第五話 先輩は頼りにならない

 アメリアさんはクリスの肩を掴んで言った。

「クリスだっけ?あんたはCランクだっけ?」

「はい」

「……あんたは、Cランクだよ……だけど、この二人はまだ始めたてのビギナー……言ってる意味わかる?」

「わかります」


 クリスはとぼけた顔をしていた。理解はしているが、聞く耳を持とうとしていなかった。

「……だから、私から命じます。連れていってはダメです」と

 上の者の権限を酷使した発言だった。


 すると、黙っていたルビーさんンも言った。

「クリス。連れていきたい気持ちはわかるけど、この子たちの未来を考えるとまだ連れていくべきではないわ」

「えぇ~ルビーまで言うのかよ……なぁレインはどう思うんだ?」


 突然振られて僕は戸惑いながらも言った。

「クリスさん。皆さんに心配をかけてしまうなら僕は行きません。今日もエマとクエストをこなすだけです」というと、アメリアさんはドヤ顔をしていた。なぜ、ドヤ顔をしているのかわからなかったが……


 すると、クリスは少し考えてひらめいたの手をたたいて言った。


「あっ……こんなのはどうよ」と言い、アメリアさんの耳元で何かを話していた。


 何を話しているかはわからななかった。だが、僕たちのどこがいいのか。僕たちはまだ始めたばかりのビギナーだ。そんな僕らに執着する意味が僕にはわからなかった。


 アメリアさんとクリス話終わり、アメリアさんは小難しそうな顔をしながら腕を組んンで固まっていた。

 やがて、言った。


「……レインいいんですか?ルビーさんとクリスさんはあなたたちのクエストについて行くことになりました。それでもいいですか?」


 そう聞かれて、僕はエマを連れて少し離れた場所で話した。


「……エマどう思う?」

「どう思って……ルビーさんはいい感じだったわよ」

「そうか……僕が決定権を握っていいか?」

「どうして?」

「……なんだか、あの二人頼りにならなそう」というとエマはくすっと笑った。

「レイン……バカ……そんなこと言うんじゃないよ……急に……思わず笑っちゃったじゃない」

「ごめん。で、ちょっと僕が行ってくるね」と言い、エマをその場においてクリスたちのところに戻った。


「おっ、戻ってきた」とクリスが僕のほうを見ながら言った。

「結論出ました。結局あなたたちを連れていくことにはしません」というと急にクリスは顔を変えて言った。


「先輩の言うこと聞けないのかよぉ!?」

「はい。僕はそう生きてきたので」というとクリスは僕をにらみながらどこかに行ってしまった。


 ルビーは少し戸惑った顔をして立ち止まっていた。僕はそんなルビーさんに言った。

「追いかけないんですか?」と。すると、ルビーさんはハッとした顔をしてから行こうとしている背中を見ながら言った。


「……クリスさんとは別れたほうがいいですよ」と。


 すると、ルビーは立ち止まりこちらを向いて言った。

「どれはどうして……」と言葉をこぼすのでルビーさんの目の前まで行って小声で言った。


『あなたを守るためです』


 僕は、無意識に意味の分からないことを言ってしまった。ルビーさんは数秒間絶望した顔をした後、こちらに一礼をして外に出て行った。


 僕はエマのいるほうに戻った。すると、エマは不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。何だろうと思っているとアメリアさんが言った。


「なんで、あんなことを言ったの?」

「なんだろう。あの怒ったときのクリスさんを見てルビーさんに危害が加わるなぁと思っただけです」

「そう……で、今日のクエストどうする?」


 アメリアさんはいつの間にか受付のカウンターの机に肘を置いてこちらを見ていた。

 そんなアメリアさんに僕は言った。


「今日も安定したものを選ぼうかな?エマはどう思う?」

「いや……ここは少し評価上げたくない?」

「そうだな……お前戦闘苦手のくせに……」

「うるさいっ!」


 エマに頭をたたかれながら今日もクエストを選ぶのだった。


 ◇◇◇◇◇

 私はクリスの後を追いかけた。追いかける最中、レインの言葉が頭の中に印象深く残っている。彼が言った言葉の意味は何なのか。


 よくはわからんかった。そんなことを考えているとクリスの背中が視界に入ってきた。私は思わず、声に出して言った。


「クリス!」

 すると、彼はこちらを振り返り言った。

「なんだよ」

「どうして、あの場から逃げたりしたの?」と聞くとクリスは私の腕を掴んできた。


 私は驚いてしまったが、驚きを表情に出さずに黙って見つめた。

「……最初はすごい奴だと思って近寄った……だが、実際話してみると俺よりも何倍も思考は大人だった。そんな奴と組んでクエストなんかに言ったら……と思っていたが……案の定、あいつは断った。だが、俺はその選択は間違ってはいないと思った……誉めるところもあったが……無性にイラついてきて……」


 そう語るクリスの目は少し潤んでいた。

 彼も、優しく接したかったのだが……相手が悪かったということになる。私は、掴まれている腕の手を優しく自分の手で包み込みながら言った。


「それは、つらかったね……クリスは手を出さなかっただけ偉いと思うよ?」というと彼は涙が流れていた。


 それほど、彼にとっては悔しく。後悔のある行動だったのだろう。私か彼の頭を優しく持ち……優しく胸元に置いた。


 彼は、周りの目などを気にせず、私の胸の中泣いた。自分の子供を慰めている気分に浸るのだった。



 慰めながら、酒屋に向かい。私はクリスを慰めながら一緒に飲んだ。クリスのことを心配してくれるほかの冒険者とも飲んだ。


 これが、クリスにとって良い慰めかたなのか悪いほうなのか。

 私にはまったくわからないが……彼の顔は暗い表情から少し明るい表情へと変わったのだった。


 私は、そんなクリスを見て大声で言った。


「ビール2杯追加!!」と。

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