第10話 廊下

 メイちゃんの裸を想像しながら、僕は廊下に布団を持って来て横になっていた。廊下は暑いから、居室のドアを開けっぱなしにしてエアコンの風を引き込んでいた。今、隣で二人がせっせと励んでいるのだろうけど、おじさんに出し抜かれたようで悔しかった。メイちゃんは今日も1時間3万円で性行為に応じてるんだろうか。それとも、2日続けてだから、ちょっと値引きしてあげてるのか。お隣さんにそんな金があるようには見えなかった。学生の僕よりましだろうけど。


 四十近くなっても学生が済むような安いアパートに住んでるなんて、金がない証拠だと思う。住むところに金をかけるのは馬鹿げているけど、それでも、世間体を考えたら、もうちょっとましな部屋に住んだ方がいいだろう。


 相変わらずJポップの曲が流れて来る。歌詞が聞き取れるくらい大きな音でかかっている。恋愛っていうのは誰のためにあるんだろうと思う。多分、リア充や陽キャのためにあるんだろう。僕みたいな陰キャのちょっと上ぐらいの立場の人間には出会いなんかない。


 誰かが言っていたけど、「純愛なんかない。だから、ドラマになるんだ」と言っていた。男女の恋愛を描いていた漫画家の人も、自分は大恋愛をしたことがないことを後悔していると語っていた。結婚している人だった。

 恋愛って何なのか自分にはわからないし、一生わからない気がする。なぜかと言うと両思いになるのはかなり困難だからだ。そんなに好きでもないけど、告白されたから付き合うというのは聞かない話ではない。最初は両思いでも付き合っていくうちに冷めていくことも多いだろう。大学生カップルの平均交際期間は半年から1年だそうだ。大学生は大学入学後から付き合い始める人が多いと思う。特に有名大学だと、高校時代は男女別学だったり、勉強が忙しくて、彼女がいたことのない人ばかりだ。


 お互いの家を行き来したり、初めてのセックス。周囲の目があって面倒なことになりがちだ。


 僕は人にとやかく言われたくないから、大学内の子とは付き合いたくないと思っていた。そうなると、大学生が多いバイトをすればいいのだけど、学習塾とかは意外と稼げないから、結局フリーターが多い職場でバイトしていつまでも彼女ができないという悪循環に陥ってしまう。


 メイちゃんが僕を好きになってくれる可能性は0%。大学の名前を使えば可能かもしれない。◎◎大生はもてる。大企業に就職できて、平均年収も四十代では一千万以上にはなる。彼女が計算高い人なら僕と付き合うだろう。それか、友達としてキープするかだ。一番可能性が高いのは3万円払って客として対応してもらうことだ。

 もう、客でいいや。あ、でも、コンドーム持ってないし。コンビニに買いに行くまで待ってもらおう。一緒に買いに行ってもいいし…女の子と買い物行ってコンドーム買うって幸せ過ぎる!


 僕はにやにやしながらその場面を百回くらい想像した。


 すると、隣の部屋の音楽が止んだ。


 今、着替えてる所かな。もう、そろそろ出てくる…。僕は急いで布団を丸めて部屋に投げた。この瞬間にもメイちゃんが帰ってしまうかもしれない。


 僕はサンダルを履いて慌てて外に出た。


 完全に怪しい人になっている。

 もう、日も暮れている。





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