第2話: 超超超最高な展開(改)


「――――全て思い出した。」


 16歳の鑑定の儀、俺の秘めたる可能性が公になったその直後。


俺は全てを思い出した。

 俺が“アルカナ王国の勇者”を狂うまでプレイしたこと。

 そして、人類唯一の功績を残したこと。

 そして、この世界を求めて殺されたこと。

 

――そして、


「プラント……残念だ……その荷を持って出ていくといい。」


俺が転生した『プラント・ルパート』というキャラがこの世界で最も不遇かつ最弱と言われたNPCである事を。



◇  ◆  ◇  ◆  ◇



  『プラント・ルパート』というキャラはゲーム上にプログラムされたNPCの内、最弱としてその名を轟かせるキャラである。


 彼は主に序盤のチュートリアルにおける噛ませ役として登場する。


初回クエストで彼の父である剣聖『オルク・ルパート』に教えを乞うというものがあるのだが、度重なる悪行により、親から廃嫡された彼は、父である剣聖と仲良くした事に何故か逆ギレし、襲い掛かってくるのである。


 だが、プレイヤーがこの勝負に負ける事は無い。何故ならこれは100%勝てるように設定された勝負所謂“勝ちイベント”という奴である為である。


 基本パンチ一発で白目を剥いて気絶する挙句、攻撃せずに棒立ちしててもダメージを受けないという、逆に負ける事がほぼ不可能なイベントである程だ。


 ほぼというのはネット上に一人猛者がいた為である。

 基本彼の攻撃は0設定なのだが、0.02%の確率で会心の一撃を繰り出し、更にそれが高乱数であった場合のみに限り1ダメージをプレイヤーが受ける事が出来るという事を発見し、最初のプレイヤーHP21を削りきるまで、ずっと攻撃を受け続けて遂に負けた変態がいるのである。


 その名は通称“菩薩さん”その名の如く現在では広く崇められている人物である。


 ちなみに、菩薩さんが動画を投稿した事で遂に明かされた『プラント・ルパート』の勝ち台詞「お前……変態だろ」は余りにも有名である。


 

 まぁそんな訳で、“プラント・ルパート”はこの世界で最弱といって差し支えない。

大型アップデートにより、このキャラも実は操作可能であったが、こんなドMキャラを使う人、


 そう、実は俺はこのキャラが大好きな生粋のマゾなのである。

強いキャラで無双するのも楽しいが、俺は知識や検証の限りを尽くして不可能を突破するのが大好きなのである。


――即ち、


「俺にとって超超超最高な展開じゃん。」


「お前は何を言っているのだ?さっさと立ち去るが良い。」


 剣聖であるパパから軽蔑と呆れの視線を向けられる。

そう言えば、俺って剣聖に嫌われているんだった。

やべ、一度謝っとこう。闇討ちとか怖いし。


「今まで、申し訳ございませんでしたお父様!大変永らくお世話になりました。このご恩プラント絶対に忘れません!」


 貴族らしく左手を胸に叩きつけ、丁寧に腰を折る。

たっぷりとゆっくり時間を掛け頭を上げ、何故か目を見開き口を大きく開けるパパに背を向け、荷を持って優雅に歩き出す。


さて、何から始めようか?これからが楽しみで仕方がない。

 


◇  ◆  ◇  ◆  ◇



「取り敢えず、今必要なのがお金と力と飯だな。」


 パパの豪邸から数km離れた森、通商“始まりの森”の入り口付近で腰を掛ける。

現在“財力”、“単純な強さ”どっちもほぼ皆無といっていいだろう。


 幾らかのお金はパパの荷に入っているとはいえ、恐らくそう長くは持たないだろう。


「貧乏で空腹の弱者、これが俺の現状といったところか」


 復唱してみるが中々に酷い有様である。

まぁ状況を打開するために、ここ“始まりの森”に来たのだが。

 

 始まりの森、初心者誰もが通る、最初の最弱ダンジョンである。


ここは、スライムしか出現せず初めてのモンスター狩りをプレイヤーが体験する場となる。

 基本負けることは無いが、調子に乗って回復を怠ると群れスライムの遭遇率が上昇し、やられやすくなるという罠付きで俺も何回かやられた事があったりする。


「さてと、んじゃ始めますかね。」


 ご丁寧なスライムの注意喚起の立て看板を横目に、森の奥へと入っていく。


森は綺麗な木漏れ日が指しており、葉が風邪でさぁと揺れる音に癒される。

流石ネイチャーパワー。心が浄化される様だ。


「ピピ、ペピ!」


「おっ、紫スライムだ珍しい。」


 ガサゴソと草を搔き分け、紫色のスライムがその姿を現す。


因みにスライムはレアリティというものが存在し、このレアリティは色で区別されている。

 この色は順に

 金≫≫銀≫黒>白≫茶>桃=紫>灰=緑=橙>黄=赤>青

この様になっている。

 基本は高難易度のダンジョン等に行くほど右の生物が出やすくなるが、このダンジョンにおいても金は0.0001%の確率で銀は0.001%の確率で出現はする。因みに紫色スライムの確率も1%とかなりレアな方である。


「ぴぎぃ。ぴぺ」 


スライムは俺を見つめると、気にせず毛繕いを始めた。

 毛繕いって何だよって思ったそこの君、いや誰かがスライムが震える姿を毛繕いって言いだしたらなんかめっちゃ流行ったんだよ。


 ダカラ俺、ワルクナイ、アレ、ケヅクロイOK?


 それにしてもめっちゃ可愛いな。

基本このゲームにおけるモンスターは愛らしいグラフィックをしている。


 稀に、ゲームが違うくらい気持ち悪いモンスターもいたりするが、基本は愛らしい見た目をしているモンスターばかりである。


「さて、始めるか。」


 運よく絶好の魔物の遭遇したので、準備してきたものを広げる。


 はい、プラントさんの三分クッキングの時間が本日もやって来ました。

いえーい!ぱちぱち。

 という事で本日必要なものは二点となっております。


 1点目、“剣聖のパパから貰った荷を入れていたトランク”

 2点目、“さっき肉屋で買った干し肉、数点”


準備は非常に簡単で、お忙しい主婦さんへも優しいレシピとなっております。


①トランクを開けましょう。

②干し肉をトランクに入れましょう。

③モンスタートラップの完成です! 


 後はスライムがトランクに入ってくるのを待つだけ。

入ったらトランクを閉め、捕獲完了です。

 ギルドにいって高値で売りさばきましょう。


「我ながらなんて完璧な作戦過ぎたぜ。」


見事、紫スライムはトランク中でお肉を堪能している事だろう。

ハハハ、紫色スライム売りさばいたら金貨2枚は下らないぜ。


「さ、ギルドに行こう……ん?」


 帰ろうと歩みを進めた時、メタリックな銀色のスライムが飛び出してくる。

そのメタリックスライムは、俺と目が合うと全力で逃げ出した。


「……いや、チョットてめえぇぇぇまちやがれぇぇぇ!!!!!」


 全速力で追いかける。

ははは、楽しい楽しくて仕方がない。

 この感じ、この感覚……嗚呼この世界マジ最高。


――今日は長くなりそうだ。



 

―――――――――――


見てくださりありがとうございます。m(_ _*)m

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