第17話 なんか気になる
放課後になっても継森君は戻ってこなかった。勝手に触るのも……って遠慮はあるけど、今になっても広げっぱなしの教科書やノートが、なんだか物寂しくて訴えかけてくるようなカンジはする。
先生たちの様子から言って、そこまで深刻なことにはなってなさそうかな。
でもでも、お隣さんとしては、明日来てくれるかどうかとか、そういうのは気になるわけで。
「またね、月島さん」
「じゃ~ね~」
「ばいば~い」
帰り支度を済ませ、私は友だちと別れて保健室へ向かった。
ただ、もし保健室近くで「出待ち」してる人がいたら、どうしよ? 同じクラスだったら、「ああ奇遇だね」で済ませられるかもだし、普通に考えれば同じクラス以外の人と遭うはずもないんだけど……
お目当てが、あの継森君だしな~。
この学校へ入ってから、改めて興味を持ってちょっと調べてみて、「継森」ってネームバリューにどんだけ力があるか、ちょっと驚いた。
だからこそ、おうちのためとか、あるいは玉の輿狙いで声かけてんだろうけど。
うちのクラスでそういう動きはなさそうだけど、あったらイヤだなって思う。そういうのに出くわすのもイヤだし……
「情報」を売ってたら、もっとイヤだな。
あ~~~! 何事もありませんように!
祈るような気持ちで少し足早に、私は保健室前へと向かって……
出待ちらしき姿をひとり目撃した。廊下の角に身を潜め、じっとしている。私には気づいていない。
でも、なんだか見覚えのある後ろ姿だった。かなり背が高くて、少しウェーブが入ったミドルロング。豊かというより、モッサリって感じの髪。
この後ろ姿で、まず間違いなくクラスメイトと当たりをつけ、私はその子の肩に手を伸ばしていく。
な~に、違ってりゃそん時はそん時で、上級生ヅラしてはぐらかしゃいいんよ。
「ねえ」と声をかけて肩に触れると、長身がビクンと震えた。私から離れるように前方へ素早く動いたかと思うと、急に反転して向き直ってくる。
そう驚かなくったってぇ……とは思ったけど、出待ちで張ってるところに声をかけられたら、こうもなるかな。
それで、出待ちしてたのは予想通り、同じクラスの金原恵さんだった。
ただ、私に対する反応は予想外で、驚きようは予想以上だったけど、その後が妙だった。一瞬、私に非難がましい目を向けたように見えたけど、すぐに視線を伏せて、なんだか気まずそうな感じに。
正直なハナシ、普段はあんまり目立つ子じゃない。クラスの女子でも、だいぶ背が高い方だけど……むしろ、それを目立たせないように縮こまっているように思えるくらいで。
実際、保健委員としてのお仕事を果たしたのが一番印象があった。
それぐらい大人しくて控えめな金原さんが、こういう反応をしてきたもんだから、なんだか気になってしょうがない。
継森君の見舞いに来たつもりだけど、金原さんも何か事情を抱えているように思えちゃって。
無言の金原さんは、私と視線を合わせようとはしないで……いや、たまにこちらをチラっと見るけど、様子をうかがうとすぐに視線が逃げる。
気になるなあ。
おせっかいなのはわかってるけどで、私は声をかけてみた。
「金原さん。何かあったの?」
普段の調子で声をかけるも、金原さんは何かためらってる感じ。
「わ、私は……いえ、別に」
とは答えたけどさぁ、「別に」ってこた~、ね~でしょ~よ~
「んじゃさ、一緒に帰らない?」
「えっ?」
提案を持ち掛けてみると……う~ん、迷ってるのかな。断るための言葉を探してるようにも見えるけど。
そこで私は、もうひとつの提案を持ち掛けた。金原さんの手を軽く取って、保健室の方に足を向けようと動く。
「じゃあさあ、3人で帰ろ?」
「さ、3人って……」
「継森君、意外と喜ぶかもよ~」
実際、これで喜んでくれたら……嬉しいというよりは超面白いんだけど、まあ宝くじ当たるみたいなもんかな。
で、金原さんは、そういう博打に乗るような子じゃなくて、「ダメダメダメです~」って感じに首を横に振っている。
「じゃ、二人で帰ろ?」
心の中で、「押しが強くてゴメンね~」と謝りつつ声をかけると、金原さんはついに折れて首を縦に振った。
それから二人で駅前のファミレスへ。店員さんに、「お二人様ですか?」と聞かれ、私は腰を低くして頼み込む姿勢を取った。
「できれば、奥の方の席って空いてますか?」と小声で尋ね、さらに声を抑えて「恋愛相談に乗ってもらうんです」とも。
気が利く店員さんは、たぶん女子大生のお姉さんだと思うんだけど、快く案内してくれた。期待通りに奥の方の、他のお客さんとの間に空席がある位置へ。
緊張しっぱなしの金原さんを前に、とりあえずドリンクバーを二人分。後は、金原さんへの迷惑料と店員さんへの感謝も込めて、適当に甘いものをいくつか。
「えっ?」と言いたげな金原さんに、私は「ま、無理言っちゃってるところはあるし、気にしないで」と言った。
それでも気にしている様子だけど、「話に付き合ってもらえれば、それでいいいから」と付け足すと、おごられることについては受け入れてくれるようだった。
オーダーを済ませ、さっそくドリンクバーへ。せっかくだし二人で向かってみるものの、特に会話はない。金原さんの方から話しかけないのは、まあ、当然として。思い思いのジュースを注いで、再び席に。
ストローに口をつけて少し飲み始めたところ、「あの」と遠慮がちに声をかけられた。
「今日は、その……ごめんなさい」
「えっ?」
謝られるようなことには、マジで心当たりがない。むしろ、私が迷惑かけていると思うんだけど……
「声かけてもらったのに、変な態度を取っちゃって」
「あ~、そのことね。気にしてないけど、気になるっていうか……金原さん、どうしたのかな~って」
それを話してもらうために、ここまで来てもらったんたけど、金原さんは黙ったまま。
でも、話してくれる、そういう気はあるみたい。
「話すと、たぶん長くなると思うんだけど……ちょっと待ってもらえる?」
「いいヨーン」
「料理が来たら、きっと話はじめるから」
ああ、店員さんが来て話の腰折れたら……ってことね。
少しすると、店員さんが注文の品をテーブルに並べ始めた。ジェラート、ティラミス、コーヒーゼリー。なんだか興味ありげな店員さんが去ってから、私は「好きなの2つ、ど~ぞ~」と声をかけた。
金原さんは若干迷ってから、ジェラートとコーヒーゼリーを自分の方へ。私に、上目遣いにペコリと頭を下げてくる。
甘いモノ苦手とか言われなくてよかったとか、いまさら思っちゃったりして。
残ったティラミスにフォークを入れると、金原さんがコーヒーゼリーに視線を落としながら、ぽつりと話し始めた。
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