5.姉弟の添い寝

//SE:ドアのノック音

//SE:ドアの開く音

//声、少し小声で


「失礼しまーす」


//声、普通のものに


「あ、弟くん? まだ、起きてた?」


「ならよかった。あのね、その……眠れなくて、弟くんのお部屋に来ちゃった」


「少しでいいからさ、一緒にいても、いいかな?」


「……それじゃあ、お隣、失礼するね。弟くんも、私に気にせず、横になってていいから」


//SE:ベッドの隣に潜り込む音

//声、正面から聞こえる形で継続


「うーん。おふとん、柔らかくてふわふわだよねぇ」


「あ、それで眠れなかったってわけじゃないよ。寝間着に用意してくれた服も、とっても着心地よくて……用意してくれたベッドも大きくって」


「なんだか、自分がお姫様になったみたい。って……それは流石に言い過ぎなのかな。えへへ」


「ちなみに、もし弟くんが起きてなかったら……そのときはこっそり入っちゃおうかと思ってたんだ。我ながら、ちょっと子供っぽいかな」


「けどさ、いいでしょ? 弟くんがここに連れてきたんだから、私のこと、ちゃんと見てくれないと」


「それにしても、なんだか楽しいかも。昔も、おんなじおふとんで二人で寝たこと、あるよね」


「雷がごろごろーって鳴ってた夜中に、目が覚めちゃった弟くんがこわいよーって私のとこに入って来て。あやしてたら、すぐに寝ちゃったよね」


「本当はね、私もあのとき、ちょっと怖かったんだ。でもね、おふとんに入ってきた弟くんがあったかくて、私もすぐに眠れたんだよ」


//静かな声で


「……ねえ、弟くん。手、貰して?」


//SE:手に触れる音


「弟くんの手、あったかいな。あったくて、安心する手だ」


//SE:手を撫でる音


「私ね……凍っていた間、夢を見ていたの」


「ずっとかは、わからないけど。寒くて、冷たい場所に一人きり。そんな夢を見てた」


「いまはもう、そんな夢を見ることもなくなったよ。ただ、気がついたらまた私、一人なんじゃないかって……そんなふうに、怖くなっちゃって」


「だから一人でいるのも、一人で眠るのも、怖いんだ」


「でも、弟くんがいてくれるなら……私、大丈夫だと思う」


「弟くんにとっては迷惑かもだけど……あと少しだけこうしていさせて?」


「……うん、ありがと」


「弟くんは、大きくなったね」


「大きくなって、かっこよくなって、優しくて……素敵な男の子になった」


「弟くんは、私が知ってる弟くんだけど……それでももう、私のことが必要な弟くんじゃ、ないんだよね」


//声色、少し固いものに


「あのね、弟くんからは言いにくいのかもしれないから、私から言うよ」


「弟くんがこんな風に私の面倒を見てくれるのは……理由があるから、だよね」


「弟くんも……彼女さんとか、もしくはお嫁さんとかも、いるんでしょ? こんな素敵な人になったんだから、いないわけ、ないよね」


「私を迎えに来てくれたのは……私が、お姉ちゃんだから? それとも、領主様みたいに……お妾さんにしようと思ったから?」


「聞くのは怖いけど……弟くんが決めたことなら、私、受け入れるから。だから、教えて?」


//七秒程度の沈黙


「……あの、私、けっこう勇気出して聞いたつもりなんだけど。何も答えてくれないのは、よくないと思う。そんな、よくわかんない、みたいな顔してさ」


「それとも……全然見当外れなこと、私、言ってたりする?」


「……もしかして、本当に、関係ないの? え、ただ、私に会いたかっただけ……?」


「わ、わー、恥ずかしー」


「じゃあ、弟くんは本当に、私を迎えに来てくれただけなんだ。そっか、そうなんだ……」


「そうならそうと、ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよ。もう」


//優しい感じの声色で


「……でもさ、私の言ったこと、わかるよね? なんにも決めないではいられない。いつかは、一緒にはいられなくなる」


「だから、これからどうして欲しいのか、ちゃんと決めて欲しいな。私のこと、お姉ちゃんのままでいて欲しいのか……それとも、別の形がいいのか」


//冗談めかしたような、明るい声色で


「それに、これは私にとっても大事なことなんだよ。一度私の身になって、よく考えてみてよ」


「悪い魔術師に凍らされていたところを、助けてくれた人。その子は自分が知ってるよりもかっこよくなって、大きくなって、立派なお屋敷まで用意してくれて……それで、私のことを一番に迎えに来てくれた」


「君は……そんなおとぎ話の王子様みたいな、理想の男の子なんだよ。気づいてなかった?」


「このままじゃ私、男の子に対してのハードルが上がりすぎて、結婚できなくなっちゃうよ。まったくもう」


「ということで、明日までに決めておくように。それまでは、私達はただの姉弟ということで」


「……明日までって区切るのも、ちゃんと理由はあるよ。だって、こんな生活続けてたら、私、元の生活に戻れなくなっちゃうよ」


「それとも、弟くんは私をだめ人間にしたいのかな? まあ、私はそれでもいいけどね」


「じゃ、そういうことで」


「ふぁあ……そろそろ、眠くなってきたかも。このまま、弟くんの部屋で寝てもいいよね? 勿論、弟くんの手は、借りっぱなしのままで」


「これなら私、よく眠れると思うから」


「……おやすみなさい、弟くん」


//寝息

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