第7話 思いがけないお呼び出し

 最初の告白・・を受け、翌日。

 実を言うと、今日も昨日みたいに何かしらのアプローチを仕掛けられるのでは……そう身構える部分はあった。

 ただ、昼休みは特に何事もなく、この6限が終われば普通に帰れそうな感じだ。


 昨日と変わったことと言えば……俺の方へ向けられる視線が増えたような気がする。気にしすぎであってほしいけど、俺の顔と名前が一致した人は、間違いなく増えていることと思う。


――標的として認識されつつある、というか。


 一方で良い変化と呼べるものもある。あの告白を盗み聞きしていたのは、最終的には二人だけだったけど、実際には共犯的立場の奴らもいて……

 俺が置かれている状況については、みんな同情を示してくれた。

「いきなり、知らない子から告られるのもアレだし、振るのもイヤだよな」と。


 興味本位で首を突っ込んだような奴もいるけど、友人というか理解者が増えるだけ、まだありがたい。

 ひとつ気になるのは、こうした男連中に混じって、学級委員の藤原さんも首を突っ込んでいたとのこと。相川によれば、学級委員として知っておきたいとか、そういう考えがあったらしい。

 当の藤原さんはというと、何か話しかけに来るようなことは特になかった。放課後どうなるかはわからないけど。


 昨日と違い、妙なアクシデントが起きないままに時間が過ぎていく。

――単に、まだ・・事が起きていないだけなんじゃないか。知らないところで、何か動きはあるんじゃないか。そういうネガティブな考えが拭えない。

 時の流れとともに、なんだかやきもきする落ち着かないものを覚える。授業にもあまり身が入らない。


 そうして、放課後がやってきた。

 どうしようか。この後に動きについて考えを巡らせていると、視界の端にいる女の子と視線が合った。何か、おどおどした感じの子が、こちらを見ている。ちょっとモッタリした髪型とメガネが、引っ込み思案な印象を与える、そんな子だ。


 ジッとこっちを見ていて、何かあるんだろうけど……なんだろう? 昨日の今日で、さすがに気になるな……

 果たして、その子は周囲をキョロキョロ見回した後、俺の方へと近づいてきた。

 猫背というか、縮こまるように前かがみ気味になっているけど、実際の背は結構ありそうだ。クラスの女子としては一番高いぐらいかもしれない。

 だからこそ、自信なさそうな様子が際立つ。

「つ、継森君?」と、問いかけてくる声も、どこか不安そうだった。


「生徒会から、継森君に呼び出しが……」


「生徒会から?」


「う、うん。知り合いに頼まれて……」


 知り合いってことは、お兄さんかお姉さんが生徒会メンバーなんだろうか。

 その辺の事情を明かすこともなく、彼女は用事を済ませたとばかりに、「それだけだから」と小走りになって去っていった。


 生徒会が何の用だっていうんだろ?

――「心当たり」がないこともないのが、これまた気乗りしない。

 とはいえ、すっぽかすわけにもいかず、俺は重い腰を上げた。


 放課後の廊下を歩いていても、時折、視線がチクリと刺す。そんな気がする。

 そうした落ち着かない感覚の中、生徒会室の前に着いた。

 こういう特殊な学校の生徒会だけど、絶大な権限とかそういうのがあるわけじゃないらしい。外から中の様子は見えないけど、少なくともドアは普通だ。


 さて。何回か深呼吸をして、意を決し、ドアをノックしてみる。すると、中から「どうぞ」と、ハツラツとした女性の声がした。


「失礼します」


 ドア開けてみると、ひとりの女子生徒が。サラリとしたセミロング、クールな印象を与えてくる、生徒会長の先輩が窓を背にして座っていた。

 確か……金原鈴音先輩だったっけ。


「いきなり呼び出してごめんなさい。緊張してるでしょ?」


「は、はい」


「ラクにしてね。言われても難しいでしょうけど」


 仰る通りで、やっぱり緊張はする。呼び出されたという事実に加え、入学式の場と違って距離が近いことも、胸をざわつかせた。


 もっとも、金原先輩はあくまで気さくな感じだ。近づきにくいような感じはまるでない。

 それに、呼び出されたとはいえ、俺が叱責されるような気配もない。俺は先輩に勧められるままに着席した。


 部屋には、簡素な長机がロの字状に並んでいる。対面の先輩の席には、ペン立てやらマグカップやら。広げられている本やノートを見るに、これは生徒会のデスクワークとかじゃなくて……


「ここで自習していらっしゃるんですか?」


 つい気になって尋ねると、先輩は「ええ」とにこやかにうなずいた。


「相談できる生徒会にしようというのが、公約というか目標にあって……『じゃあ、ここに常駐しましょ』ってなったの。放課後、こうやって自習してるところに、誰かが相談に来るって流れね。勉強とか、恋愛とか」


 それから先輩は、「私自身、恋愛経験なんてないものだから、相談されても困っちゃうんだけど。どういうわけかそういう相談が多くって」と笑った。

 入学式の挨拶では、茶目っ気だけじゃなくて、こういう学校の生徒会長らしい威厳も感じさせる先輩だった。

 しかし、実際にこうして話してみると、普通に話しやすい先輩だ。

 それだけに、どうして俺を呼び出したのかが気にかかる。


「さっそくだけど、本題に入りましょう」


 先輩の言葉に、潮目が変わったのを感じて体が強張こわばる。


「何か、困ってることはない?」

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