3.銀河連合における戦闘艇
3.銀河連合における戦闘艇
1.DB-101「クロコダイル」
それまで戦闘艇を保有していなかった銀河連合が戦闘艇を開発し配備したのは冷戦状態の軍拡の理由としてありがちな「敵が持っているから」だった。
テラ連邦の680建艦計画で建造されたネルソン級戦艦に艦載戦闘艇「ワーデン」が搭載されている理由、さらにその性能諸元はOSINTである程度まで解明された。
連合宇宙軍はこれをもとに「ワーデン」に匹敵する艦載戦闘艇の開発を決定。入札を行った。応札予定各社に提示された要求仕様は(無理もないが)かなり「ワーデン」を意識したものだった。ただその中で特徴的だったのはすでに就役している戦艦、重巡航艦への搭載に関する項目で、格納庫の改装に関しては一切不可となっていたことだ。
シミュレーション空間での競争試作の結果、アルカンシェル工業が落札し、艦載戦闘艇の開発が開始された。参考にできる「ワーデン」があったとは言え、連合にとって新たなコンセプトの「戦闘艇」の開発は必ずしも順調とは言えなかったが、それまでの小型艦艇開発のノウハウもありDB-101「クロコダイル」として結実した。
DB-101「クロコダイル」の形状は円柱形を基本としており艇尾に1軸の推進器があった。中央部にはリング状のウエポンラック兼オプションラックが設けられていた。オプションラックには急速展開用に使い捨ての補助ブースターを搭載できるようになっていた。補助ブースターの運用実績は良好でオプション扱いだったが、ほぼ標準装備となっていった。
武装はウェポンラックに対艦ミサイルまたは対艦ミサイル迎撃用榴散弾弾頭ミサイル4基、艇首に近接防御システムから転用されたレーザー砲を備えていた。
任務は「ワーデン」と同様に戦艦、重巡航艦の直掩であり、護衛を突破して侵入してくるテラ連邦の艦隊を迎撃するための対艦戦闘能力を有していた。
DB-101 要目
全長:187メートル、全幅:52メートル、全高:52メートル(オプションラック含む)。武装:対艦ミサイルまたは対艦ミサイル迎撃用榴散弾弾頭ミサイル:4
基、12.7ミリ口径レーザー砲1門。連続活動時間:6時間。乗員:1名。
2.DB-104「アリゲーター」
連合標準歴239年次艦隊整備計画でアスモデウス級戦艦、アブラハム・アダン級重巡航艦とともに「クロコダイル」の後継として開発された戦闘艇である。アフメイド・イスマイル社を開発主担当社として開発が行われた。制式後は改良を加えられながら汎人類戦争全期間を通じて活躍した。
形状的には「クロコダイル」同様に円柱形だが「アリゲータ」ではウェポンラック兼オプションラックがあった中央部はテーパーがついて一段太くなり反応炉が収容されている。このため、ウェポンラック兼オプションラックは後部に移動している。
武装も強化され、対艦ミサイルの搭載数は6基だが、12.7ミリ口径のレーザー砲一門に加えて37センチ口径の粒子砲を艇首に装備していた。ただし、反応炉の出力の問題でC型までの発射速度は低く、反応炉が強化されたE型でようやく「ガーディアン」「ランサー」と同程度の発射速度を得られるようになった。
「アリゲーター」は当初、主力艦の直掩艦載艇として運用された。その後、テラ連邦の「ランサー」同様、通商破壊艦対策として戦闘艇母艦に搭載しての運用も行われるようになり、大きく生産数を伸ばした。
連邦の「ガーディアン」「ランサー」と異なり、DB-104「アリゲーター」はD型以降はすべてのタイプで外部推進器を取る付けることができ、主力艦に搭載されたものと戦闘艇母艦に搭載されたものに差異はない(注2)。このため、後には艦隊に随伴し戦闘艇を展開する大型の戦闘艇母艦も建造され、運用されるようになった。一般に攻撃型フリゲートとして知られるFF-38Z級と編隊(連合での名称は「パトロールユニット」)を組んで艦隊の護衛をしている映像資料が多いのはこのためだ。このパトロールユニットは強力でアザンクール星系奪取を企図した銀河連合の攻勢時に遅滞戦闘に投入されたテラ連邦の「ランサー」や機動艇は大損害を受け、殆ど戦果を挙げられなかったことが記録に残っている。
「アリゲーター」は補助ブースターを用いて発艦するため銀河連合の戦闘艇母艦は電磁カタパルトを装備していない。帰投した戦闘艇を収容する際にはより簡易な構造の電磁ネットを使用する。
DB-104 要目
全長:199メートル、全幅:54メートル、全高:54メートル(オプションラック含む)。武装:対艦ミサイルまたは対艦ミサイル迎撃用榴散弾弾頭ミサイル:6
基、12.7ミリ口径レーザー砲1門、37センチ口径粒子砲1門。連続活動時間:6時間、外部推進器と代謝抑制システムを用いた場合の連続活動時間24時間。乗員:1名。
注2:戦闘艇母艦に搭載しての通商破壊艦攻撃時など長距離進出が必要な場合は連邦と同等の代謝抑制システムを搭載したコックピットカプセルを使用した。
3.XDB-106「カイマン」
XDB-106は連邦の「ワイルドハント」同様に戦闘艇の柔軟な運用を目指した転移機構を搭載した戦闘艇である。応札した各社の計画の内、多段テーバード円柱形のアフメイド・イスマイル社案と主艇体後部に2基の推進器を外付けした形のサボイア重工案の2案がシミュレーション空間での競争試作に進んだ。
一方で、転移機構搭載戦闘艇の入札に敗れたアールシュ造船は自主設計した対艦戦闘可能で同時発艦能力を強化した戦闘艇母艦を連合宇宙軍調達部に提案していた。
これはテラ連邦のジャカルタ級重巡航艦改造案とは異なり新規設計の艦だったが基本的には艦隊随伴戦闘艇母艦をスケールダウンし最小限の対艦戦闘能力を持たせたものだった。通商破壊艦との直接交戦はやむを得ない場合のみとし、あくまでも連邦の通商破壊艦に対して「アリゲーター」型戦闘艇の急速展開と索敵支援、管制を行うことに主眼を置いたものとなっていた。
調達部は既存技術の組み合わせで早期に実戦配備可能と思われるこの提案に興味を示し、アールシュ造船に転移機構搭載戦闘艇と同じシミュレーション空間での試作評価を指示した。
慎重な審査の結果、早期に戦力化が可能な対艦戦闘能力を持った戦闘艇母艦と「アリゲーター」型戦闘艇の組み合わせに決し、XDB-106「カイマン」の開発は中止された。対艦戦闘能力を持った戦闘艇母艦は「アオルナス」級として採用され「アリゲーター」型戦闘艇とともに活躍した。
余談だがこの組み合わせは停戦後も通商保護、航路警備に有効であることが認められ、生産が続けられた。現在も連合宇宙軍や連合警察海賊課で後継の「クアール」級戦闘艇母艦と「ノスリ」型戦闘艇が運用されている。
汎人類戦争における小艦艇 小田 慎也 @s_oda
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