異世界 魔王討伐 RTA

ラグナ・ムアの瑶光

第一章: 大好きな君のために

第1話: しゃぁぁぁぁ!!!!……あれ、俺死んだ?(改)


「しゃぁぁぁぁ!!!!遂に1002時間でクリア達成だぁぁぁ」


 遂に叩き出した世界記録に思わずゲーミングチェアから立ち上がる。

眼前のパソコンでは“Congratulation!おめでとう!”の文字に快楽物質が止まらない。これだからゲームは最高だぜ!



“アルカナ勇者の伝説”



 全世界総DL数約4億回の伝説的VRMMORPG。

美しいグラフィックに滑らかな動作、リアルな質感と従来では不可能と言われた技術の数々で他のゲームを置き圧倒的伝説となった正に激アツな神ゲー。



 俺、“星月夜”はこのゲームにそれは嵌りに嵌った。



 仕事を退職し、無職になって、食糧を買い溜め、トイレや睡眠などの本能的欲求を除けばほぼ24時間ずっとずっとプレイし続けた。



 “頂点”その言葉を求めて。



 体調が悪い日も、頭が痛い日も、腹が空いてしょうがない日さえも。

ネットから情報を収集し、検証を重ね、病魔を耐え抜き、努力に努力を重ねた。


 そして、𝑆𝐸𝐴𝑆𝑂𝑁 𝟙𝟟の超高難易度魔王、『王たる厄災』の単独撃破に成功した。

世界中の誰よりも早く、誰よりも厳しいと言われた条件で。


「ハハハ、最高ッに気分が良い!!!正に神になった気分だ!!!」


 ネットにアップロードした動画は投稿数分でもう、数十万再生されていた。

コメント欄を意気揚々と眺めてみると。


「変態すぎるだろ……ヤバ。」

「おめでとうございます!主さん本当凄すぎます!」

「動きが滑らか過ぎ!!!キモいw」

「クソぉぉおおx負けたぁっぁあぁ。」

「早すぎ、TASさんかよ。人間じゃねぇよ」


 ハハハ、恐れ跪くがいい。これが世界トップの実力というものよ。

にやけ顔で、コメントをスクロールしていく。


 どれもこれも俺を絶賛するものばかり。

更新するごとに爆速に増えていく再生回数のなんと気持ちの良い事か!



「ハハハ、今日は出前の寿司でお祝いでもするかな。」



 大好物である、寿司の出前を取るために、スマホを取る。



「うん?“管理者”って誰だ?」



 大型メールアプリである、Linaから通知が届いていた。

宛名は“管理者ゲームマスター”とある。

 そこには

 

『こんにちは、星月夜君。まずは、𝑆𝐸𝐴𝑆𝑂𝑁 𝟙𝟟のクリアおめでとう。

 いやぁ開発者 ある私も驚いたよ、まさか千時間程度でクリアされるなんてね。


 さて、君に一つ提案だ。

 このリアルを現実にしたくないかい?

  興味あるなら下記の場所に訪れるといい。

 良い返答を期待しているよ。        』



そのメールはこの様な文と共に、一つの地図が添付されていた。


“管理者”でネット上で検索を掛けても何も見つからない。

普通はまぁ気味悪くて無視一択だろうけど。


―――このリアルを現実にしたくないかい?


「………………はあ」



◇  ◆  ◇  ◆  ◇




「うわ、マジで臭い、鼻がひん曲がりそうだ。」


鼠のフンと、汚水が混じったような匂いに思わず鼻をつまむ。

 地図に従って、東京の辺境へと訪れたのだが、そこは何もなかった。

ポツンと小さな小屋が佇んでいるとはいえ、本当にあれなのか?


「あのー、星月夜です。誰かいませんかー」


 小屋の古びたドアをノックし、一応人がいるかを確認。

うわ、ドアノブが取れた。やべ、どうしよう。


「――――どうぞ。」


 ドアノブをどうにか戻そうと、あたふたしていると、小屋の奥から、嗄れ声。

ドアノブについて謝罪しようと、小屋の奥へと進んでいく。


 小屋はアンティーク多めで、小さな雑貨屋的な雰囲気に近い。


「ようこそ、おいでくれた。」


 小屋の一番奥、茶を啜って待ち構えていたのは。

一人の翁。即ちお爺さん。

 

「あの、これ本当にスイマセン。その明日また来て弁償するので。」


 誠心誠意の土下座の後、もう用はないので背を向けて歩き出す。



「星月夜、リアルを現実にしたいんだろう?」


 背から、聞き覚えのあるフレーズに足が止まる。

という事は


「貴方が“管理者ゲームマスター”」

「あぁいかにも。」

  

 信じられない。確か“アルカナ勇者の伝説”は鬼才の若人の集団によって開発されたと聞く。ご老体がいるとは聞いたことのない筈だが。


「……………………」


「無化の剣の切れ味はどうだったかい?」


「…………え、マジ?」


「あぁだからそう言ってるだろう。私が作ったんだからね。」


 唯一俺だけ所持する“剣”の名を当てられ、口が塞がらない。

俺は剣の名前等、公開したことない為、誰一人知るはずがない。


――開発者を除いて。


「ついておいで、案内しよう。」


 そういって、更に奥の部屋へと老人は進む。

慌てて後を追うと。


「――――綺麗だ。」

「あぁそうだろう。」


“アルカナ勇者の伝説”のワープゲートによく似たものだ。

それはオーロラにも虹にも似た幻想的な色をしている。


「入ってみるかい」

「えぇ是非。」


 吸い込まれる様に、手を入れて、足を入れて、全身を入れる。

あぁこの感覚だ、景色が歪みまくってたまに吐きそうになるこの感覚。


「さらばだ若人よ。」


 “開発者”を名乗る翁は、ナイフを取り出すと俺の心臓に突き立てた。


……………………え?

 驚いて、腹部を見つめる。ぽたぽた血が垂れている。


「う、う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「安心しろ星月夜、これであっちに行ける筈だ。」


「あがぁぁぁぁぁ、うぐぅぅぅぅ」


 自分の絶叫を搔き消すように自分の絶叫を重ねる。痛みを飛ばす様に。

そして、もう声も枯れてくる頃。





――俺は意識を失った。


―――――――――――――――


見てくださりありがとうございます。m(_ _*)m

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