第7話 廃人になる
女の子と出会った翌日。
僕はバイトの面接をドタキャンした。
これからはできるだけ家にいることにする。
家を空ける時間が少なければ少ないほど、あの子が来たら会えるチャンスがあるからだ。
仮にあの子をメイちゃんと呼ぶ。
午前中は掃除のバイトをするけど、さすがに午前中から嬢を部屋に呼ばないだろう。その分収入が半減するけど、そんなことよりもメイちゃんに会いたい。
どうしても会いたい。
この話を読んだ人は僕のことを馬鹿だと思うかもしれない。
でも、会いたい、会いたいと思ってると意外と会えたりする。
僕が高校の時から好きだったアイドルの子のイベントがたまたま都内であって、この間実物に会うことができた。しばらく休養していて、今は引退してしまったから、その時が最後のチャンスだった。
それに、高校の時に好きだった子とも、夏休みに町でばったりあったりとか…何度かそんなことが何度もあった。せっかく会ったのに話しかけられなかったけど。
今回もそんなことがまたあるだろうと思っていた。
***
今は朝起きた瞬間からメイちゃんのことを考えている。
寝てる時もずっとそうだ。
メイちゃんの残像が頭の中に浮かんで、夢にも出てくる。
僕の隣に寝ていて全身から女の子の匂いを放出している。
僕は暗がりでどきどきして目をつぶった。
全身が硬直する。
動揺に気が付かれないように、唾をのみ込まないで我慢する。
掃除のバイトの時も脳内にはメイちゃんの姿がちらちらしていた。
一瞬一瞬ずっと。
頭から離れない。
神様。もう一回会わせてください。
そしたら、メイちゃんに告白しよう。
僕は受験の時と同じくらい本気で神様に祈った。
翌日。僕は早朝バイトの後で、まっすぐ家に帰った。
ポジティブな人なら、早く家に帰ったら好きなドラマや映画を見て有意義に過ごせばいいと思うだろう。
でも、家に帰ってもやることがない。
部屋にある娯楽はノートパソコンだけ。
それで、ネトフリやYoutube+成人向けコンテンツを見る。
ネトフリもYouTubeも見過ぎてしまって、見たいコンテンツがない。
成人向けは似たような動画ばっかりだから、時間がもったいなく感じる。
僕にはすることがない。
僕は無趣味で本当につまらない人間だと思う。酒もたばこもやらないし、人と語れるような何かもない。
いっそオタクになってアニメやゲームの話ができたらいいけど、僕にはそれもない。
家に帰ってシャワーを浴びてからは、エアコンをつけて昼寝をすることにした。
掃除のバイトは疲れるから、すぐに横になりたくなる。僕は運動部の経験がないから体力がない。
じゃあ、なぜ、早朝のバイトを入れたかと言うと、午後から別のバイトをすれば長時間労働で稼げると思ったからだ。バイトで稼いだお金は奨学金の返済に充てる。できるだけ早く借金から自由になりたかった。
バイトをしている理由がそれだったから、大学卒業して普通に就職すればすぐに二~三十万は稼げる。それよりも、今はメイちゃんに会いたかった。
しかし、心のどこかでもう会えないという気もしていた。
あの時、「隣の人の家じゃなくて、僕んところに来れば?」と、言えればよかった。そしたら、三万じゃなくて五万あげるのに。
もし、次会えたら何て言おう。
「待ってたのに何で来てくれなかったの?」
相手は責められているように感じるだろうか。
それか、「来てくれると思って、ずっと待ってたよ。今日は俺んとこに来いよ」と、強引に誘ってみるか。同じことをすごいイケメンがやったら女の子もキュンとするだろうけど、僕みたいな大人しいやつがやったらキモいだけだ。
「それより、プリン作ったから食べない?」とか、そういう来やすい誘い方の方がいいだろうか。嘘だけど、「猫をがいるから見に来ない?」と、言ってみるとか。棚に飾ってあった猫のぬいぐるみを見て「僕ってサイコパスだな」と思った。
「電球切れたんで変えてもらえませんか?」
「僕、今、首がむち打ちなんで」とか。
気持ち悪いよなぁ…。
女の子を部屋に呼んで何をしようとしてるんだろう。
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