夏風邪5話

 家にしのりんと二人になった。

「しのり〜ん、体温計〜ちょーだい」

 ふっと弧を描いたそれをキャッチしてわきに挟む。

「何度だった〜?」

「七・五」

「ことちゃん、ママに連絡して。病院行こ」

「寝てたら治るよ〜」

 病院には行きたくない。正確には親に言いたくない。うざったい。また怒られる…。

「ママ怒らないから大丈夫だよ」

 読まれたかな。

「あの人、こーゆーの、しのりんには甘いから」

「うっ…それは事実。でもことちゃん、病院なら喘息の時のシール、あれもらえるかも。あった方が楽でしょ?」

「うん…」

「ママにはシノから連絡しとくから」

 トークルーム開いて立ち止まった。

「あ、往復二十分弱歩く元気ある?」

 そこだいぶ大事なとこだよな⁈忘れてた僕も大概だけどさ?

「ん〜…。もし歩けなくなったら運んでよ」

「うん、わかった♪」

 え?わかった?「お姫様抱っこするから覚悟しとけよ!(意訳)」の文字が見えたのは気のせいか?気のせいだってことにしておこう。冗談のつもりだったのに…。



 ことちゃんが呼ばれて「妹さん?も来ますか?」って訊かれたけど、行ってらっしゃいと送り出して待つことにした。

「夏風邪だって」

 うつしちやったかなぁ…。

「そっかそっか〜」

 ことちゃんを撫でた。泣きそうだったから。

「しのりん…」

「春風さーん」

 お会計の合図だ。

「ことちゃん、待っててね。お会計行ってくる」

「しのりん…」

 ワンサイズ大きい服の袖を掴まれた。座ってることちゃんに目線を合わせた。

「お会計したら戻ってくるから、ちゃんと」

 もう一度軽く撫でてお会計に向かった。

「ただいま」

「ん」

 隣の薬局で薬を受け取って帰路についた。ちょっとふらふらしてるけど、手を握っていれば大丈夫なくらいで無事帰って来れた。

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