第2話 盗み聞き
僕の部屋は玄関から入って正面が廊下になっている。右側に風呂とトイレがあって、左側は台所というごくありきたりな間取りだった。僕は電気をつけるのも忘れて、急いで居室部分のドアを開けた。
部屋の中は、まだ6月だけど空気がこもって暑かった。カーテンを閉めているから、薄明りの中で隣から話し声が聞こえて来た。隣も同じ間取りだろうから、二人が壁を隔てたすぐそこにいるのがわかった。僕はどきどきしながら壁に耳を当てた。
「じゃあ、三万円」
え?まさか。パパ活!?あんなかわいい子がおじさんと…!にわかに信じられなかった。本当にかわいい子だったら、もっと別に稼げる方法がありそうだけど。きっと何か事情があるんだろう。それか、頭の弱い子なんだ。三万だったら僕も三日バイトすれば稼げる金額だ。にわかに現実味を帯びて来る。
お金があればかわいい子とHができる。需要と供給ってそういうものだと自分に言い聞かせた。あんなにかわいいのに、もったいないなぁ…。そうじゃない。むしろキモオタにはチャンスじゃないか。
「じゃあ、前金で」
その子は堂々とおじさんと渡り合っていた。すごいな。いつからパパ活をやってるんだろう。
「ああ、わかってるよ」
「じゃあ、お願い。ねぇ。早くしてよ!」
「そんなこと言って、金だけ取って、すぐ、どっかから男が出て来るんじゃないの?」
「そんなことないって。部屋にいるのにどうやって人が出てくんの?」
「じゃあ、千円だけ渡すから、後はあとで…」
「はぁ?千円?ふざけんな。三万今すぐ払えよ!」
「先に渡すと手を抜くかもしれないからな」
「そんなこと言って、ほんとに金あるの?」
「あるって言ってるだろ!」
男が怒鳴った。
「あ…。そう…。わかった。じゃあ…ちょっと…トイレ借りるわ」
「おい、待てよ!」
女の子は逃げようとしたらしい。
「暴力振るうの?やめてよ!」
女の子が叫んでいた。僕はどうしようか迷った。どうしよう…。隣に乗り込んだら、聞き耳を立てていたのがばれてしまう。
「助けて!殺される!」
女の子が叫んでいたけど、僕は何もできなかった。警察に連絡しようか。僕は十分くらい迷ったけど、結局は聞こえなかったふりをすることにした。
そして、何事もなかったかのように、エアコンを付けて、シャワーを浴びて、それから布団を敷いた。
「よし!」
僕は掛け声をかけた。昼寝をしてから履歴書を書こう。
僕が部屋に戻った時は、隣の男はJポップの音楽を流していて、話声は聞こえなくなっていた。流行ってる曲だけど、今の状況には全然合っていない爽やかな恋愛ソングが流れていた。二人はその曲をどう思って聞いてるんだろう。皮肉なもんだ。二人とも恋愛には縁がなさそうな気がした。売春する女の子に純粋な恋なんてできっこない。
どうなったかな…。僕は気になりながらも、エアコンの涼しい風に誘われて布団に横になった。暑い日にエアコンの効いた部屋で昼寝は至福だ。僕は掃除のバイトで疲れていたこともあり、すぐに眠りに落ちた。
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