第9話 2回目

 どのくらい隣に寝ていたかわからない。また、トイレに行きたくなって僕は部屋から出た。今回はトイレを流してすぐに布団に戻るつもりだった。その時起きてしまったら、僕はさりげなく話そうと思っていた。ガツガツしていたら引かれるだろうから、「あ、来てたんだ」みたいな感じで。


 でも、トイレでまた時間を食ってしまった。なかなか部屋には戻れなかった。理由は股間が目立たなくなるまでちょっと時間が必要だったからだ。電気がついていないとは言え、勃ちっぱなしで女の子の前に出て行くのは恥ずかしかった。


 部屋に戻るためにドアノブに手をかけたのだけど、もしかしたらメイちゃんはもういないかもしれないと思った。


 思い切って戸を開けると、そこには空っぽの布団が敷いてあるだけだった。

 この間と同じように、布団がびっしょりと濡れていた。


 枕元に置いてあったコップの水は空になっていた。僕は飲んだ記憶はない。きっと気が付かないうちに水を布団の上にこぼしているんだろう。メイちゃんが本当に部屋にいたかということは自分でも確信が持てなかった。やっぱり幻覚を見ているのかもしれない。


 僕はまだメイちゃんが家にいるかと思って、クローゼットやベランダ、風呂場などを覗いたけど、やはりいなかった。起こせばよかったかな。ちょっと喋ってみたかった。ただ、好きな時、いつでも来ていいよと言いたかった。


 僕は放心状態になって布団に座り込んだ。また会えなかった。なんてダメなやつなんだろう。二日続けて来たからと言って、明日も来るとは限らない。もう、二度と来ないかもしれないじゃない。


 すると、お隣からさわやかなJポップの音楽が流れて来た。


 あ、僕ははっとした。

 メイちゃんが、今、隣にいるんだ。


 お隣さんは普段音楽を全く聞かない。


 大音量で音楽を聴くのは、昨日が初めてだった。


 当事者二人の喘ぎ声なんかを消すために音楽を流してるんだ。

 僕の家は一階だから、部屋を覗いてみようか。

 でも、さすがに覗きはできなかった。

 メイちゃんの姿が見たいからと言って、お隣さんのベッドシーンを覗くことが正当化されるはずもない。僕は服を着て、キッチンの床に座った。次はメイちゃんが帰る時にドアの外に飛び出していくつもりだった。


 そして、「よかったら寄ってってください」と僕は言うつもりだった。

                                    

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