白い用紙にパステルカラーを

夢宮 れお

日常の中で

 春の桜、夏の風鈴ふうりん、秋の紅葉こうよう、冬の雪。それぞれの季節には、それを題材とした季語きごがある。移り変わりを感じるのは視覚しかくだけでなく、聴覚ちょうかく嗅覚きゅうかくが存在する。

 

 外を歩けば、生暖かい風が私のほおかすめる。いつしか日めくりを忘れていたカレンダーは、1年前のものだ。今は、なんの季節なのだろう。街の人々を見回してみると、マフラーやコートを着ている。今は、秋か冬なのだろうか。そういえば、私も寒い気もする。気もするというのは、私が大雑把おおざっぱで着れればいいと思っているからだ。

 昔は流行はやり物の服を買ったりしていたけど、クローゼットにしまいこんでいる。スカートやワンピース、学生時代は好んで着ていたものだったけど、今はヒラヒラするのが落ち着かなくてほとんどスラックスだ。化粧も本当に最低限だけ。

「私ってだらしないな」

 ぽつりぽつりと呟く。

 会社へ行って、帰っての繰り返し。家に帰っても「おかえり。」を言ってくれる人はどこにも居なくて、スーパーマーケットで買った、冷えてる惣菜そうざいを暖めてトーク番組を遠目で見る。

 新入社員の時は、会社にあこれがあってそれなりにやりがいを感じていた。教えてくれる先輩も優しくて、期待の新人とも呼ばれていたっけ。でも、いつしかその期待が当たり前になって、自分の首をしめめていた。自分が考えた案が通らなくても、使えない新人が入ってきても、何とか耐えた。でも、もうついに限界が来たのかもしれない。

【もう仕事、辞めようかな。】

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白い用紙にパステルカラーを 夢宮 れお @yumemiya_reo

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