7.お姉ちゃんとお話耳かき

//声、正面から聞こえる形で


「いやー、今日はいい日だったねぇ」


「お昼には一緒にデートして、美味しい夜ご飯も食べて、お風呂も入って……お部屋で、二人でまったりして」


「あとやることといえば、一つだよね」


「さあ、お待ちかねの耳かき、してあげましょう」


「こっち、おいで。膝枕でやってあげる」


「ソファーに座ったまんまだと、ちょっと勝手が違うけど……床に座ってやるわけにもいかないよね」


//SE:膝に頭を乗せる音

//声、右から聞こえる形で


「うんうん、けっこういい眺めかも」


「弟くんのことを見下ろしてると、おっきくなった弟くんも、私の弟くんって感じがしていいなー。自分がお姉ちゃんだなーって、ちょっと満たされるかも」


「じゃ、始めていこっか。いくよー? せーの、えーい」


//SE:耳かき音、右側から、ここから


「かりかり……かりかり……わ、けっこう溜まってるねえ。ちゃんと自分の時間、とれてる? 休めてる?」


「ほれほれー、ここが気持ちいいのかなー。ここがいいのかなー? かりかり、かりかり……」


「うーん、気持ちよさそうだねえ。かっこいい弟くんが見る陰もないや」


「耳かきされて、こんなふうにとろとろになっちゃうだなんて。せっかくかっこよくなったのに、台無しだなー。他の子が見ちゃったら、きっと幻滅しちゃうよ」


「だから……私以外には見せたらだめだからね。わかった?」


「うん。わかったならよろしい」


「かりかり、かりかり……かりかりっと」


//SE:耳かき音、ここまで


「よし、こんなところかな。反対側、していこっか。ごろーんして、向き、変えてね」


//声、左から聞こえる形に


「じゃ、左側からも、やっていくよー」


//SE:耳かき音、左から、ここから


「わー、こっちもたまってるねー。もう、弟くんは、大きくなってもお姉ちゃんがいないとだめだめなのかなー?」


「仕方ないなあ。仕方ない仕方ない」


「仕方ないけどさ……ずっとは、一緒にいてあげられないんだから。もう少しくらい、ちゃんとしたほうがいいと思うな」


「……それで、さ。弟くんは返事、決められた? 私をこれから、どうするつもりなのか」


「……いまから言うのは、ひとりごとだからね」


「弟くんには、どうしたいか決めてって言ったけど……私はね、どんな形になっても弟くんと一緒にいたい」


「でもね、弟くんの重荷にはなりたくないのも、本当なんだ」


「いまはまだ、一人じゃうまく眠れないけど……それも、いつかは元通りになるだろうし」


「それに、弟くんが独り立ちするのを見届けるのも、お姉ちゃんとしての役目だと思うし。そりゃあ、もしそうなったら寂しいけどさ」


「……だからね、一緒にいたいっていうのは、これはお姉ちゃんとしてじゃない……ただの私のわがまま」


「はい。ひとりごとは、これで終了です……じゃあ、弟くん。そろそろ、聞かせてくれる?」


「弟くんが欲しいのは……ただの、お姉ちゃんとしての私? それとも、恋人とか……そういう、大事な人って意味での私?」


//SE:耳かき音、ここまで


「……どっちも違うの? もしかして、どっちの私も欲しい、とか?」


「そうなんだ。そっかあ」


「もう、わがままな弟くんだなあ。仕方ない弟くんだ。こんなに大きくなったのに、お姉ちゃん離れできないだなんて、まだまだお子様だね」


「でも、わがままな弟くんのお願いを聞いてあげるのも、お姉ちゃんとしての役目かな」


「お姉ちゃんで、恋人。それでいいよ……ううん、それがいいや」


「それじゃあ……改めまして。これから、よろしくね」


「……そうだ、忘れてた。弟くん。ちょっと起き上がって。あ、顔は私とは反対側を向くように」


//SE:起き上がる音

//声、正面から


「そうそう。それで、私に背中を預ける形でここに座ってみて?」


「昔は指で耳かきしてあげたなーって思い出してさ。弟くんも、いつも気持ちよさそうな顔してたじゃん。せっかくだし、やってあげる」


//SE:座る音

//声、後ろから


「小指、入れていくよー。危ないから、動かないでね」


「さん、にー、いち、それーっ」


//SE:両耳から、指を入れられる音


「ふふふ、同時とは思わなかったでしょ。じゃ、動かしていくからねー」


//SE:指耳かき音、ここから


「ぐりぐり……ぐりぐり……どう? 顔、見えないけど、大丈夫?」


「気持ちいい? それなら、どんどんやっていくねー、ぐーりぐーり」


「流石に汚れでいっぱいのお耳にはちょっとやだけど、耳かきのあとなら、してもいいかな」


「それにしても、弟くんは本当に私にされるがままだよねぇ……なにか嫌なこととかあったら、ちゃんと言ってよ? 我慢されて嫌われちゃっても、困っちゃうから」


「逆に、して欲しいこととかもあったら、言ってよね」


「とりあえず……弟くんも、私にもっともたれかかっても、いいんだよ。せっかく癒やされてるのに、背筋を張るのも、大変でしょ?」


「ぐーりぐーり」


//SE:指耳かき音、ここまで


「うん。こんなとこかな。指の耳かきはおしまい」


「……だけど、もうちょっと、そのままでいてね?」


//声、右後ろの近くから聞こえる形で


「ぎゅーっ」


「捕まえたーっ、もう逃がさないぞーっ……なんて、言ってみたり」


「実はね、ずっと、こうしたかったんだ。ずっと……弟くんのこと、抱きしめてあげたかった」


「でも、弟くんが私の知ってる弟くんじゃなくて……だからちょっとだけ、時間、かかっちゃった」


「弟くんは、どんなに違くても弟くんなんだから、もっと早くしてやっておけばよかったのにね」


//声、左後ろの近くから聞こえる形で


「弟くんが大変だったときに、側にいられなかったってこと……お姉ちゃん失格だなって、ちょっと自分にがっかりしてたの」


「……そんな私でも、弟くんは必要としてくれるんだよね」


「それが、嬉しい」


「ねえ、弟くん。私ばっかりお願いする形になっちゃうけど……今日も、一緒に眠っていい?」


「今日も、っていうよりは……しばらくは、具体的には、私が満足するまで」


「別に、それでもいいよね? だって私、お姉ちゃんで恋人なんだから」

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