10年間氷漬けになっていたお姉ちゃんは、あなたから離れられない
大宮コウ
1.馬車の中、二人の再会
//SE:中から聞こえる馬車の音
//声、正面から
「うーん、うーん……」
「やっぱり……本当に君が弟くん、なんだよね?」
「確かに……よく見れば、面影はあるかも」
「いや、兵隊さんたちに話は聞いたから、いちおう理解はしてるよ?」
「私たちの村に悪い魔術師さんが来て、村の人たちみんな氷漬けにしちゃって……」
「そこから、弟くんが悪い魔術師を倒して。おかげで氷は溶けたけど、その間に十年も経っちゃったーって」
「話だけならちょっと信じられないけど、私達のお家とか、畑とか、すっごく荒れちゃってるのを見たら……信じるしかないよね」
「流石に受け入れるのには今日まで丸々一週間かかっちゃったけどさ」
「まあ……一番びっくりしたことといえば、いまの弟くんだよねぇ」
「村に村長さんたちみんなはいるのに、弟くんだけいなくって……そしたら、別人みたいに大きくなって、私の前に現れたんだもん」
「兵隊さんと村長さんたちがこれからどうするかーって話している横で、いきなり弟くんが私のことを迎えに来たー、だなんて言って出てきて」
「びっくりしてる間に、いまでは大きな馬車で攫われちゃってるわけで」
「もう、なにがなんだかーって感じだよ」
「だって私からしたら、こーんなに小さかった弟くんが、ちょっとだけ目を離した間に大きくなっちゃってる、ってことなんだよ? そりゃあびっくりだよ」
「いまだって、心から信じられているか、っていったら正直……微妙かな?」
「ほら、弟くんだって、ある日私がいなくなって、代わりによぼよぼのおばあちゃんが現れて『私は君のお姉ちゃんじゃ』って言ってきたら、びっくりするでしょう? それと一緒だよ」
「や、弟くんはかっこよく成長したみたいだし、たとえ話としてはちょっと違うのかな」
「あーあ、私の知らない間に、弟くんは大きくなっちゃったんだねえ。ちょっと残念かも。こーんなにかっこよくなるなら、私好みの男の子に育てたかったなー」
「なんて、冗談、冗談だよー。私達、
「弟くんのご両親が死んじゃって、私のお父さんたちが君を引き取るーって決めて。そのとき、君はまだ子供だったけどさ、私も……ちゃんとお姉ちゃんになってみせるぞーって決めたんだよ」
「いまは私のお父さんとお母さんもいなくなっちゃって……たった二人の、家族、なんだよね」
「ね、頭、こっちに向けて? ……早く。これはお姉ちゃん命令です」
//SE:頭を撫でる音、ここから
//声、近距離に
「よしよし、えらいえらい」
「私がいない間に、一人で立派に成長して、すごいや。ちゃんと大きくなって、えらいえらい」
「弟くんは、かっこよくて、素敵な人になったね」
//SE:頭を撫でる音、ここまで
「……あ、撫でられて嫌だったりしない? そういえば、十年も経ってるなら……私よりも、年上なんだよね。つい、いつもみたいにしちゃったけど……」
「……いいんだ。むしろ好き? ……ふふ。こんなに大きくなっても、弟くんは弟くんなんだね」
「君が弟くんなんだなーって実感、ようやく湧いてきたかも。なんだか、安心しちゃったぁ」
「うん、別にいいんだよ。私にいっぱい甘えてくれても。私にとっては一週間ぶりだけど、弟くんにとっては、十年ぶり、だもんね。これまで甘えさせてあげられなかったぶん、たっぷり甘やかしてあげる」
「それに……馬車の中には私と弟くんしかいないんだから。気にする必要もないでしょう? むしろ弟くんが嫌って言うまで、甘やかしちゃうかも」
//SE:頭を撫でる音、ここから
「よしよし。よしよーし。えらいえらい」
「ちゃんと生きててえらいね。一人で、こんなに立派になって、お姉ちゃんも嬉しいな」
「立派になって……それで、お姉ちゃんの所に来てくれて。家族思いな子に育ってくれて、えらいえらい」
「……よし。お姉ちゃんパワーは補給完了しました。ちなみにお姉ちゃんパワーは、弟くんを甘やかすことで補充されるのです」
「続きは、また弟くんのお家にお邪魔してからで」
「とりあえず……私から言いたいのは、一つだけ」
「弟くんがおっきくなっても、私は弟くんのお姉ちゃんだから。ね?」
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