第3話 尿意
ふわーんと鼻先に何かが漂って来る。
「なんだか妙にいいにおいがする」
これは何だろう。僕は今電車にでも乗ってるんだろうか…。
秘密の花園か半裸の女性が傅いているハーレム。大奥。パラダイスだ。たまにそんな夢を見る。転生したら、坂がつくアイドルグループの音楽プロデューサーだったとか…横浜流星みたいな超イケメンだったとか、アラブの王族だったとか…。
これは現実か。それとも夢?
「!」
これは女の子の匂いだ。僕はびっくりして目を開けた。いきなり目の中に人の顔がどーんと飛び込んで来た。電車の中と同じくらいのドアップだった。かわいい女の子が…僕の真横ですやすや寝ている!
「うそ!何で?」
僕は現実を受け入れられないまま、目を瞑った。今のは生首?もしかしたら、幻覚なんじゃないか?
僕には女友達どころか、彼女なんか絶対にいない。いや。いるはずがない。最後に女の子と喋ったのは、もう一か月以上も前だ。
それにしても、ずいぶんリアルな夢だ。童貞歴が長すぎて幻覚が見え始めてるのかもしれない…。風俗に行ってみたいと思う時もあるけど、あくせくバイトして働いた金を使うなんてもったいなさすぎる。働く時間は人生を切り売りしているのと同義だ。しかし、今の状況は…僕の理解を超えている。
もう、一回目を開けてみた。
目の前にいたのは、びしょびしょの髪のままの横になっている女の子だった。しかも、そのシャンプー僕のなんじゃね?同じシャンプーでも違う人が使うと匂いって変わるんだ。そういうもんだいじゃないって!
布団カバーがびしょびしょになっている。僕の大事な布団カバーが!昨日洗ったばかりなのに…。
「なんだこいつ」
でも、まつ毛が長い感じがいいなぁ。唇がぽってりしてエロい。丸顔ですごいタイプだ。しかも、体つきも丸くて肉感的…。こんなハイレベルな子がなんでこんな貧乏臭いアパートにいるのか…。
僕は怒る気もなくなっていた。それくらい、その子はかわいかった。
心当たりと言えば、さっきの人しかいない。パパ活してる子だ。何で僕の部屋にいるんだろう。部屋を間違ったのか?でも、どうやって間違うってどうやって?
でも、やっぱりドキドキした。ちょっとどころか、かなりドキドキだ。
人生でこんなシチュエーションは取りあえず初めてだ。ああああ…やばい。やばすぎる。どうしよう。まじでどうしていいかわからない。
僕は気が動転していた。とりあえず、寝たふりをした。
そのまま気が遠くなるくらいの時間、布団に横になっていた。どうしたら帰ってもらえるだろうか。パパ活してるくらいだから、ちょっとおかしい人なのかもしれない。人の家に勝手に入って来て、しかも寝ている時点で普通ではない。話し合いに応じてくれるんだろうか。
僕はいつまでも布団から起き上がれなかった。そろそろ、トイレに行きたい…。さっき、飲んだお茶のせいで尿意を催していた。でも、僕が起きたらその子が目を覚ましてしまうかもしれない。その子を追い出すどころか、僕が家出したいくらいの状況になってる。
ちょっとの間、我慢していたけど、その時間が永遠かと思うくらい長かった。
ものすごく、トイレに行きたい。トイレ…、トイレ…、トイレ…。
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