第4話: プロポーズ大作戦


「俺はプラント・ルパートです。」


 そう自己紹介して、ギルド&カフェ看板メニュー“ホットハーブ”を啜る。

あっこのお茶、適度に甘みと苦みがあって美味しいな。

 程々にお茶を楽しんだ後、目で彼女の自己紹介を促す。


「えっと……私はネグレリアです。」


 俯きがちに座る美少女は、恐る恐ると言った雰囲気で名乗る。

ふむ。所々宝石の散りばめられた服を見るにお嬢様っぽい。

 ふむ、状況を見るに、家出といったあたりか?


「じゃあネグレリア、君は何を悩んでいたんだ?」

「えっと……………………その私」


 ネグレリアは数秒沈黙を保つ。

やがて意を決したように顔を上げ、言葉を接ぐ。。


「その……【魔女】なんです。」



 嗚呼、そう言う事か。

疑問が氷解し、思わず手を叩く。


“魔女”


 本作における“最凶”と名高い種族である。

終盤に、魔王の配下として集団で登場する敵側のNPC。


 彼女らは“呪魔術じゅまじゅつ”という集団魔術を使用する。

この魔術は、自分の魂を贄に永続デバフを掛けるというものである。


 故に対策を怠ったプレイヤーは、“永続 全ステ 1” というどこぞの超高難度くそげーと化す。


 因みに呪魔術は、【 神薬エリクサー】という超超超超レアな薬、また“賢者”と呼ばれる種族の禱魔術じゅまじゅつと呼ばれるもので解除可能である。


 まぁそんな訳で、作中で魔女は超嫌われキャラなのである。

もうそれは凄まじく嫌われている。


 ネットの大型掲示板では“魔女狩り”と呼ばれる、既に消去された伝説のスレッドが

存在し、そこでは魔女に対する果てしない罵詈雑言の数々が書かれていたという。


 更には魔女にやられた配信者のうち、激しい台パンの末、怒りの余り自分のヘッドギアをハンマーで叩き壊した人物もいるほどである。



 これだけで、その嫌われっぷりを理解して貰えるだろうが、この“魔女”他のNPCにも凄まじく嫌われているのである。



 NPCは基本、温厚で殆ど怒る事はない筈であるが、“魔女”に対してだけは異様なまでの怨嗟を垣間見せるシーンが存在する。


 例えば、そこらのNPCに魔女の話を振ると大抵が苦い顔もしくは怒り出す。

現剣聖ぱぱも魔女には苦い思いがあるのか、そっちの話を振ると激しく切れるという非常に珍しいシーンが体験出来たりする。



 まとめると、魔女は超嫌われキャラなのである。

だが、基本こんな場所にいない筈だが……。


「……………………」

「あの……本当にお茶美味しかったです。ありがとうございました。」


 長考する俺に何か勘違いしてしまったのか、ネグレリアはその瞳に大粒の涙を溜め

俺に背を向けて歩き出す。

 その肩は激しく揺れている。


「そのちょっと待ってくれ!!!」


 軽く小走り気味にギルド&カフェを出ようとする彼女を大声で呼び止める。


その声に吸い寄せられる様に多くの視線が向けられる。

 先程までどんちゃん騒ぎだった場所が嘘の様な静かさである。


――あの、今だけは見ないでください。


 晒される視線の数々に不満を漏らしそうになりながらも、背を向けたまま立ち止まったままこちらを見ない彼女に言う。


「ネグレリア…………俺のパートナーになってくれ。」


「…………ふぇ?」


 不意を突かれた様にこちらを見るネグレリア。

その顔は、涙と驚愕の色に染まっていた。


 “魔女”?“嫌われ者”?違うだろ。

彼女は礼儀正しい只の美しい女の子だろうが。


「一目見て超可愛いと思った、その綺麗な銀髪も、ルビーの様な美しい瞳も、その傷一つない美しい白い肌も、全部全部ストライク過ぎる。礼儀正しいし、もう最強に可愛い過ぎる」


 素直に思った事を伝える。

どストライクなのは本当だし、言った言葉に偽り等ない……だから


「だからネグレリア……俺のパートナーになってくれ。」


 今に泣きそうな彼女へ手のひらを差し出す。

頼む……掴んでくれ。


「だけど……私【魔女】なんですよ。」


「嗚呼知ってる、それ含めて好きなんだから仕方ないだろ。」


“呪魔術”?“全ステ1”?

