第11話 本当の名前

 僕は外廊下でメイちゃんが出てくるのを待っていた。そしたら、僕が外に出てわずか5分後くらいにはメイちゃんが出て来た。不思議なことにおじさんの部屋のドアに鍵をかけていた。合鍵を持ってるなんて…二人は恋人同士なのか!


 僕はショックを受けていた。


「こんばんは」


 僕は声を掛けた。真っ暗ではないけど、相手は物凄くびっくりしたようだった。

 でも、変な人に声を掛けられたっていう感じじゃなくて、僕はすでに知ってる人として認識されているようだった。


「ああ。どうも」メイちゃんが手を振った。

「あの…来てくれるって言うから夕飯作って待ってたんだけど」

「ごめん。忘れてた訳じゃないんだけど忙しくて」


 だろうね。そんなにかわいかったら街でナンパされまくってるだろう。


「夕飯一緒にどう?」

 おじさんが聞いているかもしれない状況で、僕はメイちゃんをナンパした。僕はお財布ケータイにどのくらいお金が入っているか考えてみた。もともと、外食するつもりなんか全然なかった。第一、部屋にお金を取りに戻ったらいなくなってしまうかもしれない。クレジットを取りに部屋に行きたい…。


「おごり?」

「うん」

「じゃあ、行く」


 僕はいつもリュックを玄関に置いていたから、ドアを開けて彼女が見える状態で手を伸ばした。そしてカギをかけた。心臓がバクバクしていた。


「この辺知ってる?」

「あんまり知らないんだ」メイちゃんが言う。

「外で飯食ったことある?」

「ううん。この辺ではない」

「そっか。行きたい店とかある?」

「うーん。◎◎◎◎あったよね?」

「いいよ」

 彼女が行ったのはファミレスだった。一応ほっとしたけど、うどん屋とかだったらもっと助かった。ファミレスも一人千五百円くらいする。デザートを食べたら二千円。酒も飲んだらもっとかかる。すごい勢いで金が飛んでいく。後でエッチもしたらさらに三万円か。


 俺は清掃のバイトをしてるのだが、一日分以上の給料がなくなってしまう。そんなケチなことを言っても仕方がない。今日から隣のおじさんと張り合うくらいメイちゃんに貢がなくてはいけないんだ。そのために、午後バイトしても構わない。お金がかかっていればすっぽかされることもないだろう。


 僕は身長が180近くあるんだけど、メイちゃんは10センチくらいのヒールのある靴を履いてもそんなに高身長じゃない。要は小柄だった。顔が小さくて、歯並びがきれいで、本物のアイドルみたいだった。こんな子がどうして売春なんかしてるんだろう。


「隣に引越して来たの?」

「ううん」

「じゃあ、普段はどこに住んでるの?」

「野宿」

「えー。まじで?危なくない?」

「怖いから24時間営業の店にいたりする」

「そうなんだ…。今日泊まるとこってあったりする?」

「行っていい?」メイちゃんが切り返す。

「いいよ」

 俺はもちろんそのつもりだった。でも、隣の部屋の合鍵を持ってるのに、意味なくないだろうか。それとも、おじさんのことがあんまり好きじゃないんだろうか。そりゃそうだ。僕の方に来る理由は、おじさんみたいにいやらしくないからだろう。


 ファミレスで聞き出したところによると、メイちゃんの本当の名前はイオンちゃんだった。字は教えてもらえなかった。スーパーのイオンと同じ名前じゃないか!

 でも、イオンっていうのはラテン語で永遠を意味する素敵な言葉だ。そして、ギリシャ神話に出てくる農耕の神クロノスの別名でもある。つまり、男の子だったらあるかなという名前。


 僕がイオンちゃんにそういうと嬉しそうだった。

「知らなかった」

「親はどうしてその名前にしたの?」

「家がイオンの傍だったから」

「え、まじで?」

 俺は親のDQNぶりに呆れた。

「うそ!んなわけないじゃない。『テイルズ オブ ジ アビス』から取ったんだって」「え、ゲームの?」

「うん」

「そのゲームって結構最近のじゃない?今いくつ?」

「十六」

「え、じゃあ…」

「やっぱり十八」

「どっちだよ!」

「いいじゃん。いくつだと思ってた?」

「同じくらいかなって」

「えー。そんなおばさんじゃないよ」

「やっぱり十六か」

 きついな…。十六でホームレスで売春婦か。でも、十六なら結婚できるし、彼女って言えばギリギリいけるか。(現在法律が変わっています)あのおじさんは何とも思わないのか。俺の場合はさすがに良心が痛む…同世代が青春している時期に家もないなんて可哀想すぎるじゃないか。

「お兄さん、ロリコン?」

「男はみんなロリコンだよ」僕は年上風を吹かせてセクハラっぽいことを口走ってしまった。この子にどう接していいか迷っていた。売春婦なのかそれとも年下の妹みたいな存在なのか。


「でしょ。あ、でも、私…男なんだ」

「え?」とたんに腰が抜けたようになった。

「ゲームのキャラクターも男の子だし」

「え、まじで?全然見えない!」

「すごいでしょ」

「だって、喉ぼとけもないし、ひげも生えてないし。…胸大きくない?」

 と、言いながら下半身が反応していた。待てよ、男だろ?

「後で触ってみる?」

「う…うん。何入れてるの?」

「これ、リアルなんだよ。ホルモン治療してるの」

「へえ、そんなに大きくなるんだ」

「寄せてあげてるんだ」

「へえ…」余計に興味が湧いてしまった。

「お兄ちゃんって呼んでいい?」

「いいよ」

 なんだかエロい。男の娘にお兄ちゃんと呼ばれて慕われる。何だか複雑過ぎてついていけない。



 

 


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