第6話 部屋
ドアをバンと明けた瞬間。
予想外の展開が待っていた!
嘘やろ。
目の前には、全裸の美女が布団の上で俺を手招きしていた。
「はやくぅ」
僕はドアの前で固まって身動きができない。
それをうるんだ目で見つめるアイドル。
僕を誘うような笑みを浮かべていた。
「どうしたの?怖気づいた?」
僕は慌てふためいて返事もできない。
そのまま睨み合う二人。
「いやん!もう、まてない」
女の子が僕の狼狽ぶりを見て笑う。
まさか、こんな展開って…。
夏休み、知り合いに会わな過ぎて、異世界転生した?
それか、季節外れのバースデープレゼントだろうか。
誰が?
こんな粋なサプライズを仕掛けるなんて、最高のおやじだ!
そんな金があったら、自分で店に行くタイプだろう…。
とにかく…。
多分、部屋間違ってますよ。
お嬢さん!
僕は真っ赤になってそのまま動けなかった。
***
なんて…!
人生そんなにうまく行きっこない。
しかし、実際は目の前の僕の布団は空だったのだ!
なんてこった!
僕…寝ぼけてたのか!
あれぇ…。
バイトしすぎて頭がおかしくなっていたんだ!
違う、煩悩が激しすぎて、白昼夢を見たんだ!!!
恥ずかしいじゃないか!
馬鹿野郎!
俺の時間を返せ!
僕は家に帰ってから四時間くらいを妄想に費やしてしまっていた。
妄想はまるで麻薬だ。
俺は薬をやってるんだろうか。
隣の部屋からは、ずっとJポップのサウンドが聞こえている。
声を消すために大音量で流れていた。
壁の向こうでおじさんと巨乳アイドルが裸で絡み合っているのが浮かんでくる。
でも、目の前をちらちらするのは、おじさんのほうだけだ。
たるんだ体のおじさんが、若い子にせっせと励んでいて見苦しい。
相変わらずうるさい音楽に僕は苛立つ。
夏に海に行ったりするリア充どもが聞くようなやつだ。
僕には全然共感できない歌詞ばっかりで聞く気になれない。
あのおっさんは、若い子を連れ込んでるからって、若ぶって流行りの音楽をかけているんだ。どうせ大した稼ぎもないだろうに、数万円出すだけで超ハイレベルな女の子とセックスできるなんて。ずるいじゃないか!
僕なんか勉強してバイトもしてるのに、何一ついいことがない。
僕もデリヘルを呼びたいけど、あんなにかわいい子が来るとは全く思えない。売れる前のアイドルが枕営業をしているという都市伝説は聞いたことがないわけじゃないが、もし、自分がアイドルだったらできるだけ報酬の高い店で働くだろう。ちょっと頭の弱い子なんだろうか。
どこの店の子だろう…それとも、フリーでやってるのかな。
「後で行くから」って言ったのになぁ…。
来ないかなぁ…。
僕はその後も待ち続けた。
そして、夜10時くらいになってやっと気が付いた。
僕が見とれてたから、からかわれたんだ。
そりゃないよ!!!
ひどすぎる!!!
かわいい顔して性格は最悪なのか。
まあ、ちょっとだけ、楽しい思いができたからいいのか…。
って、僕はそんなにポジティブじゃない。
キミが好きだ!
うちにも寄ってくれ!
頼む!
三万じゃなくて、五万払うからさ!
すべて幻覚だったと思うと、僕は落ち込んだ。
あそこまでリアルな幻覚を見るなんて本気でやばいんじゃないか。
でも、幻覚じゃない。
トイレから戻った時、布団の右半分がびしょびしょだった。
僕の汗?
枕元には熱中症対策で水を置いていた。
それが倒れたのかもしれない。
その水がどうなったのかはもう覚えていない。
飲んじゃったのか、倒したのか…。
妄想しすぎて無意識に水を飲んでしまったのかもしれないし、寝ながら水を飲もうとして全部こぼしてしまったのか。
妄想でもいいから、最後まで見せて欲しかった。
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