2.館のテラス、彼女の相談
//SE:鳥の鳴き声
//SE:茶器が皿に当たる音
//SE:紅茶を飲む音
//声、正面から
「あ、この紅茶、あったかくておいしい」
「……もう、あんまり見ないでよ。紅茶の飲み方くらい、私だってわかるもん。淑女としていざという時に問題の無いよう、村の女の子の間でこういう情報はきちんと共有してるの」
「そのときは、弟くんとこんなにひろーいテラスでまったり紅茶を飲む日が来るなんて、考えてもなかったけど」
「弟くんも、紅茶を飲む姿、結構さまになってるね。私は……飲み方、間違ってないよね? ……ない? それならいいんだけど」
「でも、今日はおどろき尽くめだなあ。弟くんが、まさか町中の、こんなお屋敷に住んでるなんて。大出世だ」
「さっき見せて貰ったけど、沢山部屋があって、使用人さんまでいるお屋敷で、広いお庭もついていて……豪邸、ってやつだね」
「前に、一度だけ行った領主さまのお家と同じか……もしかしたら、それより大きいかも」
「……あれ、弟くんには、言ってなかったっけ? そうだよ、私、一度こういうお家に行ったことがあるのでした。なのでこういうの、初めてじゃないんだ。びっくりさせられなくて、残念でした」
「そうだね、行ったのは十五歳の、成人のお祭りのときだよ。町に行ったとき、お呼ばれしたんだ。結婚……というよりは、お妾さんにならないかって言われただけなんだけどね」
「お返事……? もちろん、受けたよ。というか、いち村娘の私が、領主さまのお話を断れるわけないじゃない」
「たださ、そのときにはお父さんとお母さんが死んじゃってたでしょ。だからね、弟くんがあと少しだけ大きくなるまで待ってくださいーってお願いして。そしたらいいよって言ってくれたんだ」
「もう十年経ってるなら、そのお話もお流れなのかなー」
「ま、その話は別にいっか。それよりも、聞きたいんだけど……弟くんは私に何かして欲しいこと、ある?」
「お料理とか……お洗濯とか。私、なんでもするよ。そういうの、全然好きだし」
「……ふーん。そっか、使用人さん達がいるから、大丈夫なんだ。そうだよね。他の人のお仕事をとっちゃうのも、よくないよね」
「それだと私のお仕事もないけど……弟くんは、私がここにいるだけで、それでいいんだ」
「んふふ……ちょっと変な気分」
「弟くんのこと、私が甘やかすのはいいけどさ。甘やかされるのは、ちょっと慣れていないかも。でも、遠慮するのも、よくないよね」
「じゃあさ、ひとつお願いがあるんだ。笑ったり、しないでよ?」
「……お風呂に、一緒に入って欲しいの」
「あのね、これにはちゃんと理由があるんだよ。弟くんのおうちには、シャワー? とか、シャンプー? とか、色々あるみたいじゃない。弟くんは当然、みたいな顔して言ってるけど、私、使い方、わかんないよ」
「たまにお父さん達がお土産で石鹸とか、買ってきてくれることもあったけど……いつもは塩とか、炭とか……そういうので洗ってるの。弟君、もしかして都会暮らしが長くて忘れちゃった?」
「弟くんは、メイドさんたちと一緒に入ればいい、っていうかもしれないけど、知らない人と一緒に入るのも、ちょっと嫌だし……だったら、弟くんにお任せすれば、解決じゃない?」
「それに……姉弟でお風呂に入るのは、ふつーのこと、でしょ?」
「ね、弟くん……だめ?」
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