耐えなくちゃ1話
お盆が明けたのにまだ暑い。お盆明けイコール秋、だったはずなのにどうしたんだろ。来週の月曜日にお姉ちゃんは定期試験がある。その日が来たらシノは始業式まで十日。お盆休みの一週間しか名目上、夏休みがないお姉ちゃんの学校は九月がまるまるお休み。授業日ゼロ。つまり、実質的な夏休みは九月。シノは終わってない夏休みの宿題の追い込みをかけてた。
わかんないよ、わかんないってば。もう嫌だ。やりたくない、逃げたい。無理、消えたい。感情が混乱する。わかってるよ、やんないといけない。でもさ、わかんないんだよ、答えなんて解説ついてない鬼畜だし。教科書見たってわかんないし。こんな思いをしてまで勉強を優先する理由ってなに?学生の本分は勉強?んなことわかってるの、死にたくなってもすることなの?勉強って。
自室を出て一階に降りる。洗面所で剃刀を手首に当てる。ぐっと少し力を入れて痕をつける。重ねるように、軽く叩くように下ろしてく。少し血が滲んで白い傷ができた。もっと、もっと、血を抜かないと。あんまり深くはやったことないけど、餓死も事故死も、病死も選べないなら…。これしか……。
「しのりん⁈」
肩で息をしながら、咳き込んで口に手をあてながら、心臓の辺りを押さえながら、お姉ちゃんが洗面所に現れた。気づかなかった。いくら、気配を無自覚で消すのが上手いとはいえ、シノが気づかないわけ、ない、のに…。
「おねぇ、ちゃん…」
「うん、お姉ちゃん、だよ…。まずはそれ、置こうか…」
「うん…」
手に持ってた剃刀を手放す。
「よしよし、良い子良い子…」
過呼吸?発作?お姉ちゃんだって苦しいはずなのに、お姉ちゃんの方がしんどいはずなのに…、シノの腕の血を流して優しく拭き取って撫でてくれた。
「よく、頑張ったな」
そう言って絆創膏を貼ってくれた。
「それと、止めて悪かった」
なんでお姉ちゃんが謝るの…?止めなかったらもっと深く、最悪死んでたのに。
「僕が言えた身ではないが、自分を大切にしてくれ。切る前に、僕に吐き出せ。もし切ったとしても…こうやって、何度だって手当てしてあげるから、ちゃんと言って。死なないで、しのりん…」
お姉ちゃんには敵わないな。身体しんどそうなのに、今日も助けられた。生きないと。お姉ちゃんを守れるのはシノだけだし、助けあっていきたい。
「うん…」
だから、ことちゃんも生きてね。
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