第21話 戻って来ない

 その夜、イオン君は戻って来なかった!

 僕のスマホも戻って来ない!

 合い鍵を持ったままどこかに行ってしまった。

 馬鹿野郎!


 音楽がいつの間にか消えていたけど、やつは帰って来なかった。

 外に出てみたら電気が消えていた。


 僕は今は珍しくなった公衆電話まで行った。

 そして、自分のスマホに電話した。

 しかし、『電源が入っていないか、電波の届かない場所にいるためかかりません』というアナウンスが流れるだけだった。


 僕は12時くらいに電気を消して寝た。


 お隣でがったん、ごっとんと騒がしい音がした。

 そして、ドアを開ける音がした。


 玄関から飛び出して行くと、イオン君が隣の玄関からゴミ袋を出しているところだった。廊下に大量にゴミ袋が積んであった。


「何してんの?夜ゴミ出しすんのダメなんじゃない?近所迷惑だよ」

 僕はビビりだからそう言った。

 ご近所にゴミ出しにうるさいお年寄りがいたからだ。

「でも、引越すから早く捨てたいんだって」

「え、引越すの?いつ?」

「明日」

「そうだったんだ…知らなかった。お隣さんと一緒にどっか行くわけ?」

「ううん。行かないよ。そんなに仲良くないし」

「何でお前が手伝う必要あんの?」

「あの人、ちょっと体が弱いんだ」

「へえ…」

 でも、セックスはできるんだ。謎だった。病弱のふりしてるんじゃなかろうか。


「手伝ってくれる?」

「いいよ」

 

 なんだかすごく重たかった。


「中身何?」

「本とか」

「古本屋に売れば?」

「うん。でも…時間ないから」


 イオン君もゴミ袋を持ってたけど、力がなくて僕の半分しか持てなかった。まだ、十六歳だからだろうか。よくわからない。でも、重いごみ袋を一生懸命持っている姿は、か弱くて助けてあげたい感じだった。結局、イオン君がアパートの入り口まで運んで、僕が道路を横切ってゴミ捨て場まで出しに行った。今日はごみの日じゃないから、近所の人から怒られるだろうなぁ…。それに大量に捨てると目立つから、ちょっと離れたところにも捨てに行った。全部捨て終わるまでに三十分くらいかかってしまった。


「ありがとう」

 イオン君はやっぱりかわいいから一瞬で許してしまった。

「いいよ」

「もうちょっと片付けたら、そっちに行くから寝て待ってて」

「うん」

 僕は汗まみれになったからもう一回シャワーを浴びた。やっぱり、男の娘でもいいかなと思ってしまった。


 僕は布団に入ったけど寝れなくて、しばらく寝返りを打っていた。そしたら、一時間後くらいにイオン君が戻って来た。そして、シャワーを浴びて、部屋に入って来た。また胸にタオルを巻いていた。


「Tシャツ貸してもらえない?」

「いいよ。好きなの出して着て」

「うん」


 すると、イオン君は僕が持っている中で一番値段が高いTシャツを着てしまった。お母さんが誕生日のプレゼントに買ってくれたやつだったが、かなり大きかった。

「大きいね」

「オーバーサイズもかわいくない?」

「うん」

 それから、下にはなぜか俺の水着も着ていた。

「それ、水着だよ」

「え、そうなの?普通の洋服かと思った」

 そういう天然っぽいところもかわいかった。

「えへ。ドキドキする」

「こっち来いよ」

 僕はイオン君を手招きした。そして、あいつが横になってからは腕枕をしてやった。そして髪を撫でて、額にキスをした。DTのくせに、なぜか男の娘には余裕をかましていられた。イオン君は実際抱いてみると、すごく小さくて、丸くて、女の子みたいだった。


「お兄ちゃん、私…」

「え?」

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