2.テラ連邦における戦闘艇(その2)

3.DSTP-201「ランサー」


 「ランサー」はCFB-03D「ガーディアン」をベースとした派生型である。

 汎人類戦争開戦後約1年が経過し、テラ連邦と銀河連合の勢力圏が固定化の傾向を示すようになったころから双方ともに相手の勢力圏に通商破壊艦を侵入させ、連絡線を脅かすようになった。初期の通商破壊艦は規格貨物船を改造した特設巡航艦が用いられ、独航貨物船に偽装することが多かった。それらは通商破壊艦のセオリーを守り正規軍艦との戦闘は徹底的に回避し、主なターゲットは独航貨物船か護衛なしの船団だった。

 護送船団方式を用いることで連絡線への脅威は軽減はできたが、通商破壊艦の排除は護送船団ではできなかった。船団の護衛とは別に伏在している通商破壊艦を探しだし撃破する低コストの戦力が必要とされた。探す方については哨戒艇の能力向上と絶対数の増強で対応可能だったが、発見した通商破壊艦をどうやって撃破するかが問題だった。連邦宇宙軍本部はこの問題に対する提案依頼を行った。

 これに応えたのは「ガーディアン」のOEM製造を行っていたサカマキパワーボート社だけだった。同社の案では「ガーディアン」の小規模改修とオプション装備の追加で対応するとし、戦闘艇だけでは対応できない部分については支援艦艇(戦闘艇母艦)に任せるとした。

 改修点はコックピットカプセルとハードポイントの追加だった。

 コックピットカプセルには長距離進出時の搭乗員の負担を軽減するため救難カプセルに使用されていた代謝抑制システムが組み込まれた。ハードポイントには長距離進出時に必要となる推進剤を外部推進器パックとしてまとめたものを外付けすることとした。

 戦闘艇だけで対応できない部分とは転移機構が必要とされる距離の移動で、これについては戦闘艇母艦に搭載されて移動するものとした。

 戦闘艇母艦については本稿の範疇から外れるが簡単に触れておく。このとき建造された戦闘艇母艦は直接敵艦と砲火を交えることは想定されておらず、最低限の近接防御システム以外の武装はない。艦内には戦闘艇一個中隊16艇と予備4艇、全力出撃3回分の外部推進器と対艦ミサイル、レールガン弾体を搭載し上下左右の各舷に射出と回収に用いる電磁カタパルトを装備していた。

 通商破壊艦が特設巡航艦から正規通商破壊巡航艦に強化されるとこれに対抗するため1個戦隊64艇を搭載できる大型の戦闘艇母艦も投入された。

 「ランサー」は泊地警備や港湾警備にも転用されたこともあり生産数を伸ばした。

 汎人類戦争後期には転移機構を備えた戦闘艇DSTP-213が登場したが製造単価が高く、停戦時でも絶対数はDSTP-210シリーズの方が圧倒的に多かった。総生産数は273万8000艇に及んだ。

DSTP-210A 要目

 全長:198メートル、全幅:49メートル、全高:40メートル。武装:対艦ミサイルまたは対艦ミサイル迎撃用榴散弾弾頭ミサイル:8基、7.7ミリ口径レールガン1門、37センチ口径粒子砲1門(D型以降)。連続活動時間:8時間、外部推進器と代謝抑制システムを用いた場合の連続活動時間24時間。乗員:1名。


4.DSTP-213「ワイルドハント」


 「ワイルドハント」は連邦軍が開発した転移機構を備えた戦闘艇である。「ランサー」は優秀な戦闘艇だったが母艦を用いた展開ではどうしても戦機を逃してしまうことがあった。これの対策として母艦にある程度の対艦戦闘能力を持たせ、敵前で戦闘艇を展開する案と戦闘艇に転移機構を搭載する案が検討された。

 母艦に対艦戦闘能力を持たせる案はかつての重巡航艦と艦載ミサイル艇の組み合わせへの先祖返りに近い。旧式化したジャカルタ級重巡航艦の後部砲塔を全廃し戦闘艇格納庫とし、戦闘艇2個中隊と予備艇を搭載するものとされた。

 戦闘艇に転移機構を搭載し戦闘艇の展開能力を高める案は戦闘艇の寸度と反応炉の出力がネックになるかと思われた。だが、自力で転移し、艦艇に搭載しないのであれば寸度制限は緩和できる。そうなればより大型で大出力の反応炉を搭載することもでき、機動艇で使用している転移機構が転用できるのではないかと考えられた。

 コストシミュレーション、シミュレーション空間での比較を経て、転移機構を搭載する戦闘艇の開発に方針が決した。

 開発が開始されても艇体の大型化に伴う推力質量比の悪化や機動艇で使用している転移機構を転用するには大規模なインターフェースの変更が発生するなどの問題点が発生した。

 特に転移機構の操作をどこまで搭乗員にさせるかは戦術の自由度にも影響するため用兵側も巻き込んでの検討とシミュレーションが繰り返された。

 機動艇と異なり専任の機関員をがいない戦闘艇で、細かな転移機構のパラメータ設定や操作を搭乗員にさせることはワークロードの増加につながり、結果として戦闘行動に影響が出ることが判った。

 このため、転移機構の機能には思い切った割り切りがなされた。「ワイルドハント」の転移機構は戦域と泊地間1往復のみ可能(転移自体は往路復路ともに複数回可能)とし予め泊地で調整済みのプロシージャとして各艇にロードすることで、搭乗員のワークロードの増加を最小限に抑えた。

 艇体の平面形はくさび形で艇首から艇尾へむかって広がり、左右の上舷下舷に対艦ミサイル各3基と8連装プローブポッド各1基を搭載し、前部に粒子砲とレールガンを装備している。大型化し増えた質量に対応するため推進器はMTB-5型機動艇と共通のものを1基、反応炉は同様にMTB-5型機動艇と共通のものを搭載した。

 シンカーは新たに開発され、宙域戦闘管制艦の支援が得られない場合でもプローブを含むセンサーの情報を迅速に処理できるようになっている。

 代謝抑制システムはDSTP-213でも搭載されているが、長距離進出時の負担軽減と言うよりもコックピットカプセルを救難カプセルとして使う場合に生存時間を延ばすために用いられた。

 製造工程の複雑化とこれに伴う単価の上昇など量産後も問題は発生したが運用実績自体は良好で連合の正規通商破壊巡航艦狩りや敵艦隊の後方段列襲撃などに投入され多くの戦果を挙げた。

 コストと生産工程の複雑化が影響し総生産数は89万1000艇だった。

DSTP-213要目

 全長:276メートル、全幅:93メートル、全高:72メートル。武装:対艦ミサイル:12基、20ミリ口径レールガン1門、50センチ口径粒子砲1門。プローブ:戦闘用プローブ32基。連続活動時間:8時間、代謝抑制システムを用いた場合の連続活動時間24時間。乗員:1名。

 なお、対艦戦闘能力を持った母艦は連邦軍には採用されなかったが、連邦保安省警備隊に採用された。最終的に退役したジャカルタ級重巡航艦の20パーセントほどが連邦保安省警備隊に移管され、前線以外の星域で「ワーデン」を搭載して通所保護、犯罪組織の密輸船や宙賊船の摘発に活躍した。

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