瓦礫に転がっていたが……。外から誰か来たなら外にいる螭が気付くはずだが、それもなかった」

「どういうこと……?」

「関連があるかはまだ断定できないが、浅葱斑も見当たらない。一緒にチェスを打っていた海栗にも訊いてみたが、何処へ行ったのか知らないみたいだ」

「…………」

 嫌な予感がした。宵街へ行って狴犴に動きが無かったと安心していたが、最悪の悪手だったのかもしれない。頬の痛みを忘れるほどに焦燥が襲った。

「……螭は地霊に狴犴の部屋に入らせないようにしてるって言ってたよね。狻猊も、狴犴の部屋には行くなって……印を敷き詰めてるって言ってた。アサギさんは……マキさんを助けるために狴犴の部屋に入ってる……。何かされてたのかもしれない……。どうしよう……! 僕が宵街に行ってここにいなかったから……それで……!」

「落ち着け、獏。善行をするためにお前は何度も街から出てる。今回が初めてではない。単なる偶然かもしれない。まず現場を見てくれ。それから考えよう」

「……うん」

 深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。見世物小屋のことを言われたわけでもないのに取り乱してしまった。椒図に優しく肩を叩かれ、階段を上がる。

 痛みにまだ呆然としている蜃に椒図は一瞥をくれ、手に力無く握られている髪留めを手に取った。俯く蜃の髪にそれを留め、言うつもりはなかった言葉を言った。

「……ありがとう、蜃」

 礼を言ってしまえば叱った意味がなくなるかもしれないが、良かれと思って行動したことは理解できる。もう少しリスクを考えてほしいものだが、これだけ落ち込めば今は充分だろう。獏に続いて階段を上がるが、蜃は付いて来なかった。

 口を出す隙がなく後ろで控えていた黒葉菫は困惑しながらも様子を窺う。

「俺がもっと強く止めていれば……」

「……いい。変転人は獣の言うことを聞くものだから。俺が悪い」

 蜃は階段を上がらず、いつも獏が座っている革張りの古い椅子に脱力したように腰を下ろした。白花苧環が消えたことは気になるが、何も考える気にならなかった。

 黒葉菫も二階には上がらず、台所へ入って行った。何か茶でも淹れるのかと蜃も目で追う。彼は棚を開けて取り出した容器を持ち、蜃の前に置く。シュガーポットのように見える。

「疲れた時は甘い物、らしいです」

 蓋を開けると予想通り砂糖が入っていた。

「……舐めろと?」

「俺は御菓子を作れません」

「…………」

 じっと見られているので仕方なく蜃は少しだけ抓んで口に含んだ。当然だが甘い。これで何が癒されるのかはわからなかったが、味は嫌いではない。

 椅子の背に凭れ、疲れた顔で階段を一瞥する。隣家へ飛び移ったのだろう。足音がしない。

 椒図にどんな顔を向ければ良いのかわからなかった。受け取ってもらえなかった布袋を膝に置き、打たれた頬を摩る。万事上手くいったと思っていたのに、行動とは難しいものだった。

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