第15話 三回目

 僕たちは同じ布団で寝た。はっきり言って狭いけど、他に寝るところがないからだった。それにすでに二回、そうやって一緒に寝ている。


「あのさ…昨日と、今日、この部屋に来て寝てなかった?」

「うん。寝てた」悪びれずに答えるイオン君の言い方に呆れてしまった。

「はっ。何で?」

「後で行くって言ったじゃない」

「…」俺は絶句した。

「普通さ、インタフォン鳴らしてくるよね?」

「鍵開いてたから」

「でも、危なくない?」

「あんまり思わなかったかなぁ…優しそうだったから。それに、エッチなこととかして来なそうだし」

 僕はイオン君とのワンナイトを期待して、コンビニでコンドームを買ってしまったことを恥じた。

「でも、知らない人の家に行くって怖くない?俺がサイコパスかもしれないじゃん?」

「私、人を見る目はあるんだ。お兄ちゃんはいい人」

「あ、そう」

 部屋に泊めて、夕飯を奢り、コンビニで好きなものを買ってやる気前のいい大学生だ。たしかにいい人かもしれない。

「人が嫌がることとか絶対しなそう」

「いや…絶対ってわけじゃないよ」

「だって、襲って来ないじゃない?」

「だって、襲ったら今は強制性交ってことになるだろ?」

「さすが。大学生は違うね」

「人生棒に振りたくないし…」

「でも、大学生でも襲って来る人いるよ」

「まあいるだろうね。でもさ、女の子だと思って部屋に呼んで、男だったら逆切れされない?」

「うーん。そうでもない。そのままやっちゃう」

「大丈夫?やめなよ。寝るとこがなかったらうちに泊まっていいからさ」

「やった!家ができた」

「はは…」まるで妹みたいでかわいい。

「でもさ、そもそもどうして家帰んないの?」

「まま父がいるから帰りたくない」

「ままちちって何だっけ」

「ママの再婚相手」

 多分、継父けいふのことだろうと思った。

「ああ。再婚って難しそうだね」

「ワイセツ行為してくるんだよね」

「えー。何それ。クズだね」

「でしょ。怖くて帰れないよ。言うこと聞かないと包丁持って来て、顔に当てるんだよ。顔にけがしたら一生治んないよって言うの。やばくない?」

「うん。犯罪じゃん。それって…」

 思いの他、酷い環境に僕はショックを受けていた。

「じゃあ、それってどのくらいあったの?」

「毎晩」

「そっか…」

「だから、家出したの。中学から」

「そりゃ、そうだよな」

「うん。私の初体験11歳なんだ。キスとかなくていきなり入れられた。その前から猥褻行為されてた」

 いきなりアナルセックスなんて随分痛そうだなと思う。

「お母さんかばってくれないの?」

「くれない。ママはちちに支配されてるから」

「すごいね。警察に言ってやりたい…」

「殺されるよ」

「そんなことないよ」

「ちちはヤバい人なんだよね…」

「反社?」

「はんしゃ?」

「つまり…〇クザのことだよ」

「うん。多分、前は刑務所入ってた人だって」

「仕事してる?」

「ううん。生活保護」

「はぁ…でもさ、どうやってもらうわけ?だって、まだそんな年じゃないだろうし」

「よくわかんない」

 面倒臭い子を連れ込んじゃったな…僕は後悔した。


 うちに〇クザが乗り込んできたらどうしよう・・・『俺の女に手出しやがって』と言われて半殺しの目に遭うかもしれない。僕が家出したくなる。

 しかし、ふと疑問が浮かんだ。


「でもさ、イオン君って男だろ?まま父はバイセクシャルなわけ?」

「うん。薬中だからもう頭がおかしくなってるんだと思う」

「薬中なら警察に垂れ込んで逮捕してもらえば?」

「でもさ、田舎の警察ってヤクザが怖いから逮捕しないんだよ」

「あ、そうなんだ…」

「組長なんだよね」

「へえ…」

 ヤンキーもかわいい子が多い。芸能界も裏社会とずぶずぶと聞くし。有名な芸能人の親や親族が実は反社というのも聞いたことがある。


 イオン君には絶対手を出せないと思った。


「手コキしてあげよっか?」イオン君が『肩もみましょうか?』と言うくらいの軽いノリで誘って来る。

「そういう気を使わなくていいよ」

「お兄ちゃんってほんといい人。大好き」

「ああ、そう?」

 これから先のトラブルを考えると、さすがにそんな気になれなかった。

 イオン君がこのまま逃げ延びられることを願ってやまない。 

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