ドMでこのプラント・ルパートを選ぶ俺からすれば大した事じゃない。


「私達さっき会ったんですよ……」


「嗚呼知ってる、もう運命を超感じた、この人が猛烈に好きだってね!」


「私、貴方そんなにタイプじゃないです。」


「う……大丈夫、俺を好きにさせて見せるさ。」


 コイツ……結構強かになって来やがった。

少しだけネグレリアに笑みが戻って来た、泣き顔が笑い顔へと変わる。

 その顔はまるで“超大馬鹿者”を見るように。


「あ~あ、そんな好きじゃない人に好かれちゃったなぁ」


「大丈夫!俺がお前が好きじゃない分、超大好きだからだから!」


 周りの視線も気にせず、ヤケクソになって思いをぶちまける。

くそ、滅茶苦茶恥ずかしい……。


「最後のチャンスですよ……本当に私で良いですか?」


「ネグレリアで良い、いやネグレリアじゃないと駄目だ。もう他なんていない。」


 彼女の美しい瞳を見つめて話す。

嘘も偽りもなく只々真剣な顔で彼女を見る。

 野次馬達は何も発さない。くそーマジでこの空気恥ずかし過ぎる。


「ふふふ、絶対に幸せにして下さいね。」


 そう彼女は笑って、俺の差し出した手を両手で掴む。

 まるで絶対に放すまいと言うかの様に。

その顔はまるで出会ったときとは別人、小悪魔の様だ。

 

「あ……」


 一世一代の告白の成功による安堵から、思わず膝をつく。

はぁ本当に良かったー。


 これで貴方が好きじゃないです、さよなら。

とかだったらマジでダサすぎる。

 本当にそうなん無くて良かったー。


「「「「「「「おめでとう!!!!!!」」」」」」」


 今まで静観を決め込んでいた連中が一気に騒ぎ出す。

くそ……お前らのせいで滅茶苦茶恥ずかしかったんだぞ。


「坊主、マジかっこよかったぜ。嬢ちゃんとお幸せにな」


 そういって肩をバンバン叩いてくるマッチョなオジサン。

ちょっと俺貧弱なんだって。あ……痛い痛いヤメテ。


「ハーブティーのおかわりをどうぞ、勿論お代は頂きませんよ☆」


 受付のお兄さんがウィンクして、ハーブティーを俺らに出してくれる。

少し休む為、、ハーブティーを少し啜る


 嗚呼、やっぱこれ……美味しい


「いただき!」

「あっ、ネグレリアのはあっちにあるじゃん」


 プラナリアが俺の置いたハーブティーをしたり顔ですする。

その顔は薄く笑っている。

 やがて、俺のハーブティーを全部飲んだ彼女は口を左耳によせ、


「……間接キス……しちゃいましたね♡」


 と囁く。

ヤバい……

 俺は魔女じゃなくて子悪魔をパートナーにしてしまった様だ。



◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 ハーブティーを飲み終わった後、俺達は始まりの森の近くにいた。

金欠な為、野宿で一晩を明かさないといけない為である。


 最初、受付お兄さんが、

「お代はいらないですよ今日はめでたい日なので」

と言ってお金を返してくれたのだけど。

 流石に一杯おかわりさせて貰ったので、それは突き返しておいた。


 落ちてる薪で火を付けて二人で暖を取る。

時間にしてもう深夜といった所だろうか。


「星ってこんなに綺麗だったんだなぁ」

「えぇ、本当に。私も今日ほど綺麗な星を見た事が無いです。」


 空に浮かぶ、満天の星の数々。

そう言えば、現実で殆ど星を見た事が無かった。

 

 仕事とゲームに日々を費やし、こんな自然が美しいなんて感じる事なんて無かった。

 何故ゲームと見える光景が全然違うんだろう?


――リアルを現実にしてみないか?


 ふと“管理者ゲームマスター”の言葉を思い出す。


 最初は、現実に希望が無かったから、ゲームを現実にしたくて。

あそこへと何かを変えたくて、変わって欲しくて訪れた。


 だけど違ったのかもしれない。


 ゲームより美しい現実も存在するのかもしれない。


「あっプラント君、流れ星ですよ。二人で願いましょう。」

「ははは、そうだな。」


 上空では、美しきカクタスグリーンの流れ星がこの星を周る様に流れていた。

ははは、そうだなぁ願い事は……


「お願いします……よし、プラント君願いました。」

「嗚呼、俺も願ったよ。」


 本当に楽しそうに笑うネグレリア。

その顔は眩しい位に美しい。

 正直、今でもパートナーという現実感はない。


「“私はプラント君がもっと私を好きになりますように”って願いました。」


 自分で言っといて頬が真っ赤なネグレリア。

そして、多分俺の頬も真っ赤に違いない。


「俺も同じ様なことを願ったよ。」

「もう……私を好きすぎるんですから」


 ごめんなネグレリア。

俺、実は違う事を願ったんだ。

 それは、“またいつか”


 いつか別れの日は来る。

彼女を魔王に合わせたらどうなるか分からない。

だから、絶対にいつかは別れる事になるだろう。


 だけど、もう少し幸せでいさせて下さい。

この時間をもう少しだけ。


 魔王はいつか現れる。それを倒さないと彼女は……

だから、全力で高速で討伐しないと。



――嗚呼、今日は良い日だった。……いや、少しだけ泣きそうな日だ。



『異世界魔王討伐RTA』

――――――――――――

 

見てくださりありがとうございます。m(_ _*)m

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