第九話 力

 彼女は、何かが違かった。先ほどまでの、彼女はそこにはいなかった。

 目の前では、理解ができない戦いが繰り広げられていた。

 確か、あの子は始めたばかりのか弱い女の子のはず……なのに、私より断然強かった。


 目で追えない速さで、彼女たちは戦っており私は何もすることができなかった。こんな無力なことが今までにあっただろうか。

 それに、彼女は魔法使いと聞いたが……彼女は杖を持っていなかった。


 ……杖は……私の隣にある……

 私は、おかれていた杖を持った。すると、その杖は魔法と使うには十分すぎる杖だった。彼女は、この杖を誰からもらったのだろうか……と思っていると……


「……孫も弱いのかなぁ?」


 ソフィア……と言ったか……その女は、エマに挑発を入れていた。私はこんな光景は見たくなかった。


 私はただ、マシューと仲直りをしたかっただけなのに……と杖を強く握りしめる。だが、そんなことを思っても目の前の光景は変わらない。


 私は剣を取り出したが……戦いに参加できる気はしなかった……


 私は、昔本で読んだことがった。

『獣人族』の存在を。


 獣人族とは、はるか昔に絶滅したと言われている幻の種族である。その種族だけ

 扱えた能力があった。


『神力』


『神力』とは、本によると自身の命を削る代わりに、大幅身体強化を行うものである。その『神力』を使っている人を見たことはいないという。


 だから、実際に代償もあるのかわからない。だが、本の最後にこんなことが書かれていた。

『神力を使う獣人族は、身近にいる。そして、戦っている姿は見えないと思われる』


 こんなことが書かれていた。だが、その本の著者も知らない。著者の想像だろうが……私は信じていた。


 そして、今私の目の前で行われているバトルは獣人族のバトルと言ってもいいだろう。実際に聞いてみる覚悟はない。


 すると、突然二人の動きが止まり……やがて、ソフィアは姿を消した。

 エマは、振り返りながら言った。

「大丈夫だった?」

「……えぇ、大丈夫だった……あれがあなたの力?」

「力というより、ただの先祖の力だけどね」

「先祖の力?」

「ううん、なんでもない。ごめんね。こんな戦いに巻き込んじゃって……」


 私は困惑しながらも言った。

「……大丈夫、大丈夫!ていうか、あなた本当は魔法使いじゃない?」

「……いいえ、魔法使いよ?私はイラつくと拳で戦う癖があってね」

「癖が強いわね……で、ソフィアという女はどこに行ったの?」


「あぁ、あの女?あの女は、逃げたよ」

「逃げた?どこに?」

「わからない。だけど……」

「だけど?」

「このダンジョン出口があるみたい」


 戦っている間に聞いたのか、それとも考えたのか真相はわからなかった。

「ほんと!?それはいい情報を手に入れたわね」

「お役に立てて、嬉しいです!ですが、このダンジョンを出るには、このダンジョンの迷宮主ボスを倒す必要があるみたいです」

「……そうか。わたしまだ、迷宮主倒したことないんだよね……あはは……」


 少し、絶望しながら言ったが、彼女は笑顔でこちらに向けて言った。

「私もですよ!」

「だよね!」と私は返すしかなかったのだった。


 ◇◇◇◇◇

 息を切らしながらも僕戦いきった。先ほどとは違い、マシューの後方支援があったため楽だった。僕は、後ろのほうにいるマシューに言った。

「ナイスです!マシューさん!」

 そう言うと、彼はニコッと笑った。そして、僕はマシューさんのほうに戻り言った。

「いやー、本当にありがとうございます」

「いやいや、僕は自分の職務を全うしただけだよ」

「いや、だけどマシューすごいよ!」

「そんなに褒めないでくれ……よ」

 マシューは、顔を真っ赤にしながら言った。


 お互いのいいところをほめあっていると、前のほうから声が聞こえた。

「いやーーお見事だったよ」

 そういいながら、手をたたく音が聞こえた。僕とマシューはすぐさま戦闘態勢に入った。だが、目の前にいる男は両手を挙げて言った。

「おっと、そんなに警戒されるとは思わなかったな」

「……お前は誰なんだ!」


 僕は、大声で言った。すると、男は手を下ろして言った。

「……マシュー……わからないのか……この私を」


 男がそういうので僕はマシューのほうを見た。すると、マシューの顔は笑顔ではなく絶望の顔をしていた。なんでだろうと思っているとマシューは静かに言った。

「………アデル……兄さん……」

「そうだよ……わが弟よ今気が付いたか……やはり、劣っているな」とアデルが言うとマシューは怒鳴り声で言った。

「そんなこと言うなよ!僕が5歳のころ兄さんは勝手に家出をして……僕は大変だったんだぞ!兄さんのほうが優秀で、僕は劣等遺伝子を引き継いでしまったがゆえに毎日が大変だったんだぞ!」

 すると、アデルはくすっと笑って言った。

「それは、ご迷惑をかけたな……それでだな。俺がいなくなってからは俺がやっていた練習をさせられていたんだろう?」

 マシューは数拍おいてから言った。

「……そうだよ、兄さん……とてもしんどかった」

「そうだろう……逃げ出したくなる気持ちもわかるだろう?」

「あぁ……」

「そして、今のお前に戦いを申し出る」

「決闘!?」


 僕は思わず言ってしまった。すると、マシューは言った。

「いいですよ……兄さん……僕の努力の成果をここで見せますよ……」


 マシューがそういい終わると、辺りには二人にしか入れない結界が張られた。

 僕は、ただ二人が戦っている姿を見るしかなかった。


 僕は手を合わせてマシューが勝つことを祈るのみだった。


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異世界冒険者の旅 秋伯(しゅうはく) @warawa

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